極振り好きがテイマーを選んだ場合

第九十二話「ミドリちゃん」

『やっぱりミドリちゃんだ！　もー、どこ行ってたのー？』

『あんたがそこの鳥に誘拐されていったんだろ！　しかも、その鳥がヒューマンの手先だなんて心配したんだからな！』

『えー？　あ、さっきの人！　こんなとこにいたー！　ひどーい、置いてけぼりにしないでよー』

『あ、こら、ヒメ！　近付いちゃダメっ！』

　うわ、最悪だ。気付かれた。

　コソコソと逃げ出そうとしていたってのに、やっぱ《隠密》スキルもなしじゃ無理があったか……！

　どうする。

　今また、ヒメとかいうチンチクリンフェアリーが近付いて来れば“ミドリちゃん”とやらに攻撃される可能性が高い！

「やめろ、こっち来んじゃねえよ、チンチクリン！　フェアリーの里だかに帰ればいいだろ！」

『チンチクリン？　それってもしかしてわたしのこと！？　わー！　新しい呼び方だ！　覚えておかなきゃっ！』

　は？　何言ってんだ、こいつ。

　チンチクリンって呼び方に喜んでんのか。何考えてんだ。

　てか、結局俺のとこまで来てんじゃねえか！

　攻撃が来る！？

　どこからだ、くそ、薄暗くてよく見えな……うん？

『くー、かー、くぇー。……くぁーっ』

『おい、鳥、やめろ！　あんた、あたしがどれだけ頑張って作ったか分かってんのか！　あああ、消すな！　消すなよ！　って、待てこっち来んなー！』

「…………」

『ご愁傷様ですね。くすぐり地獄は生半可なものではありませんよ』

　うわあ、達観したラピスさんがいらっしゃる……。

　って、そうじゃない。どうやら、ハーピーが俺の頭上にあった光の玉を殲滅してくれたようだ。

　まあ、あのハーピーなら当然っちゃ当然な気もするが。

　あれだけの光の玉が集まれば当然、別のところからも目立っていたのだろう。

　光り物の大好きなハーピーが飛んできたのもそのせいか。

　一瞬、助けが来たのかとも思ったが、あいつ自身の欲を満たしたかっただけだな、きっと。

　で、磨かれていたチンチクリンも連れられて俺のところへ来たら、想い人であるミドリちゃんと遭遇ってとこか。

　いいのか、想い人が地獄へ落ちそうになってんぞ。

『おい、離せ！　離せったら……やっ！？　まっ、くっ、あっは、ダメ、やめ……！』

「あ、もう落ちてんな」

『あー！　鳥ちゃんダメだよー！　ミドリちゃん、光の魔法を解いて！　そしたら、助かるから！』

『なっ、ヒメ！？　そんなことをしたらヒューマンに……あっ、この、そんな、まて、くっそ、解除！　解除だ！』

　お、ハーピーの翼の中から光が消えたな。

　そして、またも俺へと舞い降りてくる翼の生えた女の子。

　差し出してくる翼にも既視感。なんでこいつは俺に磨いたものを渡してくるんだろうか。

　そして、その翼の中には……。

『はっ、はあ。この、ヒューマンめ。姑息な……！』

　またしても既視感。さっきもこんなフェアリー見たな。

　あと、俺が差し向けたように言ってんじゃねえよ。

　フェアリーを俺へと渡すとハーピーは標的を残りの光の玉へと変更し、落ち葉を巻き上げながら飛び上がる。

　あれか、包装されたあのプチプチを潰す感覚なのかもしれない。

　雑巾絞るようにすれば一気に潰せると思うんだけどな、あれ。そもそも、目的がよく分からん。なんで潰すんだ。

『ミドリちゃん、大丈夫？』

『はあ、はあ……』

『暫（しばら）くの間、活動は不可能でしょう。物凄い倦怠（けんたい）感に襲われますので』

　うん、なんかごめんな、ラピス。

　三回目はないから。三回目は絶対にしないから。

　それで、どうしようかね、俺を襲おうとしたこのフェアリーは。

　上を見れば、ハーピーによってほとんどの光の玉が駆逐されてしまっている。

　さっき、「あたしが作った」とか言ってたし、あの大量にあった光の玉ははったり（ブラフ）だったようだ。

　あと、あたしってことは女ってことだよな。

　見た目は髪も短いし胸もないから女顔の男だと言われても信じられる。

　髪と服は全て薄い緑色。チンチクリンと同じで翅が生えているが、透明で光の当たり具合によって色が変わってるな。

「お前、女の子同士で好きとか……。いや、別に俺がとやかく言うもんじゃねえが」

『ええ！？　ち、違うよ！　好きな子がミドリちゃんだなんて違うからね！』

『ご主人様（マスター）、性別が片方しか存在しない種族もいるらしいです』

『マジかよ、ラピス姐！　くっそ、フェアリーとか小さすぎんだよ、もっと色々でけえ種族だと良かったのになぁ』

「なんだその生産性のない種族は」

『お、男の子もいるよっ！　せ、せいさんせいとか言わないでよ！』

『ふぅ、くっ、ひ、ヒメを虐めてんじゃねえぞ……！』

　お、復活したか。

　一人で俺達四人へ戦いを挑んだ姫の騎士様だな。

　光の玉を集めるのはいい作戦だったろうが、範囲魔法があれば終わりだったぞ。

『う、うるさい！　作戦のダメ出しなんて望んでない！　ヒメを返せ！』

「どうぞどうぞ。こっちも迷惑してんだ、持ってってくれ」

『えー！　ひどいよー！　帰ったら怒られちゃうからやだー』

『あたしだってヒューマンに見られたし、一緒に怒られてやるからほら、帰るぞ』

　おーおー、そうだそうだ、連れてってくれー。

　姫の騎士様は俺にとっても救世主だったようだ。

　家の人も心配してるだろうし、帰った方がいいって。

「あ、あの、妖精さん」

　ん？　アウィン？

　ああ、そういえば、お別れが言えなかったことを気にしていたな。

　それを考えればまた会えたのもよかったかもしれない。

　おまけで付いてきたハーピーを帰らせることは難しそうだがな。

『あ、ウサくんと一緒にいた子！　なになに？』

『ヒメ！　ヒューマンに近付いちゃ危ないって！』

「ん？　こいつはヒューマンじゃなく、町盗賊だぞ」

『え？　何言ってんだよ、あんた。どう見てもヒューマンじゃんか』

　いや、まあ、確かに見た目はプレイヤーと変わらないが……。

　俺とアウィンのステータスを見比べてみても、俺の種族はヒューマンだが、アウィンの種族は町盗賊となっている。

　……まあ、フェアリーが見た目で判断してるだけだと考えておこうか。

「妖精さんは、わたし達に会いたいと思ってたから来てくれたんですか？」

『んー、もっかい会いたいとは思ってたかも！』

「それじゃあ、わたし達はお友達？」

『もっちろん！　ミドリちゃんもね！』

『ヒメ！　ヒューマンと友達だなんて冗談でも許されないからな！』

『ミドリちゃんは、おばばみたいで固いなー。気にしなくていいよ。言わなかったらバレないし！』

　フェアリーの人間嫌いは相当なもんだな。

　恐らく、ミドリちゃんとやらの反応がフェアリー界では普通の反応なのだろう。チンチクリンがおかしいっぽいな。

　何かあったんだろうか。俺を襲おうとしていた時にもそれっぽいことは言っていたし……。

　でも、プレイヤーはここまで来たことないはずだよなあ。

　どっかのNPCが何かやったとかか？

　それとも、運営の設定？　あのお嬢様のエリー的解釈では、異世界の方で人間とフェアリーが対立してる、とかか。

「えっと、いいんですか？」

『いいよ！』

『よくな、むぐっ！？』

『それで、なあに？　わたしのお友達！』

「ええっと……。さっきはお別れを言えなかったので、もし帰っちゃうならさよならを言いたいなって」

『えー、帰らないよー』

『ぷはっ！　ヒメ！　か、え、る、よっ！』

『むうー』

　チンチクリンがミドリちゃんの後ろに回って口を両手で塞ぐ。

　めっちゃ速かったな。DEX（素早さ）に振ってるのか？

　そもそも、小さいから小回りが効きそうだ。

「帰った方がいいと思うぞ。あんまり遅いとそのおばばとやらも心配する」

『あんたはヒューマンなのによく分かんねえやつだな。あたし達を捕まえようとは思わねえのか』

「特にそんな予定はないな」

『うう……。でもでも、さよならじゃなくてまたねって言うからね！　また会おうね！』

「わぁ……っ！　はい！　また会いましょう！　あ、わたし、アウィンって言います！　あなたのお名前はヒメさん？」

『え？　名前？　ないよ？』