第八十三話「再挑戦」
「さあ、俺は帰ってきたぞ」
『乗り越えるべき敵が遠いとこでカッコつけてもなあ』
『
ここはローツの町北側。
そして、そこへ聳え立つ土色の壁……から十五メートルほど離れた場所だ。
北側へ行くプレイヤーは誰もおらず、近くには
そう。
俺はもう一度崖登りにチャレンジするため、ここへ戻ってきた……!
『崖
『少なくとも、前回は低空飛行をしていただけでしたね。
『いや、成功しても登ってるとは』
『さあ、
『……あー、もう、それでいいわ』
トパーズは何をゴネているんだ。
なるほど、そうか。きっと昨日の今日で崖登りが成功するか不安なんだな。
それで、崖登りではないだなんて意味のわからないことを言い出したのだろう。
確かに、俺もこんなに早く再挑戦することになるなんて思ってもいなかった。
これも
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中級魔術師のローブ 装備(全身)
魔術師がよく身に付けるローブ
魔法の耐性と攻撃の威力が高まる
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俺の姿は白いローブを羽織った怪しさバツグンの格好である。
まあ、この装備着てるやつも多いし、職質されることはないだろう。流行ってる服ってことで。
ローブの下は……冒険者シリーズの装備か?
どうやら、直前に着ていた服が残るようだ。動きやすいし問題はないな。
この装備は前々からMPか
見事に
インフレを感じるねえ。こういうゲームでは当たり前のことだが。
しかし、これだけでは終わらない。
俺が満を持して虚空から取り出したのは、黒塗りの硬そうな
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胴台 (カスタム) 防具
木を削って作った胴台。
動きが阻害される。
カスタム
大量の丸鷹の羽が裏地に
使用されている
衝撃が伝わりにくい
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あ、胴台っていうのか、これ。
繭に昨日依頼したものがこれだな。
剣道の防具で腹辺りを守ってるやつあるだろ?
あんな感じのイメージで作ってもらったんだが、再現度たけぇな、おい。
繭の説明書では、実際の戦闘で使うのはオススメしないって書いてんな。
簡単に壊れてしまうのが理由だそうだ。
トパーズの突撃を受けるための装備だから問題は無い……はず。
味方からの攻撃でダメージは食らわないが、装備は壊れてしまった。なんてことになれば、フレンドリーファイアが無効である意味が無いからな。
でも、衝撃は伝わるんだよなあ。試してみないことには分からないか。
そして、説明文には書いていないがもう一つ、繭にカスタマイズしてもらったことがある。
胴台の真ん中にぶら下がる小さな鉄球。
恐らく、これが崖登りの重役を担うことになるだろう。
あと、丸鷹の羽はユズとケンが集めてくれたらしい。後でお礼を言っとけって説明書に書いてある。
……これは、もし壊したらめちゃくちゃ怒られるやつだな。
壊れたらしばらく黙っとこう。
『……えっと、その、
『はっははーっ! ちょ、だ、旦那それやべぇ! やべぇって! だっさ! その組み合わせはダサすぎんだろ! 腹痛てぇ! よじれる!』
「誰かに見られてる訳でもねぇんだ。見た目よりも機能優先だろが」
そうだ。機能を優先することの方がよっぽど合理的。効率化にも繋がる。
だから俺は間違っていない。恥ずかしがることなんてない!
白ローブに剣道の胴防具を付け、腰には禍々しいムチと袖からチラッと黒光りした腕輪が覗くスタイルだったとしてもいや待ってやっぱすっごい恥ずかしい。
さっさと崖を登って、せめて胴台だけでも外そう!
「よし、行くぞトパーズ。上がった
『おうよ! なんか知らねえが、これ付けた時から突撃したくてたまんねえんだよ! ちゃんと持っとけ、振り落とされんなよ!』
「あ、その前にほら、“サバイヴミートの串焼き”だ。食っとけ。
『……旦那って、意外と鬼畜だよな。これをオレに食えってのか』
何言ってんだ? 普通に上手い串焼きじゃねえか。
さっき、癒香から買い足したものはこれだ。
肩から飛び降りたトパーズの角を
うわ、しゃがみにくい。胴台、邪魔すぎんだろ。
トパーズの角は一回り太くなっている。トパーズの装備、
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初級合金三角錐 特殊
ホーンラビットの角で型どりした
殺傷能力の高い三角錐。
着脱が可能となっている。
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さすが、まだ出回っていない合金装備。破格のプラス値だな。
ただ、その分重くなり、
素早さはいいが、器用さのマイナスがどこまで響くか、怖いところだ。
「ラピスも頼むな」
『お任せ下さい。必ずや、
前回の反省点としては、周りを見ていなかった、というより見れなかったこともある。
そんな余裕は皆無だ。どう考えても無理だ。
そこで、着地の時に助けて貰おうとしていたラピスにもう一つ、役目を任せることにした。
と言っても、やることは簡単。吹き飛ばされて、衝撃と幻肢痛により余裕まで吹き飛ばされた俺の代わりに周りを見てもらうってだけ。
ラピスの声を聞く余裕があるかも分からないし、伝え方としては、崖のある方へ俺の頭を移動して貰おうと思っている。
今は、俺の左こめかみ辺り。このまま動かないでいてくれると楽なんだが、多分そんなことにはならないんだろうな。
「よし、それじゃ、トパーズ。三、二、一で跳ぶぅぞぉぉおおおっ!?」
この野郎、タイミング違ぇよ!?
急に跳び上がるなよ! 心の準備ってのがあんだろが!
とりあえず、落ち着け俺。
別に失敗したところで何の問題もない。緊張する必要もないんだ。
ただ、ちょっと高いとこから落ちるだけだろ。大狼に腹を食い破られたり、骸骨の闇へ呑まれたりすることと比べればこのくらい!
飛び上がって速度が落ち始めた頃合でトパーズを引き寄せる。トパーズの足は俺の腹、今は胴台のある部分に当てといてっと。
胴台に付いている鉄球の紐は、飛び出してから伸びきっていたが、速度が落ち始めることで徐々に緩み始めた。
……よし、真っ直ぐ俺の腹へむかって鉄球が浮き上がって来ているな。
つまり、重力が横方向に掛かっている訳ではない。今は、真っ直ぐ空へ向かっているか、地面に向かっているかのどっちかってことだな。
目の前は土色。これが崖ならば、ラピスが顔にひっつくはず。
したがって、俺の見ているものは地面! このままトパーズが俺を蹴り飛ばせば真上に上がっていくはずだ!
「速度がゼロになる直前で……。今だ、トパーズ! 《土種》! ごほっ!?」
昨日と同じように、トパーズの額へ重い土種を出現させてトパーズから受ける力を増幅させる。
しかも、俺の体ではなく、硬い胴台へトパーズの力が伝わったことで、衝撃が吸収されることもほぼ無い。
より高く蹴り飛ばされたはずだ!
ただ、胴台の縁部分に当たってるとこが痛い!
内臓ぐっちゃよりも遥かにマシではあるが、それでも痛いもんは痛いぞ!
だが、これぐらいなら耐えられる。少しは余裕ができそうだ!
「ラピス! 聞こえるか!? どれだけ上がった! 地上からの高さは幾らぐらいだ!?」
『現在、上昇中です。高度は、
「俺六人分!? 何メートルだよ!」
『めーとる……とは、何でしょうか』
そうか、ラピス達はメートル法を知らないのか!
それは後で教えとくとして、俺六人っつったら俺の身長が百六十……いや、違う。ちょっと背を伸ばしたから百七十二センチとかそれぐらいだ!
ってことは、十メートルと三十二センチ! 半分ほど登れたか、いいペースだな!
鉄球はまた慣性の力によって紐の伸びきった状態だ。
ここから緩んだ時にぶれる方向が鍵となる!
俺の頭の方へズレた!?
ってことは、崖に向かって右側へズレてるのか!
ラピスは左こめかみから動いていない。
崖から離れた訳ではないな!
「《リコール》!」
空中で体の向きを変えることは難しい。
軌道修正には、トパーズから受ける力の向きを変えるしかない!
少し、頭から足の方へ力が向かうようにトパーズの出現位置を調整。
受ける力は少し減るだろうが、仕方ない。
よし、ここだ!
「《土種》!」
いってぇ!?
胴台が腰骨にくい込みやがった!?
だが、これで軌道修正は……。
『
「なっ、マズい!」
ラピスが左寄りの後頭部へ移動した。
つまり、俺達は今、侵入不可区域へ近付いている!
「《リコール》! 今すぐ蹴れ! トパーズ!」
『お、おう!? よく分かんねえが、おらあっ!』
左脇腹へ出現させたトパーズにすぐさま蹴り飛ばさせる。
これで崖から離れることはできたはずだ。
ラピスが左頬へくっつく。
俺の目にも、崖と地面の境目が見えているな。
『ああ、
「ラピス、高度は!?」
『さっきよりも、
ってことは、十七メートルと二十センチ!
よし、このまま崖の上を狙って飛ぶ!
「《リコール》!」
今は、崖から離れるように飛んでいるはず。
確かに上昇もしているだろうが、崖の上が目的地なら、結局距離は離れていってしまう!
ならば、すぐに軌道修正だ!
崖の上で、飛行可能モブが動けなくなるとは考え辛いし、崖近くでは侵入不可区域はなくなっているはず。
大体の目安で飛んでも、大丈夫なはずだ!
「思いっきりいけよ、トパーズっ!」
『おっしゃ、任せとけってんだ!』
今度は右脇腹の背中側へトパーズを出現させる。
恐らく、この角度なら崖の上へ到達できる……!
「やれ、トパーズ! 《土種》!」
うおおおお、進行方向が真正面になると、風をモロに受けてしまう!
顔の肉が今、凄いことになってんじゃねえか!?
「おお、やっとおさまった。速いと喋ることもできねぇな」
ラピスは今、アゴの辺り。角度的にはいい位置だ。
崖の頂上が見える。どんどんと近付いているのが分かる。
だが、予想以上に崖から離れていたようで、少し距離が足りない!?
「《リコール》!」
MPの残りを考えればすぐに《リコール》を使うことはできないな。
だが、これで登りきれるはずだから問題はない。
「ラストだ、トパーズ! 蹴り飛ばせ!」
背中へ呼び出したトパーズへ指示を出す。
さすがに、見えないトパーズの額へ土種を出すことはできないが、トパーズの力だけでも登りきるのは余裕だろ!
背中へ衝撃。
またしても加速する身体。
崖の頂上が迫り、そして、視界が開けた……っ!
「……え?」
だが、そこで見えたものは想像していた台地などではなかった。
崖を登って、五メートルほど進めばまた崖。
崖の頂上は城壁の頂上のように狭いもの。
さっきまで見ているものは台地の端である崖だと思っていた。
だが、違った。
登ろうとしていたのは幅五メートルもない、土壁だった……!
「……おい、おいおい、待て。待てよ。ってことは!?」
俺の身体は壁なんて余裕で通り越し、そのまま壁の向こうへ落下。
途中でトパーズに蹴り落としてもらおうにも《リコール》で呼ぶだけのMPもない。
『
「分かってる! 崖っつうか、壁を超えたことだろ!?」
『いえ、どうやら縄張りを通過してしまったようですので』
「縄張り!?」
そういえば、さっき壁の上に建物と鳥が何羽もいたような……。
『ギキャァーっ!』
『ハーピーの群れです』
「ふっざけんなぁぁーっ!」
二十メートルの高所から落下中。
しかも、ハーピーとやらの敵モブにも狙われている。
MPは徐々に回復しているとはいえ、風圧で満足に体を動かせないこともあり回復薬すら飲めない有様。
こんなもん、どうしろってんだよ……っ!?
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プレイヤー名:テイク
種族:ヒューマン
ジョブ:テイマー(Lv.27)
HP 1000/1000
MP 770/5980 (used 36)
ATK 10
VIT 10(+30)
INT 10(+55)
MIN 10(+30)
DEX 10(-28)
スキル
《鞭》Lv.1
《火魔法》Lv.1
《水魔法》Lv.1
《土魔法》Lv.1
《風魔法》Lv.1
《光魔法》Lv.1
《闇魔法》Lv.1
《HP自然回復》Lv.6
《MP自然回復》Lv.1
《即死回避》Lv.1
《魔法複数展開(Ⅱ)》Lv.☆
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モンスター名:ラピス
種族:マルチスライム(Lv.22)
HP 800/800
MP 251/251
ATK 3
VIT 9
INT 2
MIN 237 (used 22)
DEX 1
スキル
《粘着》Lv.1
《吸収》Lv.1
《分裂》Lv.5
《擬態》Lv.1
《物理攻撃無効》Lv.☆
《被魔法攻撃5倍加》Lv.☆
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
モンスター名:トパーズ
種族:ホーンラビット(Lv.22)
HP 2910/2910
MP 20/20
ATK 239(+40) (used 22)
VIT 5
INT 2
MIN 2
DEX 6(-10)
スキル
《跳躍》Lv.5
《気配察知》Lv.1
《採取》Lv.1
《ハウリング》Lv.☆
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