ただの僕らの夏の夢

vegele

第1話 アイスは溶ける

 茹だるような暑さの夏。

 今年の夏は、例年より暑い。...らしい。


 正直なところ、俺はその暑さを知らない。このところ何日も外に出ていない。

 理由を聞かれれば、何と言うか。端的に言えば、俺は所謂、引きこもりというやつだから。いや、答えになっていないか。


 現在の時刻、午後5時38分。

 学生の帰宅時間らしく、窓の外には学生が行き交うのが見える。


 暑そうに、怠そうに、眠そうに。

 俺はそれを、クーラーがガンガンに効いた部屋で、アイスを食べながらぼんやりと眺める。


 その中で知った顔を見つけ、俺はすぐにカーテンを閉めた。


 いつの間にか、こんなにも臆病になった。今頃、あの中に俺がいたかもしれないのに。そんな現在だって、あり得たかもしれない。


 登校しなくなってからすぐは、夢を見ていた。自分が学校に行って、勉強をして、友達と話して。そんな、馬鹿みたいに平凡な夢を。


 でも、今となってはそんな夢どころか、夢自体見なくなった。きっと、夢の材料すら、こんなつまらない俺の毎日にはないんだろう。


 放っておいたアイスが溶けていく。こんな涼しい環境でも、コイツにとっては厳しいらしい。

 俺も、同じかもしれない。こんなにも生温い環境で、俺は上手く生きられていない。温室で生まれ、温室で育っているくせに、温室ですら生きられない。もっと厳しい環境に入れられれば、すぐに枯れていくだろうに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る