ヘラジカの恩返し

けものフレンズ大好き

ヘラジカの恩返し

 今日も川を渡れないフレンズのために、渡しをしているジャガーちゃん。

 しかし、今日のお客さんはいつもと違うようで……。


「というわけで来た!」

「ええー……」

 川にいるジャガーちゃんを見下ろしながら、ヘラジカちゃんは堂々と胸を張って言いました。

「ゆうえんちで言っただろう、勝負しようって。お前がいつまで経っても来ないから、こっちから来てやったぞ!」

「いや、アタシは勝負するとは一言も言ってないんだけど……」

「いざ尋常に勝負!」

 ヘラジカちゃんが構えます。

 ヘラジカちゃんは一向に話を聞きません。

 ジャガーちゃんは本当に困っていまいます。


「なになにーどうしたの?」

 騒ぎを聞きつけて、いつも楽しいことを探しているカワウソちゃんがやってきます。

「ジャガーと私でこれから勝負をするんだ」

「へーすごーい! たのしそー! それで何で勝負するの?」

「それは決めてない!」

 またしても自信たっぷりにヘラジカちゃんは答えます。

 基本的にヘラジカちゃんはノープランで生きています。

 実は今回も思い立った瞬間誰にも告げずに来たので、へいげんちほーの仲間達は現在大騒ぎ。


「いやだから……」

「じゃあ水泳勝負!」

 カワウソちゃんも本能が命じるままに、後先考えずに言いました。

 ヘラジカちゃんもカワウソちゃんも、思考回路は大分似ていました。

 ジャガーちゃんの苦労は増えるばかりです。

「ぬぬぬ……実は私は泳いだことがないんだ。というか、へいげんちほーには泳げるような場所がないから、泳げないというより、そもそも泳げるかどうかすら分からない」

「へーおもしろーい!」

「しかし勝負を挑まれたからには、逃げるわけにはいかん!」

「いや、私はそもそも勝負なんて挑んで――」


「いざ!」


 ヘラジカちゃんはやっぱり深く考えず、思いっきり川に飛び込みます。

「おお、なにか普通に泳げたぞ!」

 すいすいと川面を移動するヘラジカちゃん。


 実はヘラジカはもともと泳ぎが得意な動物だったのです。


 しかし、フレンズの時と動物の時では勝手が違います。

 準備運動もせず、慣れない水の中に入ったことで、

「もがもが!」

 足を吊って溺れてしまいました。


 泳ぎが得意なカワウソちゃんは何かの遊びだと思い込み、ワクワクしながら様子を見ています。

「いわんこっちゃない!」

 一方すぐに状況を察したジャガーちゃんは慌てて川に飛び込み、川底まで沈んで苦しんでいるヘラジカちゃんを引き上げます。


「……ぶはぁ!」

「少しは考えてから行動した方がいいよ」

 ヘラジカちゃん、危うくおぼれ死ぬところでした。

「ありがとう!」

「いや、まあ、当然のことをしただけだから」

「この恩は何があっても返さなければならないな!」

「いやいや、だからそこまでしなくても……」

「具体的に何をして欲しい? できる限りのことはするぞ」

「それじゃあ――」

 「帰ってほしい」と言う本音をギリギリで飲み込み、ジャガーちゃんは別の頼みを考えます。

 ヘラジカちゃんやカワウソちゃんと違って、ジャガーちゃんはそれなりに考えるフレンズでした。


 それでも分からないときはあります。


 残念ながら今回のケースもそれでした。


「えー……別に今の生活に満足してるし、して欲しい事なんて全然思いつかないけど……」

「じゃあジャガーのお仕事手伝ったら? 二人いればもっと便利だよ!」

 カワウソちゃんがまたしても本能のままに言います。

「それだ!」

「それだって、さっき溺れたばっかりじゃ――」

「じゃあ地上だ!」

「わー楽しそー!」

「えー……」


 こうしてヘラジカちゃんのタクシーのようなものが始まったのですが……。


「うおおおお!!!!!」

「わーい!」

 落ちていた廃材を荷台にし、ヘラジカちゃんがそれを全速力で引っ張ります。

 乗っているお客さんのカワウソちゃんはとても楽しそうですが、その安全性は限りなく0に近そうです。


「ああ!?」


 案の定ジャガーちゃんの見ている前でカワウソちゃんは振り落とされ、そのまま川に落ちます。

 水切りの石のように水面を飛ぶカワウソちゃん。

 ジャガーちゃんは心配で駆け寄りましたが、


「たーのしー! もっかいやりたーい!」


 大丈夫そうでした。


 それからジャガーちゃんは、ヘラジカちゃんが戻ってくるのを待っていましたが、結局日が暮れても帰っては来ませんでした。


「……まあいっか」

 

 ジャガーちゃんは何もなかったことにし、また日常に戻っていきました……。


 それからしばらくしてへいげんちほー――。


「わはははは!」

「ああヘラジカ様!? どこに行ってたんですの!?」

「みんな心配したでござる」

「ん? ああ、へいげんちほーに帰ってきたのか。いや、ジャガーと勝負しにじゃんぐるちほーまで行って来たんだ」

「当然勝ったんですよね?」

 アルマジロちゃんの言葉にヘラジカちゃんは首を振ります。

「いいや完敗だった。勝負するどころか助けられてしまったからな。今度はちゃんと勝負したい」

「へぇ。ところでその後ろにあるものはなんなんですぅ?」

「これか? これは……知らん!」


 勝負のこと以外は綺麗さっぱり忘れたヘラジカちゃん。

 ジャガーちゃんの苦労はまだまだ続きそうです。


                                  おしまい



「ええ~!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヘラジカの恩返し けものフレンズ大好き @zvonimir1968

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ