064 古代文明の遺産
気になる物は柵を作った後の堀にある。そのためには柵を乗り越えなきゃいけない。だってまだ柵に門を付けてないから。
ホバリングを起動して柵を乗り越えようと思ったとき、アラン様に呼び止められた。近くにはセレッサさんもいる。
「何か有ったのか?」
「実はさっき柵を作ったときに気になる物があって、確認しようかと」
「そっか、じゃぁ俺も一緒に行こう」
アラン様はキャンプ地設置を手伝わないのかな? と言おうとして思いだした。今アラン様は片手なんだった。
となると僕がホバリングして捕まってもらうというのも難しい。
それなら柵の一部を一回壊して作成しなおそう。
「分かりました、ではここを一回壊して」
鉄のように堅くなってる柵だけど、僕自身が壊す分には簡単。何せ作った本人だし、こんなこともあろうかと一定範囲毎にキーワードを設定してる。キーワードといっても呪文を唱える物では無くて、特定のイメージを流し込む形にしている。だから、キーワードというよりはキーイメージという方が正しいかも。もし誰かが壊そうとしても簡単にはいかない。僕のエーテルを真似た上で、キーイメージを流し込む必要がある。
キーイメージを流し込まれた柵の一部が、ドサリと音を立てて土の山に戻った。
「お、中々便利に作ってるじゃねぇか。キーイメージとお前自身のエーテル反応を利用してるのか」
「そうです。しかし、見ただけで分かるんですか?」
セキュリティを強化した方が良いんだろうか? 簡単に見破られちゃうのは想定外だなぁと思ってると、
「一応教授なんだぜ? 普通の術者じゃ分析出来ない事も俺様に掛かっちゃ朝飯前だ」
「なるほどー、ではキーイメージは分かりますか?」
「そいつは無理だな。出来ねぇわけじゃないんだが、お前がキーイメージを流し込むときにお前や柵に触れているとかしねぇと」
「じゃぁ滅多なことではやられないのですね」
「ま、そういうこったな」
ちょっと一安心
「ところで、この術はどこで学んだんだ?」
「前世の記憶と魂倉の管理人からです」
「ほんの少し会わない間にこんなのまで使えるようになるとはなぁ。大学の学生達がガックリきそうだな。くくく。まぁ最初に泡倉で術を使ったときも中々の物だったから、これくらい当たり前かもなぁ」
後は、魂倉の部屋で練習するときにはほとんど時間が経たないからね。魂倉の中でしっかり勉強して練習しても、外ではほんの数分という感じだし。
「では行きましょうか。こっちです」
柵を出て、堀の中に入り、皆を案内する。ほんのちょっとだけ歩くと、目指すポイントについた。
一見すると、周囲と何も変らないように見える堀だけど、この辺りで違和感があったんだよね。地のエーテルを練り、違和感があったところの土を掘る。掘ると言っても自分の手では無くて四大術でなんだけど。
避けた土を地上に放り出して行くと
「ん? なんだこりゃ、土の下から……。あれは……」
何やら円筒形の物が出てきた。直径は1.5m程。長さは5mほど。材質は……なんだろう? 木では無さそうだけど、土を固めて焼いた物? レンガじゃないね。
「土管だな。お、あそこから中を覗けそうだ。うまくすりゃ良いもんがあるかもしれん」
「いいもの? どういうことです? それにこれは誰が埋めたんでしょう?」
「ん? あぁ」
隙間の方に行こうとしてたアラン様。こっちを向いてこう言った。
「グレートリセットだ」
「グレートリセット……?」
「あぁ。幻魔大戦の最後、今は名を失った母神が起こしてしまった『
「……」
「古代文明があった当時、地にはどこまでも都市が続き、人の居ない地はなかったという。しかしグレートリセットによりほとんど土地は原野に還った。それがグレートリセットだ。だけどな。不思議な事に、ときどき遺跡として当時の物が出てくることがある。この土管もそれだ。
俺の専門は一応古代文明の研究となってるんだが。こういう土管は都市の地下を走り汚物なんかを処理施設に流す為のものだったらしい。たまに中に当時の落とし物が残ってることがある」
「汚物、ですか?」
「あぁ。あ、大丈夫だ。もうグレートリセットから400年以上経ってるんだ。中の汚物はただの砂になってる」
「世界中にこんな遺物が残ってる可能性があるんですか?」
「あぁ、そうだな。色んな所を掘ったりすると出てくることがある。
そうそう。アレハンドロなんかのでかい街や王都なんかの壁は遺物だぜ。王都の壁はとても頑丈で、今の技術で作るとしたらとんでもない金が掛かる。
もちろん、この柵みたいにサクサク作るわけにもいかねぇ。あの壁一つ見ても古代文明ってのがどうして幻魔に対抗出来なかったのか分からん。もし今幻魔の大攻勢があったらあっという間に俺たちは滅んじまうだろうな」
「この土管もその遺物の一つ、ですか」
「そういうこった」
グレートリセットか。確かに古代文明は地を覆うくらいに栄えていたと聞いたことがある。でも今の僕たちの回りは森ばかりだ。森を通っても古代文明の跡地は見たことが無い。そういう現象が起きたのだったら納得いく。
「おい、クソガキ、面白そうなもんがあったぞ、ちょっと見て見ろ」
ぼーっと考えてた僕にアラン様が声をかける。いつの間にか隙間から奥をのぞき込んでた。そこを代わって貰い中を見る。中にはアラン様がつくった灯りがぷかぷか浮かんでた。土管の底にみえるのは、キラキラと輝くボール状のものが10個ほど?
「ガラスのボール?」
「いや、あれはスライムだな」
「スライム?」
「そうだ。古代文明では改良したスライムを使ってし尿処理をしてた。まぁ要は出た物をトイレから土管で処理施設に流し、そこをスライムが食って肥料に変えてたんだ。そのスライムの卵だな」
「卵、ですか?」
「そうだ。環境が厳しくなると、スライムはあーして卵になって耐える。また環境が良くなると卵からかえるんだ。王都でも一部で使われてるんだが。上手く世話をしないと死んじまうデリケートな奴でもある。コツがあるらしいが……」
ふーん。ちょっとずるいけど聞いてみようかな。
『ロジャー、セニオ、心当たりはある?』
『ちっと分かりませんな』
『泡倉の屋敷でもスライムは使っております。担当の者に聞いておきましょう』
『ありがとう。助かる』
やっぱり泡倉の方では使ってるんだ。僕の前世は古代文明の人なんだし、そうじゃないかと思ってたんだけど。しかし、コータローさんって何者だったんだろう。あんな大きな泡倉を持ってたんなら、きっと有名な人だったに違いないと思うんだけど。
「アラン様、泡倉の方で心当たりがありそうなので調べて貰います。なので、ちょっとこのスライムを使った村づくりを考えてみませんか?」
「おう。面白そうだな、やってみな。俺はこの手をどうにか出来ねぇか色々試したい」
「えぇ、なるべくお手を煩わせないように頑張ってみます」
「頑張れよ。あぁ、後、また泡倉の物をもらえるか? 鉱石なんか有ると良いんだが。もちろん金は払う」
「分かりました、後で泡倉の部下に聞いておきます」
土管の前後をより深く掘ってみる。土を避けていくと、中に入れるようになった。僕の身長だとまだ立って入れる。
「これが……」
土管の中に入り、手元に灯りを作る。ふわふわと鬼火がきらめく。灯りの術理具で使ってる冷たく青白い炎だ。
そうして土管の底を見ると、スライムの卵があった。
手に取る。表面はガラスのようだけど、それほど硬くない。ぐっと握るとむにゅっと形を変えた。下水処理のための改良されたスライムなんだから、水につければ戻るんじゃないかな。とりあえず、集めて泡倉に入る。僕のための倉庫というか小屋があるので底に放り込んでおいた。
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