042 参入者へ4

 さて、えいやっ! と、飛び込んでバッタバッタと切り裂くことも可能だけど、それではもしかして、ということもあるわけで。

 策を弄しましょうかね。


「クリエイトシャドウ。 1体 30m 匂い付き 音付き」


 パラメータを付けて起動すると、僕とゴブリン達の間にある茂みに人の気配が生まれた。僕のエーテルを直接流し込んで、匂いと音も付けている。でも、見た目は何かぼんやりした影。

 ようは囮だね。

 じゃれ合ってた元気なゴブリン二体が、おっかなびっくり茂みに歩いて行く。手に持ってるのは柄の折れた槍とぼろい鉈、かな? 多分。

 さて、次。

 泡倉から20cm程の長さの妙に細い投げ矢を3本取り出す。鈍い色をした投げ矢は、金属製。矢羽根もね。普通なら投げられないから、注文したときは装飾品かと思われたみたいだね。

 さてこれを僕の前に浮かべて、矢尻の後ろに思い切り圧縮した空気を置く。

 ゴブリン二体は何も疑う事無く、茂みに近づく。足を止める。

 風もないし、上手く行くはず。

 二体は顔を見合わせ、茂みに折れた槍を……

 上手く……


「ギーー!!」

「い、いけ!」


 一瞬ためらった僕は

 ゴブリンが叫び

 反射的に投げ矢を

 ボリッと音が

 ゴブリンの背中に噴水

 赤い白い

 ゴブリンはたおれ……

 どうしよう、ぼくはぼくh


「ギーー!!!」


 その声にはっとすると、崖の穴の二体が立ち上がってる。今準備の出来ている投げ矢は1本。咄嗟に発射すると、立ち上がりかけたゴブリンの一体の太ももに刺さった。

 残った一体は僕の場所が分からず、その場でギーギーと叫ぶ。


「っ行くぞ! ホバリング!」


 村に来るときの比じゃないスピードと爆音。僕は隠れ場所から飛び出すと泡倉から片手槍を取り出す。立ち上がり叫ぶゴブリンの元に一気に滑り込む! 反応できないゴブリンの胸に穂先を埋め込み、通り過ぎた。


「残り一体!」


 生き残ったゴブリンは弱々しく声を上げ、うごめくばかり。僕と戦える状態じゃない。でも討伐しなきゃ。

 ホバリングの状態からゴブリンを見下ろしていると、僕は両手両足共にガタガタと震えているのに気づいた。何時間も鍛錬した後みたいに震えてる。息も荒い。

 白兵戦で格好良くって思ってたんだけど、無理だね。


 酷く冷静に投げ矢を取り出すと、その場からたたき込んだ。近づきたくなかった。

 ほんのちょっと、返り血が足に掛かった。


 ホバリングを解除し、へたり込む。

 初めて人型の何かを倒した。

 人によっては吐いたり、異常な行動を起こしたりすると聞いたけど、僕はそうじゃなかったようだ。

 それはそれで冷血なようで嫌なんだけど。

 ただ、酷く消耗した。疲れたと言うより消耗したと言うのがぴったりくる。


 コップを取り出し、冷えた水を出す。勿論四大術でね。甘いモノを持ってくれば良かったなぁ。

 5分もすると一息ついた。

 立ち上がろう。まだやらなきゃ行けない事がある。


 魔物にも魂倉がある。肉体が死んでも魂倉が残っていると、復活する事もあるそうだ。肉体に依存していると滅多にそうならないそうだけど。

 そして肉体から離された魂倉は、特殊な処理をされ、術理具の材料になる。残った肉体は魔物からただの肉になり、瘴気をまき散らす事はなくなる。

 冒険者組合から討伐依頼を受けた場合には、魂倉がその証明になるし、分解しきる前に採取した特殊な部位は、魂倉と同じような加工をする事によって様々な物に使われる。


 魂倉をかっさばかないといけないんだよね……。

 腰に差した短剣を抜き、ゴブリンの下腹部に刃を刺す。


「くっ、臭い」


 思わず吐きそうになったので、慌てて距離を取る。

 僕からゴブリンの方へ強風を吹かせて、採取を再開。


「あー、これ、かな?」


 内臓の中に埋まった魂倉を傷つけないように取り出す。


「……うえー、きたない……くさい……」


 風を流しても多少は臭い。どんだけ臭いのゴブリン?

 水をじょぼじょぼじょぼーーーーっと流し、手と短剣と魂倉を洗う。後三体有るのだから後でまとめて洗えば良かったんだろうけれど、だってやだもの。


「なんとか、遠隔で取り出せないかな……。うえええええ」


 ブツブツ言いながら魂倉を取り出していったんだよね。最初にぶっ飛ばした二体も魂倉残ってて良かった。肉片と一緒にシャワーになってたら探すの大変だったよ……。


 戦闘自体は1分もかからなかったのに、後始末は30分以上掛かった。うえええ。夏の暑苦しい空気、蝉の声、ゴブリンの血肉の匂い。もうほんとたまらないよ。助けて欲しい。誰だよ、ソロでやろうとか言ったの。


 はぁ。

 幸いなのは、ゴブリンには採取部位が無いところだね。もっとも。もし採取部位があっても放棄しただろうけど。


 くさーい。


 何かコータローライブラリに無いか探すよ。次の依頼までの課題だね。

 周囲の土を集めて、ゴブリンの死体をざっくり隠す。2日もすれば死体は消えるんだけど。ちょっとだけ匂いを隠したかっただけで。気分の問題で余り意味は無い。野生生物が掘り返そうと思えばあっという間。まぁでもいいさ。その場に僕はいないだろうからね。


 身を隠す必要も無くなったので、ホバリングでさくっと帰還するよ。

 まだ手足の力がちゃんと入らないしね。これで襲われたら死んじゃう。

 さっさと戻ろう。

 なんか疲れたよ……。


 村の周辺に到着したのはまだ11時前。ホバリングのままで帰るとびっくりされるだろうから、歩きに切り替える。まぁ狩人の人達にはバレてると思うけどね。

 余りに早い帰りに、村の人達は不思議な顔をしてたよ。

 僕が革袋から魂倉を取り出してみせると、大騒ぎになった。


 黒剣団の皆さんとフラム様は遅れて到着し、僕がもみくちゃにされてるのを助けてくれた。

 ホント助かったよ。うちの娘やるから、とか言われても僕6才だし。結婚無理なんですよ、といっても信じてくれないし。タブレット見せても字を読める人居ないし。

 もうほんと大変だった。

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