021 村人になる2 術士の需用

 マルコ様に頂いたアドバイスは、『驚かせるべきだが、壁を作られては駄目』だ。

 村の四大術士はマリ様だけ。過去、街で暮らしていた人は、ある程度四大術士を知っている。

 適度に目を引き。でもやり過ぎない。

 考えているうちに、やることは決まった。


 広場の北の方を指しながら、団長のイノセンシオさんに声をかける。勿論、人が居ないのは確認済み。その辺りは、青々とした草が僕の背丈以上に伸びていて、ところどころ低い木も生えている。ちょっとした密林だ。


「では、あちらに術をかけます」


 数回、四拍呼吸を行う。

 今できる最高効率で魂倉にエーテルを入れ込む。

 最初の時のようなエーテル漏れはしない、つもりで。僕は想定したエリアに両腕を突き出し、気合いを入れて叫び腕を頭の上に上げる。あー、ちょっと、いや、結構漏れてるかな? 金色の光が目に入る。僕もまだまだ。


 最初は、闇。

 僕が指さした辺りは、真っ暗闇に覆われた。

 高さ5m一辺20mの四角い闇の箱。

 最初に闇を使ったのは、今日は闇の日だからと言うわけじゃ無くって、闇の術が珍しいから。目論見通り、周りから「なんだありゃ!」だの「真っ黒になっちまったぞ!」「光ってる!」と大好評みたい。あ、闇だけだと地味なので、所々表面に光を這わせています。

 しばらくすると、闇が晴れ中の様子が見える。やっぱり皆びっくりしてくれたようだ。

 何故って?

 だって、そこにあるのは立派な作りの舞台だから。草ぼうぼうだけどね。

 周りの地面から50cmほど持ち上がった、一辺20m程の四角い舞台。闇で覆ってる間に地の術で整備したんだ。あ、さすがにこれは僕の力だけじゃ無理なんで、ロジャーおじさんにも手伝って貰ってます。

 ここまでは従来式の四大術だったので、ちょっとスローペース。今、思いついただけの即興だからね。ただ、面白いから後で呪文書に書き加えておこうと思う。

 そんな事を考えながら、次。

 魂倉の方はまだ大丈夫。

 呪文書から、火の呪文を喚起。

 引数に「視線誘導、400、小規模、火柱」と放り込み発動。ごそっと魂倉からエーテルが抜け、立ちくらみのような感覚に耐えて20m四方の舞台に均等に火球を落とす。

 同時に爆発音と3m程の火柱が立ち上る。

 ちょっと音が大きすぎた。ロジャーおじさんから「坊っちゃん、やり過ぎでさぁ。若手が何人か座り込んでしまってますぜ?」とのこと。

 火柱も派手だが直ぐ消える。

 しかし、火勢は衰えない。何故なら一面に生えていた草木が轟々と燃えさかっているから。青いままの草木が、こんなに勢いよく燃えることは無い。術ならではの現象に、驚くのかと思いきや、火を消そうと血相変える人が居る。

 その人の鼻先に、ふわりと白い物が舞い降りた。

 雪だ。

 舞台と、それを見る自警団の人の上にだけ降り積もる雪。

 走り出そうとした団員も思わず足を止める。

 しんと静まった中、火の燃える音と生木が爆ぜる音だけが聞こえる。

 誰かがぼそりと「こんな雪じゃ、あの火は消えねえよ」とつぶやいた。

 確かに雪は段々激しくなって、周囲の気温がちょっと下がる程。けど、火は消えそうにも無い。勿論、それは分かっていて。だから、僕は次の手を打つ。

 呪文書から水の呪文を喚起。

 引数に、火の呪文と同じく「視線誘導、400、小規模、水柱」と入れて発動。

 火球が飛んだ軌道そのままに、白い氷球が飛び、舞台に突き刺さる。

 音も無く400本の水柱が立ち、火が消えて、水も残らない。

 残ったのは、草木の灰や燃え残り。

 予告もなしに突風が吹き荒れ、埃を巻き上げる。

 風が収まった後に残ったのは、黒曜石のように磨かれた舞台。


「どうでしょう?」


 魂倉、ほとんど空っぽにしてやったんだから、上手く行ってくれよ、と皆さんの方を恐る恐る見て見る。

 皆、口をポカーンと開けてびっくりしてる! やった! 上手く行った! と喜んでいると、頭をガツンと叩かれた。見ると、怖い顔のマルコ様。


「やり過ぎだ」


 え? やり過ぎ? 駄目だった?


「見た目は派手ですけど、一つ一つの術はそんなに難しくないはずで……」

「イノさんが言ってたことを忘れたか? 『ちょっと使えるところを見たい』だったろう。これは、ちょっとか? ん? 火球か何かを数個で十分だったんだ。……どうもサウルは術のことになると我を忘れるようだな」


 どーしよう? とキョロキョロするけど、誰も何も言わない。ロジャーおじさんからは笑いの気配だけで、助けてくれそうに無い。ええと、どーしよう?


「ギャハハハハハ! 馬鹿じゃねーの? 馬鹿じゃねーの? 馬鹿じゃねーの? も一つおまけに、馬鹿じゃねーの? ギャハハハハ!」


 響き渡る馬鹿笑い。今一番聞きたくない声だーーーー。

 声のした方を見れば、団員の皆さんの後ろに見える三つの人影。うち二つがこっちを指さして笑ってる。一つは当然アラン様。もう一つはハンナ!


「見て見ろクソガキ! 皆どん引きじゃねぇか!

 誰がここまで気合い入れるって思うかよ、大学入試の実技だってここまで派手にカマス奴ぁいねぇぞ。

 所詮は空気が読めねぇクソガキな!

 時と場合に寄りけりってのが分かってねぇ! 所詮俺様には敵わねぇクソガキ様って事だ! ギャハハハハ! ぜーーっぜーーっ」


 あ、アラン様息切れした。

 団員の皆さんは何となく毒気を抜かれたような様子。息を整えたアラン様に団長のイノセンシオさんがノシノシと近づきつつ声をかける。しゃがれ声で威嚇してるみたいに。


「おお、こりゃ大学の先生様じゃねぇですか」

「おう、団長! 久しぶりじゃねぇか! つーか、いい加減俺様の名前覚えろよな。 それと、それ以上近づくな! お前顔こええんだから、夜中に便所行けなくなったらどーすんだよ!」

「この野郎、ぜってー名前で呼んでやらねぇ」

「なんか言ったか、ハゲ?」


 団長がアラン様にズカズカと近づいていって、二人の距離は触れ合うほどに……。二人は鼻先まで触れそうになりつつ「あ?」とか、「やんのか?」とか言い合ってる。

 これ、ヤバいんじゃ?

 と、セレッサ様が無言でアラン様の頭をはたき、首根っこ掴んで引きずっていった。ハンナが団員の方にぴょこっと頭を下げて、二人の方に付いていく。

 アラン様はイノセンシオさんになんか言ってる。イノセンシオさんは得意げに何か言い返す。

 やがて訪れるきまずい沈黙。

 そこにマルコ様が、咳払いをしながら口を開く。


「……これでサウルの能力については証明できたと思うが」

「お、おう。そうだな」


 団長が頷き、なし崩しに訓練が始まった。た、助かったー。


 僕は、見習いの子達と一緒に基本の素振り。一番小さい子でも8才だから、僕が最年少なんだけどね。

 一番最初の型を、ひたすらに。

 真上に振りかぶって振り下ろす。

 たったそれだけなんだけど、他の子とは全然違う。

 僕の棒切れだけ、描く軌道がガタガタだ。

 頭はこうすればいいと分かってるけど、体が動かない。腕はよれるし、足腰も悲鳴を上げる。他の子は移動しながらの素振りでも軸がぶれないけど、僕だけこけそうだ。

 僕は同じ年の子の中でも体が小さいし、よく病気もした、らしい。だから、他の見習いの子より早くバテる。今だって、女の子より細いし、あばらも出てるからね。それにしたって。

 しばらくすると、僕はちょっと休んでも動けなくなった。他の皆が本格的に体を動かす中、僕だけが看取り稽古。そう、僕は準備だけで体力が尽きていたんだ。


 ゆっくりとは動けるけど、全力の訓練は無理っぽくなったので、別の作業をする。

 広場の隅に、大きな土の桶を10個作る。土から生やしただけなのでその場からは動かない。中に水。5つは温かい水。5つは冷たい水。温かい水の桶は赤く色を付け、冷たい水の桶には青く色を付ける。

 温かい水に僕が持ってきた布を入れてゴシゴシ。綺麗になったところで冷たい水にさらして……。

 顔に乗せる。


「あああああああああああ」


 気持ちよさに思わず出る声。


「ねぇねぇ、サウルだっけ? なにやってんのさ?」


 と、顔に乗せた布をどけると、見習い組最年少で8才のパシリオさんがこっちを見ていた。同じく休憩中みたい。あ、今は僕が最年少か。


「えっと、休憩?」

「そうじゃなくってさ、その桶、なんなの?」

「うん。温かい水と冷たい水が入ってて、これで布を濡らしてから体を拭いたりすると気持ちいいんだ」

「なんで先に温かいのでゴシゴシしてたの?」

「温かい水だと、汚れが落ちやすいの」

「へー」


 パシリオさんと将来の夢とか話してると、ぽつりぽつりと人がやってきて桶の事を聞いてくれた。訓練が終わると、皆やってきて大盛況! 桶の中身の交換が大変だったよ。

 布用の桶とは別に特大の桶と、使い捨てのコップを人数分。特大桶の中身は良く冷えたお水。これも大好評だった。誰かが、村で唯一の店(雑貨屋兼、食堂兼、宿屋)で酒を冷やして欲しいと言ってたけど、マルコ様に睨まれてた。


 訓練が終わった後は、広場を整備するのかと思ったんだけど、そのまま解散かー。まぁいっか。

 ちょっと地の術の練習を。ゆっくり、じわっと。きっちり。広場の地面を整える。水たまりになりそうな所を整えて、デコボコを無くして石を砕いて。真ん中の方をちょっと盛り上げて、周りに排水するように。

 そのうち、村の中も整地した方が良いかも。排水の経路はどーすればいいのかな?


 整備が終わってぼーっとしていると、団長のイノセンシオさんが離れたところに立っていたのに気がついた。


「あ、お疲れ様です団長さん」


 スキンヘッドにアイパッチ、傷だらけの団長さんが腕を組んだまま無言で僕を見下ろす。逆光も相まって凄く怖い。

 右腕を崩して、親指で今日作った舞台を指す。


「あれは、なかなか良かった。どれくらい持つ?」


 しゃがれ声。乱取りにも使ってたもんね。好評で良かった。


「四大術士か、石工の人がメンテナンスすればかなり持ちますよ」

「四大術士に石工か。んでよ、この広場、良い具合じゃねぇか。誰に教わった?」

「誰にって訳じゃ無いんですよ。敢えて言えば前世の知識、ですね」

「鼻垂らして馬鹿みたいに笑うだけだったガキが、こんな口聞くたーな。前世ってのも罪なもんだ」

「ホントです。僕としても、戸惑うばかりで……」

「いや、そういうことじゃねぇんだが。まぁいい。マルコさんから話しは聞いてる。お前今度俺の所の畑手伝え。この四大術ならできることがある」

「はい。出来る事なら手伝います」

「じゃぁよ、明日の朝、お前の自分の仕事が終わったら畑に来い。場所は誰かに聞いてきな」

「……あの、僕、お役に立つでしょうか?」


 思わず、口に出てしまった。イノセンシオさんは、僕をじっと見つめて


「ちっと調子に乗るところはあるようだが、術士としてはまぁまぁだ。村としての需用はある。それを活かして、立場を作れるかはお前次第だ。まぁやるだけやってみな」

「……はい」


 それが不安だから聞いてみたんだけど。

 はぁぁぁ。

 仕方ない。

 仕方ないね。

 その後は夕食の準備まで手伝いが無かったので、農地を見て回ったよ。

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