第4話 人型特異体対策室会話記録


「それでは早速報告を聞こうか。シェリー」

「はい。有力な遺伝子工学者、生物学者、そして世界中の第八候補までの研究所を当たりましたが結果は得られませんでした。彼らも今回の件に驚いておりどこの誰が作り出したのか検討もつかないようです。また、この件についてCIAも調査に動いているようです」

「当然だな。だが、無名な者や金のないところで作り出せるようなものではない」

「そりゃ言えてる」

「ジェイク、君からは?」

「こっちも同じだ。手がかりゼロ。軍関係者の誰に聞いても顏が違うだけで答えは同じさ」

「我が軍が秘密裏に開発したものではないんだな?」

「逆だ室長。捕獲した特体を要求してきたよ」

「人型特異体発生の原因は未だ特定されていません。考えられる可能性は、突然変異によるものか、やはり遺伝子配合によって誕生したものなのか。しかしどちらも根拠は見当たらず、ネット上では神によるものとか、はたまたイラクからのバイオテロだと騒ぎ立てられてます」

「ハッ、おいおい。いったいいつからイラクがパワーレンジャーの版権を取ったんだ? 今度は北朝鮮でゴジラかよ?」

「問題なのはこれが自然的なものか人為的なものなのかだ。しかし答えは決まりきっている。前者はあり得ん。ここまで急激かつ同時発生するものではない」

「では、室長はこれが人の手によるものだとお考えなのですか?」

「当然だ」

「でもよ、それだとしても目的はなんだよ。特体の発生地域は限定的でしかもあの町を襲うことに政治的価値なんてない。あるのは名産のワインとジジイみたいにやる気のなくなった火山だけだぜ?」

「だからこそデモンストレーションの可能性がある」

「デモンストレーション? 本格的な攻撃が次にあるということですか?」

「それならそうとむこうさんから声明があってもよさそうだがな」

「事態は緊迫している。今はまだ特体の発生地域は限られているが考えてみろ。動物が人型となり無秩序に行動する、そんな事態がワシントンや北京、東京、ベルリン。他の場所で起こったらどうなる?」

「マーライオンが喋るのか? それはよかった。あいつには芸の一つや二つ必要だと思ってたんだよ。あいつのがっかり具合ときたらーー」

「ジェイク」

「悪かったよ。でもだぜ室長、さっきも言ったがこれが人為的だとしても意図が分からん。これほどの研究を成功させといて利用法がテロ? 現実的じゃない」

「室長、私も先輩と同意見です。特体を攻撃とみなすのは早計かと」

「では聞こうシェリー。特体関連の被害件数は?」

「37件です」

「死傷者は」

「重軽傷が七人。死亡は、警官が一名です」

「シェリー。我々の最も優先すべきことはなんだ?」

「・・・市民の安全です」

「そうだ。そして、すでに我々の国から、我々の国民が犠牲になっているんだ。・・・目を覚ませ! これは戦争だぞ! そして、我々はすでに攻撃を受けているんだ!これがなんであるか、そんなことは重要ではない。どう対策を講じ、封じ込め、無力化するかだ」

「確かにな。被害を受けてるのは事実だ。なんであれ対策は必要だが」

「人型特異体対策室は特体に対し専門の部隊を設立することになった。これは決定事項だ。研究報告書をもとに装備を整え特体への脅威に備える」

「専門の部隊? ですか? ですが、主だった敵対行動は・・・。特に動物愛護団体や一部市民からは我々の捕獲と隔離の方針について情報の開示と強い非難が向けられています。これ以上彼らを刺激するのは危険では」

「お前のケツも刺激的だぜ」

「・・・」

「んだよ、褒めてんだろ」

「これは決定事項だと伝えたはずだ。シェリー捜査官。君の意見は聞いていない」

「まさか世界がこんなことになるとはな。以前は麻薬王がどうのこうのだったのに、今度はコスプレ集団に専門部隊? 誰か俺のコーヒーにマリファナでも入れたのか?」

「失礼ですが、先輩は特体に関する第五次研究報告書をご覧になりましたか?」

「いや、それがなにか関係してんのか?」

「彼女たちは元人間ではなく元動物の方が可能性が高いそうです」

「ワオ。そいつは失礼。ミュータントタートルズの新作だったか」

「・・・室長」

「なんだ」

「室長のご意見は理解できます。ですが、特体の行動には敵対行動や計画性がありません。これが人為的な攻撃とは考え辛いと判断します」

「君はまだそんなことを言っているのか」

「ですが、室長も第二次報告書はご覧になったはずです。彼女たちがなにをしたというのですか? 確かに被害は出ましたが敵性対象でもないのにあんな・・・」

「あらゆる事態を想定し対策するのは当然のことであり我々の意義だ。なんならここで辞表でも書くかね?」

「・・・」

「室長。一ついいかな?」

「なんだね」

「最悪の事態に備えるっていう方針は俺もよく分かる。だが、腑に落ちない点があるのも事実だろ? あらゆる可能性はあるが、同時にあらゆる可能性を切り捨てるべきじゃない。もっと調査が必要だ」

「先輩・・・」

「シェリーの言うように特体には計画性がない。特体の発生が人為的でもこの騒動はおそらくトラブルだ。ゲームでもあっただろう、そう、レジデントイービル! だぶんそれだ。当の本人たちも意図せずして流出した、これが一番妥当だろう。あの町にはまだなにかある」

「・・・分かった。君たちには町の再調査を命ずる。しかし期限は一週間だ」

「了解です!」

「りょーかい。そんじゃ古い洋館がないか調べてくるか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る