おばあちゃんとフレンズ

犬憑ケンヂ

第1話 いなかちほー

「すっかり暗くなっちゃったね」

 ボクはあたりを見回しながら隣にいるサーバルちゃんに話しかけた。

「それにお腹もペコペコだよー。あーぁ、ジャパリまんが食べたいなー」

 そう答えたサーバルちゃんが不意に動きを止めてキョロキョロと当たりを窺い始めた。

「ど、どうしたの? サーバルちゃん」

「なんだろう。何かが近くにいる、セルリアン……ではないと思うんだけど」

 またもやバスが動かなくなって、ラッキーさんに近くの様子を見てくると告げてからすっかり時間が経ってしまった。

「ど、どうしようサーバルちゃん」

「任せて! セルリアンならワタシの爪で倒してあげるから!」

 ガサガサと草むらをかき分ける音がどんどん近付いてくる。

「た、食べないで下さーい!!」

 我慢できずに悲鳴を上げてしゃがみこんだボクを守るようにして、サーバルちゃんが立ち塞がる。

「おやおや、ずいぶんめんこい子たちだよぉ。なしたね? こったところで?」

 初めて聞く声なのに、なぜか安心感を覚えさせる雰囲気に包まれながら顔を上げると一匹のフレンズさんが立っていた。

 腰が曲がっていて、頭にはボクのような帽子でも、ヘビのフレンズのようなフードでもない布を被って結んである。

「私達、図書館に行くところなんだけど道路が塞がっちゃってて。それで他に道がないか探してたんだけど」

 サーバルちゃんがそう話すと

「そうかいそうかい。それは難儀だねぇ。今日はもう遅いから、良かったらウチで休んでいくとえぇ」

「あ、ありがとうございます。」

 ボクが頭を下げると、フレンズさんは「なんもなんもええよぉ」と微笑みかけてくれたあとで、スタスタと歩き始めた。

「ねぇねぇ、あなたはなんのフレンズなの?」

 サーバルちゃんが興味深そうにフレンズさんの周りを飛び回りながら尋ねている。

「ババかい? ババはそうさなぁ、おばぁのフレンズかねぇ」

「そうなんだー! じゃあよろしくねおばぁ!」

「はい、よろしくね」


 おばぁさんのあとについて歩いて行くと、お家?のようなものが見えてきた。

「ここがババの家だよぉ。先に中に入って休んどったらえぇ」

「わーい! おじゃましまーす!」

 そう言うとサーバルちゃんは中へとドンドン進んでいく。

「お、お邪魔します」

 ボクも続いて中に入ると、真ん中に四角い穴が空いている部屋だった。

「なにこれなにこれー! 初めて見るよー!」

 サーバルちゃんは興味津々といった感じで、四角い穴の中にある灰色の砂をかき混ぜたり、その上にある吊るされた棒を叩いたりしている。

「わわわ、サーバルちゃん! 勝手に触ったりしたら駄目だよー」

「大変だよカバンちゃん! この砂手から取れないよー」

 見るとサーバルちゃんの触った辺りは灰色だらけで、サーバルちゃん自身も灰色になってしまっていた。

「あれあれ、囲炉裏がそんなに珍しかったかねぇ」

 おばぁさんが中に入ってくると

「ご、ごめんね。この砂がこんなに散らかるとは思ってなくて」

 サーバルちゃんが申し訳なさそうにしていると

「なんもだぁ、どれこっちにおいで」

 とおばぁさんが手招きしている。

 サーバルちゃんがおずおずと近づいて行くと、おばぁさんは頭に被っていた布を取って舌で舐めるとサーバルちゃんの顔を拭き始めた。

「あれあれ、こんなところまで真っ黒になっちゃって。いたずらっ子だねぇ」

「おばぁ、くすぐったいよぉ。アハハハ!」

 サーバルちゃんはおばぁさんの膝の上に乗っかって、なんだかとても嬉しそうにしている。

「ほい、終わったよぉ。あれ、そこの帽子のあんた」

「は、はい、ボクですか?」

「帽子のきれいな羽飾り取れかかってるねぇ。おばぁが付け直してあげるよ」

 そういっておばぁさんはボクから帽子を受け取ると、手慣れた手つきで何かの作業を始めた。

「おばぁ、何してるの?」

 おばぁさんの膝に体を預けながら、サーバルちゃんが尋ねる。

「これかい? これは繕い物をしてるんだよ。こうすることで物をながーく大事に使えるんだ。この帽子、あんたの大切なものなんだろ?」

「は、はい! ありがとうございます。すごいですね、あっという間にきれいになっちゃいました。あの、良かったら繕い物のやり方教えてもらってもいいですか?」

「ふぇっふぇっ、かまわねぇよぉ? でもその前にお腹すいただろぉ? ババが作った野菜があるから、晩御飯にしようかねぇ」

 そう言うと、おばぁさんはたくさんの食べ物をボクたちの前に置いてくれた。

 真っ赤でツヤツヤした綺麗なもの、緑の葉っぱがピンと立ってるもの、紫色の不思議な形をしたものなど色とりどりの食べ物が所狭しと並んでいる。

「うわ~! すっごーい! 美味しそうだね、カバンちゃん!」

「そうだね、見たことのないものもあるけどどれも綺麗だね」

「ババの畑で採れたばっかりの新鮮な野菜だよぉ。体にいいからたんと食べなぁ」

 そう言われると、ボクとサーバルちゃんのお腹が同時にキュ~っと音を出した。

「それじゃぁ」

「遠慮なく」

「「いただきま~す!!」」


 ボクたちは野菜をお腹いっぱい食べて、その後でボクはおばぁさんに繕い物のやり方を教えてもらった。何だかその時間はとっても幸せな気持ちになることができて、おばぁさんとにこにこしながら過ごすことができた。

 夜行性だから夜は平気!なんて言ってたサーバルちゃんも、おばぁさんの横でスヤスヤと寝息を立てていて、おばぁさんと二人でおかしいね、と笑いあった。


 いつの間にか僕も寝ていて、気がつくと朝になっていた。

「それじゃあ、ボクたちそろそろ行きます。色々とありがとうございました」

「おばぁ、また一緒に遊ぼうね」

 ボクとサーバルちゃんがおばぁさんに挨拶すると

「いつでもおいでぇ。待ってるからねぇ」

 と、おばぁさんはニコニコしながら見送ってくれた。


 立ち往生していたラッキーさんのところに戻ると、バスがエンジンを掛けて待っていてくれた。

「あれ、ボス。直ったの?」

「ラッキーさん、もう大丈夫なんですか?」

 と、ラッキーさんに話しかけると

「ドウヤラ、エンジンガ ウマク カカラナカッタダケ ミタイダネ。

 ソレジャ シュッパツ スルヨ」


 動き出したバスの中で、ボクは背負っていたカバンを降ろすと中に何か入っているのに気付いた。確かめてみると、昨晩食べたあの真っ赤な丸い野菜が入っていた。

「サーバルちゃん、これ」

「わぁ、きっとおばぁがおみやげにくれたんだよ! 良かったね、カバンちゃん!」

 サーバルちゃんと二人で半分こして、朝日の中で食べたそれはとっても美味しかった。

 今日は快晴。ボクたちは図書館へ旅をしている。


 おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おばあちゃんとフレンズ 犬憑ケンヂ @inutsukikendi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ