つまりはこれからもどうかよろしくね

藍緒ユズル

つまりはこれからもどうかよろしくね

気が付くと、ボクは暗くて、どろどろとしたもの中でたゆたっていた。

身体が中心に向かって集まっていくような感覚に襲われて、気が付いたら、目に涙を溜めたサーバルちゃんが目の前にいた。


「一番最初に会ったときにしたお話、覚えてる?」


サーバルちゃんが、そう言った。

それに対して、ボクは――



暖かな光がまぶたをあたためて、ボクは目を覚ました。

あの大きくて黒いセルリアンとの一件から、眠るといつもその時のことが頭に流れた。

サーバルちゃんと旅をしていることはこんなことはなかったのに。

ハカセさんにそのことを話すと、彼女はいつも通りの澄ました顔で、

「それは『ユメ』ですね」

こともなげにそう言った。

「なのです」

助手さんが相槌をうつ。

「『ユメ』ですか?」

「『ユメ』は眠っている時にみるものなのです。フレンズになる前――動物も夢を見ていたとされていますが、フレンズは滅多に夢をみないのです」

「ヒトは様々なことを考えるので『ユメ』をみやすいとされているのです」

「なのです」

「じゃあ同じような『ユメ』を続けてみることもあるんですか?」

そう言うと、ハカセさんは少し難しそうな顔をして

「ヒトは様々なことを考えるので、そういうこともあるかもしれないですね」

そう言った。見ると、助手さんも少し難しそうな顔をしている。

「ハカセさんたちも同じ夢を続けて夢をみることがあるんですか?」

ボクがそう尋ねると。

「当たり前です。我々は賢いので」

「いつも同じ夢をみるのです。我々は賢いので」

澄ました顔に戻って、そう言った。



「『ユメ』か……いいネタになるかもしれないな」

タイリクオオカミさんが神妙な面持ちでうんうんと頷く。

ボクとサーバルちゃんは、黒いセルリアンの片づけの間、アリツカゲラさんのロッジに寝泊まりしていた。

もちろんサーバルちゃんも一緒だ。

「つまりその『ユメ』を見せている犯人がいるわけですね!?」

アミメキリンさんが鼻息を荒くして言った。

「そんな話じゃないと思いますけど……」

「それはどんな『ユメ』を見ているんだ?」

タイリクオオカミさんも興味津々だ。

「えっと……あの、その、あの時の『ユメ』なんです。ボクが黒いセルリアンに食べられていた時の」

「かばんはあの時のことを覚えているのか!?」

「わかりました!つまり犯人はアリツカゲラさんです!『ユメ』を目玉にしてこのロッジを賑わせようとしているのです!」

「えぇ!?私そんなことしませんよ!?」

「いいえ!いろんな部屋でいろんな夢を見れることをウリにした陰謀的戦略なのです!」

こうなるとアミメキリンさんは止まらない。

「いや……聞いたことがあるな……眠ってる間に、横に黒いセルリアンが忍び寄ってきて、その後……」

それを聞いてアミメキリンさんの表情が曇る。ボクも、ちょっと怖い。

「もう!オオカミさん!」

「冗談冗談。また良い表情いただいたよ」

アリツカゲラさんがたしなめると、タイリクオオカミさんはいたずらっぽく笑った。

「なになにー!?なんの話してるの!?」

「あ、サーバルちゃん!おかえり!」

「おかえりなさい。ご飯の用意できてますよ」

片づけから帰ってきたサーバルちゃんを、アリツカゲラさんを迎え入れた。

「わーい!楽しみだなあ!」



食事が終わって、部屋に帰った後のこと。

「ねぇねぇ、かばんちゃん、さっき言ってたのって何の話?」

サーバルちゃんがボクに尋ねてきた。

ボクは最近の『ユメ』の話と、ハカセから聞いた話をサーバルちゃんに話した。

「うー、タイリクオオカミの話じゃないけど、それはちょっと怖いね!」

サーバルちゃんが珍しく、ちょっと難しい顔をしている。

「うん……ボクもちょっと怖くて……」

「楽しい『ユメ』ならいいのにね!」

「そうだね、サーバルちゃんが、みんなが助けてくれた『ユメ』だって考えたら、怖いだけの夢でもないのかも」

あの時のことを改めて思い出してみる。

暗くて、怖くて、身体が溶けて、どこかに行ってしまいそうな、そんな場所。

でもサーバルちゃんはボクを助けるために、一度そこに飛び込んでくれた。

「でも、同じ目に遭うのはちょっと……嫌かな」

ボクはその時どんな顔をしていたのだろう。

その時、サーバルちゃんが

「大丈夫だよ!かばんちゃんがまたピンチになったら、私が自慢のツメで助けちゃうんだから!」

胸を張って、そう言った。

「だって、かばんちゃんは私がピンチの時にたすけてくれたもん!だからね、かばんちゃんがピンチになったら、その時は私を呼んでね!もちろん、みんなも!」

ああ、そっか。

ボクはあの時助けられても、もしかしたら誰にも助けられなくて、一人でどこかに行ってしまうことを、怖く思っていたのかもしれない。

でも、ボクにはサーバルちゃんがいる。みんながいる。

「その時は、どうやって助けを呼んだらいいのかな……」

ボクは少し考えてから、

「……食べないでください?」

「食べないよ!」


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つまりはこれからもどうかよろしくね 藍緒ユズル @ysk6288

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