一ヶ月の間で⋯

皐月つみき@ロリ魂Vtuber

夢と現の間で⋯

 僕の名前は“カバン”

 “ヒト”のフレンズです。

 さっきまで、サーバルちゃんっていう娘と一緒にいたんだけどー⋯。

「どこ行っちゃったんだろう?」

 見失っちゃったみたい?


++++++++++++++++++++


 んー⋯本当に、どこに行っちゃったんだろうー⋯?

 辺りは、生い茂る草・木・時々けもの道。

 なんとか掻き分けて進んでいくけど、サーバルちゃんらしき人影は見当たらない。

 それに、なんだか変な雰囲気なんだ。

 サーバルちゃんどころか、アライグマさん、フェネックさん、PPPのみんなとかも見当たらないんだ。

 いつもなら、誰かしらに会うはずなのに⋯。

 それこそ、最初っからじゃぱリパークにいなかったかのように⋯。

 ⋯⋯。

 不意に、ゾクリっと背中に寒気を感じた。

 なんだろう、嫌な空気だなー⋯。

 辺りは、依然として草・木・けもの道・草・岩で、フレンズには会わない。

 いつもなら、視界に誰かしら入ってくるぐらい、出会うのに⋯。

 ⋯そ、そうだ。ラッキーさんに相談してみよう。

 不安になってきた僕は、自分の左手首を見た。

 ラッキービースト。通称ラッキーさん。

 『じゃぱリパーク』のパークガイド。

 今は、小さくなった状態で、僕の手首にに巻かれているんだ。

「⋯あれ?」

 思わず、声が出た。

 僕の視線の先には、手首に巻かれたラッキーさんがいると思った。

 でも、そこにラッキーさんはいなかった。

 あれ?おかしいなー⋯っ。

 そう、おかしいんだ。

 フレンズのみんなに会わない状況の時点で。

 ⋯もしかして。

 脳裏を過る、最悪の予想。

 あの時“山”の山頂で、セルリアンの元になる“サンドスターロー”を封じた。

 だから、あの黒いセルリアンを倒してから、セルリアンが出てきたことはない。

 でも、もしかしたら。

 出てきていないのではなく、“隠れている”としたら。

 その隠れていたセルリアンに、みんなが食べられちゃ⋯。

 僕は、勢いよく走り出していた。

 草・草・けもの道・川・木・草・草草草草草草草草草草草草草草草草草草草草草草草草草草草草草草

 僕は、葉っぱで指先を切ろうとも、小枝で頬や腕が引っかかれても走り続けた。

「サーバルちゃーん!みんなー!!」

 声を張り上げ、枯らして、それでもみんなの名前を呼んだ。

 息が絶え絶えになってきても。

 足が、重く、上手く動かなくなってきても。

 頑張って、みんなの名前を呼んだ。

 ただ、無我夢中で走り続けた。

「アライグマさーん!フェネックさーん!ラッキーさ-」

 だから、僕が今“どこ”を走っているかも分からないぐらいに。

 無我夢中だった。

 その時。

 草を両手で払い除けた瞬間。

 視界いっぱいに、あの真っ黒なセルリアンのような地面が現れた。

 えっ。

 イノシシのフレンズのように、一直線に走っていた僕は、そうそう止まれない。

 足が、真っ黒な地面を力強く踏み込んだ時。

 突如、足元が、まるで柔らかいゼリーのように“崩れた”

「-っ!?」

 踏み込んだ足に、体重が一気に掛かる。

 重心が傾き、前のめりに倒れこむ。

 踏ん張ろうとしても、足は崩れていく地面の所為で、踏ん張りきれない。

 僕の体は、そのまま地面を突き抜けるようにして-落ちていく。

「うわあああああ!?」

 今もなお、足元の真っ黒な地面は、ボロボロと崩れ去っていく。

 さっきまで、明るく輝いていた太陽が。

 あんなに、澄み切っている青空が。

 真っ白で、ふわふわとう浮かんでいる綿あめのような雲が。

 一気に遠くなっていく。

 僕は、体を反転させて、懸命に真上目掛けて、手を伸ばした。

 でも、手で掴める場所も、腕を引っかけられそうな場所はどこにも見当たらない。

「だ、誰かっ―」

 口が、動かない。

 声が、出せない。

 息が、吸えない。

 何も、できない。

 あんなに近かったはずの太陽も、空も、雲も、今では遥か彼方に。

 ぽつんっと、まるでゴマ粒のように小さくなっていく。

 ⋯⋯。

 全身が硬直して、身動きも取れないまま、落ちていく。

 ⋯もしかして⋯僕⋯。

 このまま、1人ぼっちになっちゃうのかなー。






 不意に、手を温かなものが包んだ。






「⋯⋯!⋯ん!!」

 遠くで、声がする。

 遥か、ずっと遠くの方で。

 でも、なんだろう。

「⋯ばん⋯!⋯ちゃん!!」

 なんだか、とても聞き覚えがあって。

 それで、すごく安心するような⋯。

 僕が初めて聞いた声-。

「カバンちゃん!カバンちゃんってば!!」

 僕は、僕自身の名前を呼ぶ声の正体に気が付いた。

 同時に、真っ暗だった視界が晴れる。

 視界いっぱいに見えたのは、僕の初めての友達。

 そして、僕に名前を付けてくれたフレンズ。

「た、食べないでくださーい!?」

「食べないよ!!」

 でも、あまりにも近すぎて、僕はこんなすっとんきょんなことを言ってしまった。

 それに、目の前のフレンズ-サーバルキャットのサーバルちゃんは、あの時と同じように答えてくれた。

 でも、すぐに「⋯じゃなくて!」と言って、僕の両肩に手を置いた。

 十分近くにいるはずなのに、顔と顔がぶつかりそうな距離まで詰め寄ってきた。

「大丈夫?なんだか、すっごくすっごーくうなされてたよ?」

 いつもの好奇心旺盛できらきらしている瞳ではなく、不安と心配でいっぱいになっっている。

 そんな瞳に移る僕の顔は、すごく酷くて、辛そうな表情をしている。

 僕は咄嗟に「大丈夫だよ、サーバルちゃん」と言った。

 でも、サーバルちゃんは「でも、でも⋯っ」と、瞳に涙を溢れさせ始めている。

 声は震え、嗚咽が混じり始めた。

 僕は、すぐにサーバルちゃんの頭に手を置いて、撫で始めた。

「大丈夫。あと、ありがとうね」

「え、うん、どういたしまして⋯ん?」

 突然のお礼に、目の前のサーバルちゃんは戸惑っている。

 僕は、理由も分からずにお礼を言うサーバルちゃんがなんだか可笑しくて、思わず「ふふっ」と笑っていた。

 でも。

 あの夢は、夢で良かったけど。

 本当に、フレンズのみんなが僕の傍から離れたら。

 誰とも、サーバルちゃんとも会えなくなったら⋯





 寂しいな。






 

++++++++++++++++++++







「えへへ、やっぱりもう少し着いていこうかなーって」

 僕の初めて出会ったフレンズ。

 僕に名前を付けてくれたフレンズ。

 僕と初めて友達になってくれたフレンズ。

 サーバルキャットのサーバルちゃん。

 彼女が、また着いて来てくれたと分かった時。

 僕は、すごくすっごーく幸せな気持ちになれた。

 つまりは、これからも⋯。

「サーバルちゃん」

「なになに、カバンちゃん」






 

 『どうか、よろしくね』




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