第1話

*聖帝光帝国 王宮*



「あーーーー!!やってらんない!」


バタンッと大きな音をたてて本の山が崩れた


「お嬢、なにやってんだよ。」


呆れ顔をしながら、一人の男性が崩れた本を拾い上げる


「ガイルっ!なんで私がこんなことしなくちゃなんないのっ!」


ガイルと呼ばれた男性は苦笑いをして


「お嬢がもう王女様だからだよ。」


と、お馴染みの答えを返した


「…………」


大人しくなった王女にそっとささやく


「おやつ、特製のやつ作ってやっから、頑張れ。な?」


キラリと王女の目が光る


「言ったからね!こんなの楽勝なんだからっ!」


急に机へ向かって作業を開始する王女を一瞥するとガイルは部屋を出た




「ガイル様。」


王女の部屋を出ると使用人の男が声をかけてきた


「フレン様の婚約の件についてですが……」


「そんなことより、あの男はどこへ行った。」


「…はい?」


「お嬢に求婚をして来た青の騎士だ。」


ガイルのイラついた声に身震いした使用人は

「し、調べておきます」

と言い、走り去った


「……使えんやつらめ」


ガイルは手に持っていた資料をくしゃりと潰した



*安眠の森 入り口*



『世界には二つの扉があるらしい』

これは、祖母が昔話してくれたことだ

今でも覚えている

そして、その扉は本当に存在する

『世界を変えるのは


金髪の女性


その運命に扉は従うだろう』


「……また、面倒な依頼だ」


騎士のような格好をした男性が小さくため息をつく


「お前にぴったりの仕事だ、この、女たらし野郎。」


騎士のとなりに立っている男性が剣を構える


「ソウラ、やめろ。俺はそんなんじゃない」


「剣を一振りすれば女がうじゃうじゃよってくるじゃんかよ」


「正直困るんだが」


「キャー、ウラル様かっこいいー ってさ。」


「黙れ」


ウラルと呼ばれた男性はそっと依頼表に目を通す


「……帝国の王女様か。」


「帝国の王女様って、あー、お前が求婚した相手か」


ソウラはふんっと鼻で笑う


「王女に求婚なんてお前もバカだよな」


「……黙れ、ポンコツじじい」


ソウラが顔をしかめる


「俺はまだ27だが。」


「俺よりじじいだ」


ウラルはそういうと森の中へと歩いていった




*聖帝光帝国 王女の自室*



「はぁー、もうやってらんない。」


王女―フレン―はドレス姿のままふわりとベッドへ横になる


今日は教育係兼執事のガイルが午後から隣国へ行っているため気長にゆっくり過ごす時間を貰えた


「………結婚かぁ………」


ポソリと呟くと枕に顔を埋める


「私、まだ16歳なんだけどな~」


寝返りを打った時


……コンコンコン


「フレン様、クロン様がいらっしゃっています」


使用人の声にガバリと起き上がる


「ちょ、ちょっと待って!準備します!」


バタバタとあわただしく、服装や髪の乱れがないかチェックをすると部屋の外へ出た



廊下へ出ると一人の小柄な女性が立っていた


「久しぶりじゃん、フレン」


「お、お久しぶりです。お姉様」


クロンはフレンにとって憧れの存在である

この国で唯一の女騎士であり、フレンの金髪を初めて綺麗だと誉めてくれた人でもあった

そのため、フレンはクロンのことを

親しみと尊敬の念をこめて『お姉様』と呼んでいる


「今日はなんのご用ですか?」


フレンがきりりと顔を外行きへと変えると

クロンは優しく微笑んだ


「ガイルさんは、今日いないんだよね」


「ええ、隣国へ出掛けております。ガイルに用が?」


「いや、フレンに用があるの。街へ出るから準備してきてくれる?」


「ま、街へ行くのですか?」


フレンが驚いて尋ねるとクロンは口に人差し指をあてた


「内緒でね。裏庭で待ってる。」


その場にフレンを残し、クロンは去っていった



*安眠の森 出口*


剣を地面に突き刺すようにしてガックリと座り込むソウラがポソリと呟く


「…………疲れたんだが」


「…………知らん」


「ってかよ、ウラン、お前も剣振れよ!あんだけの凶暴な獣がいるとか聞いてねーぞ!」


「………あれは、人だ」


「いや、例えただけだっての!………まあ、安眠の森とか言うにはやたらと強い騎士が配置されてんだなと思ったけどよ。勝ったぜ。」


「………この帝国は、今荒れているからな。森には強い騎士がいないと。この森は帝国の出入り口でもあるからな」


ウランは疲れきってへたり込んでいるソウラを一瞥するとふと空を仰いだ


「…………フレン…」


雲一つかかっていない空は不気味なほど綺麗だった



*聖帝光帝国 柴庵街*


「フレン、こっち。」


「お姉様、一体何処へ……」


クロンと街へ出たフレンはキョロキョロと街を見渡しながらクロンの後を追う


鮮やかに輝く金髪をフードですっぽりと隠したため真っ直ぐ前を見ることが困難なフレンの手をクロンが優しく引いてくれる


「フレンが喜ぶ場所。」


「喜ぶ場所……」


「あ。」


クロンが急に歩みを止めた


「…お姉…様…?」


「おやおや、クロン様ではないですか。これはこれは、我が国の唯一の女騎士様がこんな街中で何を?」


「……ゲーラ、悪いが、お前と話してる暇はない」


クロンがフレンを背中に隠すようにして

厳つい男を睨む


「…つれない方だ。おや、そちらのお連れの方は?」


男性の目がフレンヘ向けられた


「……お前と話してる暇はないと言ったはずだ。失礼する」


クロンはぐっとフレンの手を引くと走り出した


「お、お姉様っ!?」


フードが脱げそうになるのを左手で押さえると必死でついていく


「話は後!走って!」



遠ざかっていくクロン達の後ろ姿を見ながら男―ゲーラ―はニヤリと笑みを浮かべた

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愛を誓ったあの日から @siba9646

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