脱げない毛皮
けものフレンズ大好き
脱げない毛皮
「ふー良いお湯ー」
「またすぐに出てゲームしようとしないでよ」
「わかってるー」
今日も今日とてギンギツネちゃんとキタキツネちゃんは、温泉に浸かっています。
ゆきやまちほーのフレンズはみんな温泉が大好き。
でも時には他のちほーのお客さんが来ることも……。
「……お?」
「あら?」
「こんにちは」
あまり見慣れない顔に、ギンギツネちゃんもキタキツネちゃんも少しだけ表情を変えます。
「確か……カバだったかしら」
「ええそうよ。貴方たちはキタキツネとギンギツネですわよね」
「そうだよ」
「ゆうえんち以来ね。ちなみに私がギンギツネね」
風呂に入ってきたカバちゃんと2人は挨拶を交わします。
「それにしても珍しいわね。ここに来るのは初めてじゃない?」
「ええそうですわね。以前サーバルから話を聞いて、いつか来たいと思っていたんですの。ここが少しでも暖かくなるのを待って、わざわざさばんなちほーから来ましたわ」
「さばんなちほーに比べたらこっちは寒すぎるからね。その分温泉は暖かいわよ」
「お水じゃなくて、お湯なんですのよね。私はずっと水だけでしたからとっても楽しみですわ」
「けっこう熱いよー」
「それもまた楽しみですわ」
そしてカバちゃんが湯船に入ろうとしたとき、あることに気付きました。
「……貴方たち毛皮はどうしたの!?」
そうです、かばんちゃんに言われて以来、2人は毛皮――つまり服を脱いで温泉に入るようにしていたのです。
多少面倒ですが、そっちの方がずっと気持ちいいですから。
「まさか病気……」
「違うわ、あなた聞いてなかったの。毛皮って脱げるのよ」
「脱いで入った方が気持ちいいよ」
「全然知りませんでしたわ……」
カバちゃんは愕然とします。
まさか毛皮が脱げるなんて、夢にも思っていませんでした。
「ど、どうやるんですの!?」
「えーと、こんな感じ?」
ギンギツネちゃんが手振りで説明します。
カバちゃんはとりあえずその通りやってみますが、うまくできません。
仕方ないのでキタキツネちゃんも一緒に脱ぐのを手伝います。
「いっせーので引っ張るわよ」
「分かった」
「いっせーの!」
「痛い痛い!」
しかし上手く脱げません。
「はぁはぁ、どうしてかしら? さばんなちほーのフレンズだから?」
「サーバルは脱げた」
「私にも何がなにやら……」
「とりあえず実際に脱いでるの見てもらう?」
「それが良さそうね」
ギンギツネちゃんとキタキツネちゃんは身体を拭いてから、服を着、そして脱ぎます。
「すごいですわ! 本当に毛皮を脱いだり着たり出来るんですのね!」
「私達もかばんに言われて初めて知ったの、ねキタキ――」
賛同を求めようとしたギンギツネちゃんでしたが、キタキツネちゃんはそこにはいませんでした。
「あなたね」
「えー、だって温泉から出たらゲームしていいって言ったじゃん」
当然のようにゲームコーナーにいたキタキツネちゃんを、ギンギツネちゃんは強引に連れてきます。
「……ごほん。とにかくこういうときはかばんに聞ければ良いんだけど、今はいないから」
「以前博士も服で入ってたから、今回は聞いても役に立たないと思う」
「うーん何が原因かしら……」
「……もういいですわ」
カバちゃんはそのまま湯船に浸かります。
「こうして毛皮のままでも気持ちいいですし、脱げると分かっただけでも充分よ。多くを望みすぎると罰が当たりますわ」
「カバ……」
カバちゃんは深い表情で、優雅にお湯を身体に流します。
「……せっかくのところ悪いけど、背中にゴミが付いてるよ」
「え、どこですの? 取って下さらない?」
「これ」
キタキツネちゃんはカバちゃんの背中にあったものを、思いっきり引っ張ります。
するとどうでしょう。
「あれ?」
今まで脱げなかったカバちゃんの
そうです。
カバちゃんの毛皮はスーツのようにぴっちり肌に密着し、普通にひっぱるだけではとれななかったのです。
キタキツネちゃんがゴミだと思っていたのは、実はファスナーでした。
「これを引っ張ると脱げるみたい。下半身にも同じ物あるからこれで私達と同じようになれるかも」
「早速やってみますわ!」
こうしてカバちゃんは見事裸になることに成功します。
「確かに脱いだ方がずっと気持ちいいですわ。ありがとうギンギツネ、キタキツネ」
「それじゃあごゆっくり」
「ぼくはゲームしてるから、出てきたら対戦してあげてもいいよ」
「あなたねえ……」
1人静かになった温泉で、カバちゃんはゆったりします。
「よよよよ……」
知らない間にカピバラちゃんもいましたが、静かなのであまり気になりませんでした。
「ふぅ……」
そして身体も充分温まり、さて出ようかという頃、気付いてしまいました。
「毛皮って脱ぐのはいいけどどう着たらいいのかしら……」
カバちゃんの温泉滞在はまだ続きそうです。
おしまい
脱げない毛皮 けものフレンズ大好き @zvonimir1968
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