第19話
某外資コンサルティングファームに勤めるTはホテルの一室で取引先のOLのYを待っていた。
ホテルの一室の窓を開けるとさーっと風が吹き込む。
限界まで開かれた窓から春の陽光と冷たい風が吹き付けこんなにも心地よいのだろうかとふと思う。
部屋の中は机が一つダブルのベッドが一つ。
Yは時間通りに部屋のドアをノックした。
「はい」
「=社のYです」
ドアが開かれる。
スーツ姿のYが部屋に入ってくる。
Tは椅子にうなだれる。
「取引の件で」
「固い話はやめよう」
「え?」
「脱ぎなさい」。
「確か取引の話で」
「そう。=社と契約することにした」
「そんな……」
「冗談だよ」
Tは明るく笑った。
「今度の取引でこのホテルを買収することになったんだ。=社にはその手伝いをしてもらいたい」
「なんだ」
Yもつられて笑った。
話は商談に入った。
見る間もなく資料を片手に契約の確認が行われていく。
ホテルの一室での機密だった。
二人の仲は急速に縮まっていく。
YはTの瞳を見つめていた。
そして書類はテーブルの上に置かれた。
Yからシャワーを浴びた。
次にTが浴びた。
ベッドに二人はなだれ込む。
柔らかなシーツがまるで二人を包み込むようだ。
開かれた窓から射しこむ太陽の光。
二人は抱きしめあっていた。
「こんなことを言うのも今更だが、僕は君のことが好きだ」
YはTの体を抱きしめる。
「私も」
真っ青な空が陰り始める。
太陽が沈んでいくのだ。
Tはベッドから外の空ばかりみていた。
手を伸ばすと光が散らばる。
「ねぇ」
YはTに問いかける。
「何?」
「二人でどこかへ行かない?」
「どこへ?」
「海に」
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