暖かく,うす暗く。

櫻庭 春彦

1:那由の独白 那由

世間では初夏といわれる、ある暑い日のことだった。

那由なゆは、この町では珍しく賑わいを見せる商店街をひとりぶらぶらと歩いていた。

何か目的があるわけでもない。

――何をしているのか。私も、幹部も。

数十年前、この国では当時のダメ王のせいで政治が乱れに乱れ、今ではいくつかの自治区があるのみになってしまった。

自然が多く農業の盛んな”緑輝”、私たちの住む”白虎”、そして...敵対中の”黒蛇”。


次の戦争でもし”黒蛇”に負けたら私たちは...

ただ”黒蛇”に隷属するだけではすまないだろう。

――かさり 

足元の何かを踏んだようだ。

『戦況情報誌』

「ああ、これか。」

どうせこちらに都合のいい事しか書いていない。

私は丁寧にそれを戻し、アジトへと帰った。


「ただいま...」

長年の習慣で挨拶してしまう。

(どうせ誰もいないのに...)

暗いままのアジトは、まるで私の帰宅を拒んでいるようだ。

今日は大人たちは幹部会と称した飲み会だが、少し前の戦争の賠償金をそんな事に使っていいのか。

すでに組織の中には同じような不満を持った人が集まったチームができつつある。

そんな革命派”青狐”は、これから偉大な任務をこなすのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る