第138話 二人 4
実を言うと、白み始めた空の下、血溜まりの中に倒れていた星弐を見てから恵一の記憶は曖昧だった。
あのとき星弐の側には同じくらい真っ赤に染まった自分の身体が横たわっていて、傷ついた星弐の手首を労わるように胸に抱えていた。
鉄臭い血の匂いが鼻を突いたけれど、恵一には寄り添い合う二人が生とか死とか、そう言ったものすら超えた、この世に在るあらゆる俗と無縁の存在のように思えた。
悲しいくらいに綺麗だったのだ。
そのことだけは、はっきりと覚えている。
けれど次の瞬間、ふと気づくと病院のベッドの上に仰向けに寝ていた。身体はいつの間にか以前の様に生身の人間に戻っていた。
『桂壱がケイイチを引っ張ったみたいに思ったよ』
目が覚めてからアレクシは恵一にそう説明してくれた。
救急車の中で、既に桂壱の魂は形を保てなくなっていたらしい。ぼんやりと霞んで行く頼りなげな彼の意識は消える寸前まで恵一に身体を返そうと苦心していたそうだ。
『……そっか。……星弐くんは? 助かったの?』
痛む胸を抑えながら恵一は聞いた。
『星弐は死んだよ』
『え? 』
『それがね。僕も不思議に思うんだけど、止血も輸血も、つまり手術自体は成功したらしいんだ」
『どう言うこと?』
『……僕には星弐は自分から死を望んだ様に視えた。病室は離れていたのにね。星弐は桂壱が居なくなった瞬間を感じ取ったみたいだった。あんな現象は初めて視たよ……」
『アレクシ……』
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