誰かの夢

第120話 誰かの夢 1


***








萌は薄闇に溶けながら、うずくまる桂壱の背中を静かに見つめていた。


先ほどまで桂壱の内側から全てを見ていたのに、今、萌は成す術なく中空に浮かんでいる。


桂壱が「孤独」を意識する度に、萌は見えない手に押し出されるような奇妙な感覚を味わってきた。

それがもう、いよいよ外へと追い出されてしまったのだ。

自分の意識も急激にはっきりとしてきている。


きっと夢の終わりは近い。

この子はもうすぐ自殺するのだ。






萌の予想通り、事態は次々と良くない方へ転んでいった。

不幸な少年の「死」に向かって、まるで走馬灯の様に物事が流れて行く。


最初に、桂壱けいいち星弐せいじの両親が離婚した。

市東の家の入り婿むこだった二人の父は、次男である星弐を連れて、横浜にあるこの家から東京へと越して行った。

星弐は桂壱に何も言わないままだった。



それからの桂壱は、以前にも増してふさぎ込む様になった。

何かを話そうにも、会話する相手が居なかった。

母親は星弐の方を自分の元にとどめておけなかったことを痛く悔しがり、桂壱を無視し続けると言う方法で辛く当たった。


そんなときだ。


市東 桂壱が高校教師である岡山 遥斗と出会ったのは。

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