第94話 探せ 12

その瞬間、萌と京平はもの凄い瞬発力を発揮してリョウマの背後へと回りこんだ。

若者に出遅れながらも、恵一もリョウマの隣に飛び込む。

息を飲みながら、小さな画面をぎゅうぎゅうになって覗き込んだ。



「これは……」



「うん……」



写っていたのはどこにでもいる普通の少年だった。痩せすぎでも無いし、太ってもいない。顔立ちも際立ったところは何も無い。


-本当に平凡な少年



「別人…だね」



期待していた分肩の力が抜ける。

そして、さらに追い討ちをかける様に今度はリョウマの母親から「ダメ。やっぱりうちの高校にはいない」とメッセージが届いた。


いつの間にか戻ってきていためぐみがお茶のグラスを並べても、誰一人手を伸ばす気力も無い。



「また振り出しに戻るのか」



「もう、期待させやがって!お前誰だよ!」


「いや、『けいいち』だろ。こいつも一応」


リョウマが、スマホを放り投げる。

ゆるい弧を描いたあと、バフッと言う音を立て、萌のベッドに着地した。

何だかどっと疲れた気がする。


「はぁ…」


朝から疲れて頭が重かった。

沈む室内にめぐみの履くスリッパのパッタパッタという音だけ響く。


「ちょっと、おばちゃん何があったか知らないけど、スマホを投げちゃダメじゃない……あら?」


恵一が顔を上げると、そこには今拾い上げたスマホを食い入るように見つめるめぐみの姿があった。

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