第21話 けーちゃんの貢ぎグセ 9
「…辛かったな。…理不尽だよな」
目の前に座る恵一が悲しそうに呟いた。
辛かった過去の自分に寄り添う言葉は素直に嬉しかったが、今の萌にとっては全て、所詮は過去のことだ。
とっくに方が付いたことで恵一に暗い顔はさせたくない。
それに、当時の自分も恵一にこんな顔をさせたくなくて、母にこの一件を口止めしたのだから。
「ありがとう。でも、兄さんごめん。こっから先の方が重い話」
約束した以上全て話すつもりだが、萌はできる限り明るく、冗談めかして話すことで空気を和ませる作戦をとることに決めた。
ーそう。次の日、学校に行ったときの方が悲惨だった。
事件を目撃した友人やその親、兄弟から学校中に噂が流れ、クラスメイトや知らない生徒にまで明らかに避けられたし、
「うちの親がもうお前と遊ぶなって」というどこかのドラマの台詞かと思うようなことも言われた。
両親が信じてくれたからと思い、我慢できずに一部の友人には力のことを話した。
けれど、余計に頭がおかしい奴呼ばわりされるだけだった。
ただ、いい加減もうダメだと思った放課後。
その日はじめて部活で会った京平が、京平だけが、周りと違うことを言った。
ー「お前ら皆おかしいよ。俺ら何年一緒に居るんだよ。普通に考えてこいつがわざとそんなことする奴じゃないってわかるだろ!」
残念ながら萌とは違う意味で京平の「普通」は普通ではなくて、結局、事態は改善せず京平以外の友達は皆離れていった。
頑張ってもどうにもならないことは世の中にはあるのだと学んだ苦い経験だったが、その分大切なものにも気づくことができた。
後ろ向きではなく、さっぱりしたある種前向きな気持ちで、萌は友人達とは別の高校へ進学することを決めた。
一番はバスケがしたかったから、二番目にやっぱり居心地が悪かったから。
せっかくの高校生活だ。楽しそうな方を選ばずにどうすると思った。
そして、嬉しいことに京平も同じ高校に進学することがわかり、自分の選択は正しかったと心から思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます