スピーカー & ブリップ
木船田ヒロマル
Like cat and dogs
「ノキシタこちらコウモリマルヒト。近接航空支援を要請する! 繰り返す! 攻撃UAVだ! 攻撃UAVを要求! 」
轟く砲声。着弾炸裂音と衝撃波。雨のように降る土砂と何かの破片。空を裂く弾丸の飛翔音。何かが砕ける音。短い悲鳴。土豪。砲声に重なる射撃音。一際大きな爆発--。
西暦2082年。日本国。旧シズオカ地区。現在の名称はエリア87。
第ニ特殊作戦群第101小隊、通称「コウモリマルヒト」の小隊長、ミヤモト三等陸曹は、ざらざらと降り注ぐ石と砂の雨が目や口に入るのもお構いなしに、インカムマイクにがなり立てた。
遮蔽物にしているのは恐らく開戦直後に廃墟になっただろう住宅の基礎部分。
敵生物の被帽貫通種子弾か、自己鍛造種子弾なら紙切れ同様に貫通するだろう頼りない拠り所だ。
部下達に目を配れば、ミヤモトの後方半径五◯メートルの範囲に散開しつつ、各々遮蔽物に身を隠しながら、反撃のチャンスを伺っている。
ミヤモトの合図を待っているのだ。
だが、正面の二門のSAW級の敵性植物がどうしても黙らない。生意気にお互いをカバーしながら、重機関銃並みの種子の銃撃を雨あられと吐き出し、ミヤモトの部隊を含め四つの部隊を釘付けにし、その貴重な時間を奪い続けていた。
突破には、プラスアルファが必要だった。
「聞こえねーのかノキシタ! このままじゃジリ貧だ! UAVを要求する! UAVだ! 早くしねえとその空っぽのアタマひっこぬいて陣地の土嚢にしてやるぜ! 」
『感度良好。こちらノキシタ。
……うっさいわねコウモリマルヒト! UAVはあんた達より頭のいい上品な部隊の支援で手一杯よ! 自分のケツは自分で拭きなさいこの穀潰しのヒョウロクダマがッ! 』
「んだとアバズレてめえ俺たちに死ねっつうのか⁉︎ 誰のお陰でてめえらがエアコン効いたオフィスでパフェ食いながら仕事できてると思ってんだ、アァッッ⁉︎ 」
『役割の違いをカサに着て文句たれんじゃないわよ水虫野郎! 限られた戦力で回してんのをいい加減理解しろカボチャ頭! 余計な通信で貴重な戦時リソースをドブに捨てるなバカ! 』
『ノキシタ。こちらキツネマルサン。コウモリに支援が必要か? 』
「おおキツネ! ありがてえ、ポイントは分かるな⁉︎ 敵のSAWがどうしても……」
『キツネは現状を維持。繰り返す。キツネマルサンは現状を維持よ! 』
「んだとこのアマてめえ俺が生きて帰ったら司令部怒鳴りこんでそのデカイだけのケツ蹴り上げてやるからな!!! 」
『ブリーフィング聴いてたのウスラトンカチ! キツネマルサンはあんた達の退路を確保してんの! 袋の口を護ってんのよ! キツネが動いて口が閉じたら、五部隊二十四人が全滅よ。あんたそん時責任取るの⁉︎ その覚悟があんならケツでも鼻でも蹴りに来なさいよ蹴られてやるから!
……ですよね? 司令』
『その通りだ』
「このままでも同じだろ! ニンジャから敵増援の情報が来てる! 突破できなきゃ撤退もできず全滅だクソッタレ! 」
『UAVは無理だけどフタマルナナ航空隊のF24が間に合ったわ。
目標敵SAW陣地。爆撃は二分後。着弾と同時にコヨーテマルフタとゲンブマルヨンは三◯秒間の突撃支援射撃。コウモリマルヒトは突撃と制圧。敵MGRを捜索し無力化。コヨーテとゲンブはコウモリに続いて目標施設に突入、協力して施設内を掃討。サソリマルゴーは後方確保。キツネマルサンは退路を死守。MGR無力化が確認出来次第順次撤退。
徹底的に速やかに。OK? 』
『コヨーテ了解。現在地では突撃支援の射線が取れない。移動する』
『ゲンブ了解。待機する』
『サソリマルゴー了解』
『キツネも了解だ。帰り道は心配するな』
「……やりゃできんじゃねえか」
『聞こえないわコウモリマルヒト』
「徹底的に速やかに。了解だノキシタ。ありがとうよっ! 」
『……気を付けて』
「心配とは珍しいなノキシタ。何かあってもあんたに取っちゃモニターの
『こっちはあんたに取っちゃ単なる煩いスピーカーかも知れないけどね、仲間として力になりたいと思ってるのよ。いつでもね』
「……」
『時間だわ。幸運を。オワリ』
「任せとけ! オワリ! 」
高空を飛来するジェット戦闘機の甲高い唸りと空に響き渡る轟音。
いつもなら耳触り極まりないだろうその音が、今のミヤモトには天使の吹き鳴らすラッパのファンファーレのように希望に満ちた音色に聞こえた。
***
突如現れた敵性変異植物「O.P.S」(オーバーアクティブ・プランツ--”オープス”)と人類の戦争は熾烈を極め、今や人類は開戦前と比べその人口の半分を失っていた。
国連と各国軍事力を中心に組織された対過剰行動植物作戦機構、通称「T.O.P.O.S」は、様々な怪物へと変異、進化した植物軍団と日夜激戦を繰り広げ、一進一退の攻防の中、どうにか人類を絶滅から救う最後の砦の役割を果たしていた。
開戦から十五年。
末端の兵士の一喜一憂、その生と死とは全く別の所で、戦いは新たな局面を迎えようとしていた--。
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