涼宮ハルヒの夢再開
結崎ミリ
涼宮ハルヒの夢再開
「さぁSOS団強化合宿の始まりよっ」
夏休みに行くところと言えば外せないのは海よね。だからあたし達SOS団は二泊三日の合宿をすることにしたの。
海がすぐ近くにある旅館は古泉くんが手配してくれて、来てみたらめっちゃ良い感じのおんぼろ加減だったってわけ!
「いかにも幽霊が出てもおかしくない雰囲気ねっ。それとも殺人事件かしら!」
「これは事件の一つや二つくらい充分あり得る絶好のシチュエーションだわ!うんうんっさすがは古泉くんね!」
「お褒めに預かり光栄です」
「うぅ……怖いですぅ」
「おいハルヒっあんまり急ぐんじゃないぞ。たくっ荷物持ちの気持ちも考えられんのか、お前は」
「うっさいわね!合宿中は初めから終わりまで雑用係としての仕事をちゃーんと用意してあげてるんだから感謝しなさい!」
「それで感謝するやつがいたらここに連れてきてくれ。荷物持ちだろうが踏まれようが多少痛みつけられても問題ない人種だ、多分お前の罵倒もそいつらにとっちゃ大層ご褒美になるだろうよ」
「はぁ?何わけの解らないことを言ってるのよ。いいから行くわよっ」
「へいへい」
キョンはしぶしぶって顔で重そうにそう呟いた。もうっ団員としての自覚が足りないわ自覚が!少しは副団長としての仕事をきっちりこなしてくれている古泉くんを見習ってほしいわね。
みくるちゃんはSOS団のマスコットキャラだからこうやってちゃんと怖がってくれるだけで充分役立ってるわ!有希はそうねぇ、みくるちゃんと対称的に無口キャラで案外器用なところもあって、いざって時に頼りになりそうなのよねぇ幽霊とか全然怖くなさそうだし。
そんなことを考えながらふと有希の方を見ると、なんだか旅館の方をじっと見ていて、本以外にはあまり興味を持たない子だから不思議に思ったの。
「どうしたの有希?」
「この建物には何か違和感を感じる……だが今のところ危険性は見られない」
「そう……。まぁ有希もそう言ってるんだしとりあえず荷物を置いてさっそく旅館内を散策してくるわっ」
「了解しました。すみませんが僕は彼と少しお話がありますので、散策は後程させていただきます」
「あ、あたしも幽霊が出そうで怖いのでここに残りますね」
「……」
有希は何事もなかったかのようにその場で本を読み始めた。ま、いつものことよね。
「あぁそうだな……とりあえずそういうことだ。俺達は部屋にいるから、お前一人でとりあえずその溢れんばかりのエネルギーを発散してこい」
キョンは伸びをしてその場に寝転がった。
まぁ、いっか。この旅館、結構広いみたいだしとりあえず行けるとこは全部行ってみることにしましょ。帰ってくる頃にはいい時間になってるでしょ。
「昼までには戻ってくるから、それまで各々自由に過ごして良しっ。ただし旅館からは出ないこと。少しでも長い間建物の中にいて怪奇現象が起こる確率をあげないとね!」
そう告げてあたしは散策を開始した。
あたし達の貸し切りみたいで旅館内は客らしき人はいなくて、あたしはある部屋全部を見て回ってた。
しばらく歩いていると凄く長い廊下を見つけて、何故だかそこを歩きたくなって歩いていたんだけど全然向こう側の壁に辿りつけなくて「どうして?」って思ってるうちに突然辺りが真っ暗になったの。
そして足元に妙な違和感を感じたあたしは持っていたケータイの光で地面を照らしたんだけど、さっきまで木製の廊下だったところが土の地面になっていて、辺りをムカデやらミミズやらが蠢いていた。
「気持ち悪い!どこなのよここは」
靴を旅館の玄関に置いてきたこともあって早くさっきまでいた木製の廊下に戻りたくてあたしは駆け出した。
すると見慣れた背中を見つけたから、飛び乗ってやったわ。
「キョン!ここはどこなの!?こんなとこあたし行ってないのになんで」
「……」
キョンはなにも言わずあたしを背負ったまま歩き出して、なんで何も言ってくれないのか解らなかったけれど、あたしはなんとなくそれ以上聞く気になれなくなった。背負われたまんまだったしね。
数分後、肩から降ろされて土の地面がなくなっていることにほっとしたあたしが見たものは、見慣れた教室だった。周りに階段や窓ガラスがあることから自分が学校内にいることを知った。
「学校? なんでこんなところにあるの!?」
「行くぞ」
そう言って急に手を引かれたあたしは、キョンと一緒に駆け出す。階段の方に向かっている時に階段の壁から妙なものが突き出ていることに気付いたの。
走りながら見てみると、それは生足で、足が壁から生えていたのを見て、ここが学校ではなくお化け屋敷だとあたしは思った。
その瞬間ふいに憎悪らしきものを感じて、あたしは振り向く。
「なに……あれ」
二人の幽霊がそこにいた。いいえ、そいつらはどっちも大鎌を持っていたからもしかしたら死神ってものなのかもしれない。
「キョン!なんかでたあ!ねぇキョンあれ見てよ!」
「いいから行くぞ」
キョンは振り向きもせずあたしの手を変わらず引っ張って駆け出す。見るとさっきの死神はあたし達を追いかけてきていた。
前に見た白い巨人と違って明らかな殺意を感じたあたしは、怖くなってとにかくキョンの背中だけを見ていた。
ずっと走っているうちにとうとう行き止まりになったところでもう終わりだ!と思っていたらキョンは勢いを殺さず正面の壁に向かって走り出し、「ぶつかる」と思って目を瞑った時、
あたし達はグラウンドにでていたの。
さっきまでの壁を通り抜けたのかそれとも突然移動したのか解らなかったけれど、とにかくさっきの死神がいなくなっていることにほっと胸を撫で下ろす。
グラウンドの中央には、花が散りばめられた鳥居があって、右上に時計のようなものを見つけたんだけど、それは時計ではなく残り時間を示しているものだとあたしは思った。
「もう少しだ」
キョンは再びあたしの手を取り鳥居に向かって駆け出した。でも、どうしても時間内に間に合いそうにない。
あたしはもうだめ!と目を瞑った。
そして次に目を覚ました時、あたしは……俺はキョンになっていた。
隣で俺だった女は倒れていて、時計の残り時間は0カウントを示している。どうやら間に合わなかったらしい。俺はふと違和感を覚えポケットの中に砂時計を見つける。
何故だか俺は砂時計を使って時間を数分間巻き戻せることを知っていたわけだが、理屈なんてものはわからん。どうやら『今はそういうこと』らしい。
俺は砂時計を使い時間を戻し、土があった場所で女が来るのを待った。女は俺に飛び乗り、言う。
「キョン!ここはどこなの!?こんなとこあたし行ってないのになんで」
「……」
俺はどう説明すればいいのか解らず黙っていた。いや違うな、そうすることが最良だと考えたんだ。女を背負って教室に辿り着き女を降ろして、そして女の手を引きこう言った。
「行くぞ」と。
駆け出す。女は驚いたように「なに……あれ」とか「キョン!なんかでたあ!ねぇキョンあれ見てよ!」などと言っていたが俺は「いいから行くぞ」とだけ告げてちらりと後ろを見たのだが、死神二人が俺たちを追いかけてきていた。
たくっ、そうだろうと思ったぜ。
俺は女の手を取り出口に繋がる壁まで一直線に走り、壁を抜けたことで死神達がもう追ってこないことに胸を撫で下ろしたわけだが、なにせ難所はもう一つある。休んでる暇はない。
「もう少しだ」
花が散りばめられた鳥居まで駆けだす。だが、時間は間に合いそうにない、俺たちは駆け出す、間に合わない!そう確信した俺は女の手を思い切り引っ張り上げ、女だけを鳥居の中放り込み……、
気付くと俺は……あたしに戻っていた。
真っ暗な空間にただ一人浮かんでいて、現実でも夢でもない世界にいるような気がした。さっきの男は何だったんだろう。あたしだけ助けてもらってあの世界はどこへ行ってしまったのよ。
そう思っているうちに急に眠たくなってきて、あたしの意識は完全に消失した。
「ハルヒ!おいハルヒ大丈夫か!?」
「え……?」
あたしの目の前に今にも泣いてしまいそうな表情のキョンがそこにいた。見るとみくるちゃん、有希、古泉くんもいて、あたしを心配そうに見ていた。
あたしは寝ていたようで、上体を起こす。
「キョン、みくるちゃん、有希、古泉くん!あんた達ここにいるのね?ちゃんといるのよね!?」
「ああ、もちろんだ」
みんながここにいる、それがとても嬉しくて、何故だろう、あたしはとても安心したの。
「それでだな、ハルヒ」
キョンは困ったように眉間にしわを寄せた。
「急遽別の旅館に変更することになったんだ。そう、女将が出てきて急に大量の客が来たからでていけーって言うんだぜ?意味は解らなかったがどう交渉しても出ていけの一点張りでな、仕方なく、だ。だが安心しろ!次の泊まり処はこのすぐ近くで海はもちろんあるし料理もうまいって評判なんだよ!SOS団合宿はそっちでやろう」
「今回は僕のミスでこういう事態に発展してしまった訳ですから、合宿中の費用は全てこちらで持たせていただきます。新川さんに電話をしましたので、もうすぐ迎えのタクシーがやってくるでしょう。トラブルとはいえ、これは僕の責任です。本当に申し訳ありません」
キョンと古泉くんの提案にいつもなら反対していたと思うんだけど、何故だかあたしもその方が良いような気になった。
「あ……うん、まあそうね。いいわよ、そこまでの接待をしてくれるんだもの!今回だけ団長権限で許してあげるわ!みくるちゃんと有希もそれでいい?」
「私は怖くなければどこでも大丈夫です」
「いい」
「よーし!そうと決まればSOS団強化合宿再開ねっ。ちょうど迎えも来たようだし、改めて全力で楽しい合宿にしましょ」
そうよ、SOS団みんなが揃っての合宿なんだから、もっと楽しいことをしましょう!さっきまでのはたぶん夢ね、そうに違いないわ。
次の目的地に辿り着くまでにキョンたちにその話をしたけど、みんなも夢って言っていた。でも例えあれが夢の中での出来事だとしても、助けてくれたのは確かだから。
「キョン、荷物、少しだけ持ってあげるわよ」
「ん、ああそうか。助かるが、どうしたんだ急に?」
「なんでもないわよ!ふんっ」
「ハルヒ」
「なによ」
「ありがとうな」
涼宮ハルヒの夢再開 結崎ミリ @yuizakimiri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます