アルパカ・真実を求めて

桐生夢月

第1話


「こないね、誰もこないね」

今日も今日とてアルパカ・スリは待ちぼうけ、ジャパリカフェは大静寂。

これはおかしいと思った、図書館にてハカセ達から聞いた話によればカフェには紅茶を求めてフレンズたちが集まってくるとのことだった、しかし……。

「なぁんで誰もこないんだろねぇ~」

何か原因に心当たりはないだろうか、アルパカは必死に思考を巡らせた、すると突如として根本的な疑問に思い至る。


「もしかしてここ、カフェじゃないんじゃ……」


こうして、アルパカ・スリはジャパリカフェがジャパリカフェたる由縁を探し始めた。



まず、テーブルと座椅子の数だ。

木製で作られたそれは明らかに大人数で使用するために大きく多く用意されていた、間違いない、これはカフェの特徴だ。

ビン詰めにされた紅茶葉が綺麗に配置された棚を眺める、カフェ特有の景色だろう。

外に出てみた、山岳地帯の高山のひとつ、その山頂であるこの場所の空気は冷たくて美味しい、きっとお茶が進むに違いない。

カフェの外観を俯瞰してみる、木材とレンガ作りの落ち着きある佇まいだ、ゆったりとした雰囲気はお客さんの癒しとなるだろう、これもカフェにはなくてはならない要素だ。

なにより、入口付近に立てかけてある三角ボードには『ジャパリカフェ』とはっきり明記されている……、そんな気がする。



やはりこの場所は紛うことなきカフェテリアである、ならば何故お客さんはやってこないのか。

気を強く持たなければ奈落まで堕ちてしまいそうなる。

「ぺっ……!!」

ストレスを感じて反射的にツバを吐き飛ばしてしまう。


気が付けば夕陽が空を朱色に染めていた。

アルパカは二階から続く梯子を伝って屋上へと昇った。

屋根に並べられたパネルが陽光を反射して美しくきらめいている。

「そういえばこれ……」

誰が設置したものなのだろうか、原理もよくわからない、パネルから伸びた配線が妙なマークの描かれた場所と繋がっている。

試しに配線を引き抜いてみると一階の灯りが消えたのがわかった。

「へえぇっ~!?」

配線を繋ぎなおすと再び灯りが点いた。

「なるほどぉ、そういう仕掛けなんだねぇ~」


ザザザザ……


不意にテラスの方から砂嵐のような音が聞こえてきた。

音源を探りながらアルパカは屋上から二階のテラスへと移動した。

音源はすぐに見つかった、テラスの壁の上部に埋め込まれた黒い箱から音が流れ出ている。

「なんだろ~こりぇ~」

音を聞き取るために更に耳を澄ませる。


『おはようございます、こちらはジャパリカフェです』


「ひええええぇ~」

アルパカは突如として流れ始めた声に驚き尻もちをついてしまった。


『ジャパリカフェでは美味しい飲み物や食べ物をフレンズたちと一緒にお楽しみいただけます、絶景と一緒に思い出作りはいかがでしょうか』


「ジャパリ……カフェ……」

その言葉を聞いた瞬間、アルパカの瞳が潤んだ。

澄んだ声の向こう側にフレンズたちの楽し気な声が響いている。

やはりここはジャパリカフェだったのだ、かつて多くの者が訪れて賑わっていた場所だった。

アルパカの瞳にはフレンズたちで賑わうカフェの風景が映っていた、みんながアルパカの出すお茶を心待ちにしている。

必ず実現しよう、そのためにはいつお客さんが現れてもいいように準備をしなければならない。


『いらっしゃいませ、ようこそジャパリカフェへ』


アルパカ・スリはその声が途切れるまで耳を傾け続けていた。



ジャパリカフェの経営内容は多岐にわたる。

まず接客の練習だ、挨拶は接客の基本だ。


「いらっしゃ~い」

「またきてねぇ~」


併せて表情もなごやかに。

彼の有名アイドルのPPPぺパプも言っていた気がする、スマイルは最高の営業だと。


次に除草だ、カフェの近隣で伸びすぎた芝を刈る、道を整備して印象を良くするのだ。


更に、ときには山のふもとまで降りて直接フレンズの呼び込みも行う。

しかし、カフェの場所を教えると皆一様いちように山頂を見上げて苦い表情を浮かべるのは何故だろうか……。



翌朝、何かが爆発するような音と共にアルパカは目を覚ました。

「ふぇ、なになにぃ?」

慌てて店の外に飛び出しアルパカは異常の原因を探す。

よく目を凝らし周囲を見回すと遠くの火山から虹色の光が噴出ふんしゅつしていた、新たなフレンズの胎動たいどうを告げる『サンドスター』の輝きだ。

「ふぁ~、きれいだねぇ~きれいだねぇ~」

放物線を描いて空へ上っていく虹色の奇跡。

胸の奥底、原始的な部分から形容できない感動が漏れ出すのを感じる。

いつか、このサンドスターから生まれたフレンズをジャパリカフェに迎える、そんな日が来るのだろうか。

「わたしもがんばるよぉ~、さぁ、今日も練習するよぉ」

アルパカは大きく息を吸い込んだ。



今日は新レシピの開発だ。

棚の中から数種類の茶葉を取り出してそれを配合してみようと思う。

特にこの緑の茶葉は喉がスーッと通る感じがして面白いのだ。

「思いがけない味ができたりしてねぇ」

そんなことを呟いているとドア鈴の音が聞こえた。

まさかと思った、聞き慣れた音だったが自分以外が鳴らすことのなかった音だ。

ドアの方へとゆっくりと視線を向ける。

待ち望んだ瞬間がそこにあった。

気付けば喜びと共に自然と言葉に出していた。


「ふぁああああいらっしゃ~い!ようこそぉ、ジャパリカフェへ~」

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