第25話 Floralia
「あれは花の業だろうね」
「……花?」
「そう、お前たち虫に対して花。我らが目指す完成形の一つさ」
室内全てのモニターが消え失せ、宇宙を思わせる薄暗がりに室内が包まれ、一瞬覗いたフレイの表情もまた、影に隠され伺う事は出来なくなった。
「武力としての虫に対し、花は種を育み生む存在」
「何を?」
「生えるモノをさ」
禅問答か何かか。問いに対しフレイは自分の中でしか理解し得ない応えを返す。
そもそもがこんなテロ行為を始める様なヤツなのだから、理解が及ばなくても当然ではあるのだが、しかし、一体フレイは、組織は何を目的としているのか。いよいよ解らなくなってくる。
いつかの問いにフレイは世界征服だなどと嘯いたが、そんな荒唐無稽よりももっと異常な何か。それに向かって居る気がしてならない。
「解らない事は解った。んで、その花ってヤツはどいつだ? 本部でもそんなヤツが完成しかけていたなんて聞いた事ないぜ」
その点、揚羽は虫とされるだけあって飲み込みが早かった。フレイとの付き合いの長さから、理解は及ばないと理解しているのかもしれない。
一年少しの付き合いである俺ですら、フレイの腹の中が少なくとも混沌と
だからそう、無理に理解をする必要は無いのだ。
どの道は俺は流されるしかないのだから。
社会へ牙を向く。その点に置いてのみ、俺が組織に加担する理由がある。金の為だ何だと理由を付けてはいるが、正直一度潰されそうになった身だ。会社を、社会を、恨んでないかと言われれば嘘だ。
だが、喩えそうじゃなくなっても、もう引き返すなど出来よう筈がないのだ。
敢えてそれでも理由を求めてしまうとすれば、この悪の組織が何故か居心地が良いからなのだろう。
「この日本支部が何故生体ベースの怪人を産む目的にあるか、考えた事はあるかい?正直言ってしまえば戦闘能力や習熟の速さで云うならば本部の機械化が余程早いし強力だ。人間社会の兵装をも流用可能だからね」
「そりゃ、な。
って事はここの怪人共は花を生み出す為だと?」
「そう。この地上に種を撒く事の出来る花は、鉄の身体では芽吹かない。
活きたチに花は咲く。最も、こんな形で芽吹くとは予想だにしていなかったけれどね」
「……サクラ」
何かが繋がった。
何故少女に名が与えられたか。その名は何だったか。少女に名付けられた直前、何があったか。
思わず口を出たその名に、暗闇の中、フレイが微笑んだ気がした。
同時に何かが崩れ落ちた。
フレイに対してどこかで抱いていた幻想だ。
もし狙っていたのだとすれば。そう期待していたのだとすれば。
いや、それは、そう。俺の勝手な思い込みだった。あの時フレイは、怪人の素体として使うことを折り込み済みで、子どもたちを誘っていたのだ。
「何を……」
「ん?」
気がつけば色んな感情が渦巻いていた。
子供がどうとか、勝手に抱いていた好意がどうとか、組織の緩い空気や、こんな組織に居て笑っていられる人々だとか、色んなモノが脳裏を駆け巡っていた。
「何を目指しているんですかっ!? アンタは! 組織は!?」
叫んでいた。
知らないフリをしているには、もう何もかもが解らなかった。
「――戯れに、私は人間の文化に触れているのだがね?」
叫び問う俺に、薄暗がりの向こう、フレイはやはりいつものように微笑んでいるのだろう。
「あるゲームでこんなセリフを見たのだよ。
『革命家は次の世代の為に道を作るだけで良い』。
だから私たちは種を植えるのさ。アスファルトを砕き芽吹き、コンクリートを包む程に天高く生える生命を」
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