第10話 インターミッション


「あてっ」

 振動に体制を崩し、荷台の壁に頭を痛打する。


「もう少し丁寧に運転してくれないか、お尻が痛い」


 クッションも何もなく、むき出しのトラックの荷台に座らされフレイもまた運転する揚羽に抗議の声を向けた。


『悪い悪い。でも急ぎだろ?』


 用意されたのは箱型の4t車で、鼻薬を嗅がせた中古屋から引っ張ったものであった。イザと言う場合に備え、荷台の凡そ半分程に適当な荷を載せ、俺たちは空いた後部に座り込む。


 運転席とは隔離されており、揚羽とはヘルメットから外した通信機越しのものとなる。当然、俺たちには周囲の状況は掴めない。


「そうだが、くそ、スーツにクッション性を追加するように文句をつけてやる」

 臀部に走る痛みには流石のフレイもポーカーフェイスとはいかないようである。痩せぎすの体格のフレイは尻にも肉が足りないのだ。


 荷台の中俺たちは既に装備に身を包み、フレイもまたニズヘッグの姿となっている。強化服は大分部分に機構が組まれているせいもあってか、トラックが跳ねるたびに鉄が骨に干渉して余計に痛んだ。


「何もフレイまで来なくても良かったんじゃなくて? あの子寂しそうにしてたわよぉ?」


 一方のヘラクレスはと言うと、流石にというか不用心というか、自前の装備までは持ち込んでいなかったらしく、かといってヘラクレスの巨躯に合うスーツも無く、止む無く頭部のみケプラー繊維性のマスクを装着するに落ち着いた。

 よしんば戦闘があったとしても、これで大丈夫だという本人の言である。


「言ったろう、万が一に敵勢力との衝突が考えられる、と。万全を期すべきだよ。

 まぁそれに、流石にずっとベタベタされ続けるのでは少し疲れるしね」


 スーチが繋がるBMIから届く追加の情報では、対象のトラックはサービスエリアで休憩した後再び動き出し、現在は鹿島港へ向けて順調に走行中との事だ。

 時間はまだ夕刻には遠く、しかし追いつく頃には時間は夜も更けている可能性が考えられた。


「とはいえ、捕まるようなヘマはしないよう気を付けて下さい。何せ無免許なんですから」


 出発時にも念押ししたことだが、再度釘を差しておく。


 揚羽は日本に帰化した訳でもなく、当然として日本国内での運転資格を持たない。本部があるアメリカに国籍があるかも怪しいが、あるならあるで国際免許という手段もあろうが、聞くに所持していないとの事だった。


 つまりこの中で運転免許を所持しているのは唯一俺だけと言う事になる。


 だが俺は揚羽に運転を頼まざるを得なかった。それは俺が免許を取得して日が浅い事もあるが、俺が持つ運転免許では中型に分類される車両は運転出来ない法律となっているからであり、またオートマチック車両が主流となった現代で、此度組織が用意したのはマニュアル。更に言えばトラックのギア配置は乗用車のそれと異なるのである。

 一応とマニュアルで免許を取得した俺だが、配置まで違うとくれば最早お手上げというものだ。


 まぁ要するに結局俺が運転した所で違法には違いないという話である。


 捕まったらその場で荒事の始まり。

 俺にはただ、警察に捕まる事の無いように祈る事しか出来ないのだ。


「だぁいじょうぶだって、法定速度をちょい超えるぐらいしか出してねぇって」


「守って下さいよっ」


「何言ってんだ、唯でさえ抜かれまくってるんだぜ。まったく、それでも向こうに比べりゃヌルいってモンだけどな」


 そういう問題じゃない。

 血が上りそうなのを堪え、顔を振った。

 悪の組織が誰に祈ればいいのやら、教えて欲しい気持ちで一杯だ。

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