星の海と旅立ち

シロ助

第1話

 それは黒いセルリアンを倒し、みんながバスを修理してくれた後の話。

その日僕はまだ、旅立つ踏ん切りがつかないでいた。

ヒトとは一体どういう存在なのか。

それを知りたいという思いは強い。

でもわからないのだ。

それは本当に必要なことなのか。

ここでサーバルちゃんやラッキーさんやみんなと生活しても問題は無いのではないか。

わざわざ危険を侵して…。

「カバンちゃん!」

「あ、サーバルちゃん」

 どうやら遊園地内の探索から戻ってきたみたいだ。

「何かあった?」

「そうなんだよ!ぷらねたりうむ?ってのがまだ動きそうだってツチノコが言ってた。それでカバンちゃんに来て欲しいって」

 ツチノコさんはここ数日、遊園地内の施設を調べたりしてくれている。

ただ詳しいことはラッキーさんがいないとわからないので、何か発見したらラッキーさんと会話できる僕が行くことになっていたのだ。

「ぷらねたりうむ?なんだろ」

「プラネタリウムハ、シツナイデホシヲミルシセツダヨ」

 腕につけているラッキーさんが説明をしてくれる。

「星を?なんだろそれ」

「なんか面白そう!カバンちゃん行こう!」

「うん!」

 そうだ、今は今やることに集中しよう。ぷらねたりうむ、なんだか楽しそうだ。


「これがぷらねたりうむ?」

「そうだ、これがどうやら天井に光を映す機械らしい」

 そういってツチノコさんは大きな機械を指差す。

「どうやら動くらしいんでラッキービーストに動かして貰おうと――」

 ツチノコさんが説明しようとしたその時、入口から誰かが入ってくる物音がした。

「なになにー?これなにー?」

「へぇーなんかすごぃねぇー」

「なんか神秘的ね」

 カワウソさんとアルパカさんとトキさんだ。

「どうしたんです?」

「なんか面白そぅだからきちゃったー」

 きっと僕たちがこの建物に入って行くのが見えて付いてきたのだろう。

「ま、まぁいい。お前らもそこに座れ」

「ええ、さっそく始めましょうか。ラッキーさんお願いします」

「カバンちゃん楽しみだね!」

「マカセテ」


 ラッキーさんの声と共に周囲にあった光が消える。

「なになに?死んじゃった?」

「壊れていたのでしょうか」

 その疑問にラッキーさんが答える。

「オチツイテ、プラネタリウムハセイジョウニカドウシテイルヨ」

 これが正常な動きなのか。

そう思っているとどこからか声が流れた。

『星の世界にようこそ』

 この声は!

「ミライさん!」

「ミライさんだ!ここにも来たのかなぁ」

 サーバルちゃんとラッキーさんとの旅の途中何度も聞いた声だ。

「ミライハプラネタリウムノナビゲートオンセイモタントウシテイタンダ。ツマリハコノセツビノセツメイガカリダネ」

 なるほど。

 しかし驚くのはこれだけじゃなかった。

「天井に…光が…」

「ほへぇー。これはすごいねぇー」

「キレイ」

「楽しい!」

 そこにあったのは天井一面に広がる星空だ。

無数の星々。

その光景が何故か心を締め付ける。


『プラネタリウム。フレンズさん達には馴染みの無いものかもしれませんね。プラネタリウムとはこうやって夜空を作り出す装置のことです』

 ミライさんの説明は続く。

『フレンズさん達には星空は当たり前の景色かもしれません。しかし実は星空があまり見えない場所もあるのです。そういった場所で星にはどんなものがあるのか、どの星がどの方角にあるのか、プラネタリウムでは色々なことを学ぶことができます』

「カバンちゃん、ほうがくって前にフェネックが言ってたやつだよね?フェネックもこれを見たのかな?」

「あ、確かにそうかも。今度聞いてみよっか」

「うん」

 確かに他の場所にも似たようなものがあったのかも知れない。

『ですが今日は星とヒトについて話をしようと思います』

 ドキリと心臓が跳ね上がる。

 ヒトについて!

「カバンちゃん!」

「うんっ」

 僕が知りたかったことを知ることができるかも知れない。ヒトとはどういった存在なのか。

『遥か昔からヒトは星と共にありました。いつでも同じ場所で一際大きく輝く北極星。この星があることでヒトは進むべき方向を知ることができました。そして周りに海しか見えない大海原に探索の旅に出ることさえ出来たのです』

 海、そうだ海にでるなら必要な知識なのかも知れない。ラッキーさんなら知っているだろうか。

『ヒトの特徴はその探究心でしょう。大地を駆け海を渡り、翼を持たない身でありながら空を目指し、――いつしか人はあの夜空に輝く星の一つ、月にまで辿りついたのです』

 そこ言葉と共に月が空に映し出される。

「え?」

 月に?あの空にある?

「すっごーい!このツキって前にカバンちゃんが言ってた空にある大きなヤツだよね!」

「私でもあそこまで辿りついたことはないわ」

 それはそうだ。

 知識はないけど何となくわかる。あれはもっとずっと遠くにあるものなのだ。

『そう、ヒトの特徴である探究心は星の海を探索する船を作り出すほどのものだったのです』

 それは凄いことだ。でもミライさんの声はどこか悲しげだった。

『そこに至るまで、それからも実は多くのヒドイことをヒトはしてしまっています。詳しくは歴史館で聞いて見て下さいね』

 ヒトがした酷いこと…。

『さて、今日はその探究心によって調べ上げられた星々について学びましょう。美しいだけでなく、今後役に立つこともあるかもしれませんよ』


「楽しかったねー。難しくて話はよくわからなかったけど」

「うん、そうだね」

 あの後ミライさんは、季節毎に見える星が違うことや星座について教えてくれた。

一緒に見たみんなの星座が無くてみんながっかりしていたのは少し面白かった。

終わってからはみんなそれぞれバラバラに出かけていった。ツチノコさんはいつの間にかいなくなっていたけど。

 それとミライさんが言ってた歴史館だが、今は完全に停止しているみたいだった。

「カバンちゃん」

 サーバルちゃんに呼びかけられて振り返る。

 そこにいたサーバルちゃんは真剣な表情をしていた。

「行きたいんだよね、海の向こうに」

 ドキリとする。

 そうだ、行きたい。バスを修理してくれた時はとても嬉しかったのだ。

「う、うん。でも」

「でも?」

「なんで行きたいかわからなかったんだ」

 そう。わからなかった。

「なかった…じゃあわかったの!?」

「うん、サーバルちゃんとラッキーさんとツチノコさんのお陰だよ」

「ぷらねたりうむ?」

「うんそう、プラネタリウム。ミライさんの話を聞いてわかったんだ」

 そう、きっと特別なことじゃなかったんだ。

「知らないことを知りたい。未知なる世界に出かけたい。変でしょ?僕は怖がりなのに」

 そんな僕をサーバルちゃんは否定する。

「そんなことないよカバンちゃん。カバンちゃんはいつだって誰かの為に何かを知ろうとして頑張ってきていた。それが自分の為になっただけだよ。それに、きっと誰かの為にもなることだと思っているんだよね」

「サーバルちゃん…」

「行ってきてカバンちゃん!海へ!ほっきょくせいを目指して!」

 そう言うサーバルちゃんの笑顔はとても綺麗だ。

「……うん!」

 そうだ、旅に出よう。知らないものを知る為に。素晴らしいものを持って帰る為に。

 そして帰ってこよう。かつて海に出た冒険者たちのように。僕の故郷であるこのジャパリパークに。

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星の海と旅立ち シロ助 @Shirosuke15

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