一片の記憶

@love_serval

別れと出会い

― みなと ―


どうして…


「ごめんね、サーバルさん。私は必ずこのパークを復興させに戻ってきますから」


どうして、行くの…


「ラッキー、パークをよろしくね」

「ワカッタ」


そう言って『あの人』は去ってしまった。

私は『あの人』の言葉を信じて、ボスと見送ることしかできなかった。

遠目で見た『あの人』は少し泣いているのか、とても辛そうな表情をしていた。


― さばんなちほー ―


「…さーん!早く早く。カラカルがあのおっきいやつ山で見たって!みんなで連携して、やっつけちゃおう!」


あなたは誰…


「そうですね、やっつければ全部解決です!ぱっかーんといきましょう!」

「そうだよ、ぱっかーんだよ!」



「またあの夢…」


私は最近『誰か』と一緒にどこかへ向かっていく夢を見る。

あれは誰…カラカル?

いや、カラカルとは雰囲気が全然違った。


「でもまあ、考えるほどのことでもないのかな~」


私にとってその誰かがとても大切な存在だったような気がするけど、

また後でいいや、と考えるのをやめ、

すぐ近くの木で爪をといでいると、


「サーバル~何してるの~?」

「あ、ルルちゃん」


遠くから走ってきたトムソンガゼルのルルちゃんは不思議そうに私の手元を覗き込む。

いつも通り爪とぎをしていることを伝えると、


「そっかぁ」


毎日このやり取りをしている気がする。

でも、いつも伝えた後になるほど、と頷く動きが可愛くて飽きない。


「それよりサーバル!また勝負しよ!あの湖まで」

「ふふーん、サーバルお姉さんに勝てるのかなー?」

「この間は途中でセルリアンが見えたからやめたけど、今日こそは勝つから!」


私はよくルルちゃんと狩りごっこをする。

でも、ほとんど途中でルルちゃんが変なところへ逃げてセルリアンと出会うから、いつも見逃さないように追いかけてる。

私は足の速さには自信があったけど、ルルちゃんも速いからいつも大変。

まるで手のかかる妹ができたみたい。


「いいよ!じゃあ私はここから行くね」


私は追う側だったから、ルルちゃんから少し離れた場所で合図を出す。

ルルちゃんも手を振って準備ができたという合図を出してた。


「じゃあ行くよ!」


ルルちゃんが走り出して狩りごっこが始まった。


「やっぱりルルちゃんは速いなー」


ルルちゃんを視界に入れつつ、周囲にセルリアンがいないかを確認する。

今回のルルちゃんはいつもより速い。


「全力で追いかけないと負けちゃうかも」


内心楽しみながら、ルルちゃんだけを視界に入れて追いかける。

ふと、夢で見た光景がよぎった。

セルリアンに追われて逃げている?いや、セルリアンを追っている。

とても大きな黒いセルリアン…私はあんなのを追ってた?なんで?


「わー追いつかれたー」

「え?」


ふと後ろを見ると、既にルルちゃんを通り越していた。

湖まであと少しのところで狩りごっこは終わり、結果は私の勝ち。


「もー、いつになったら勝てるのー」


少し息を切らして、涙目になっているルルちゃん。

私はさっきまで考えていたことを忘れ、横になってるルルちゃんのすぐ近くに屈んだ


「私はお姉さんだからね!まだまだ負けないよ!」

「ふえぇ」


ルルちゃんの気の抜けた声を聞いて私が笑い、それを見てルルちゃんも笑う。


「湖まで行って休もうよー」


いつも以上に走って私は疲れてたから聞いてみると、

ルルちゃんも水が飲みたかったみたいで大きく頷いた。


― さばんなちほー(湖) ―


「そういえば、最近あの人見なくなったね~サーバルと一緒にいると思ったんだけど」


湖につくと、突然ルルちゃんが私に言った。


「あの人?」

「うん、いつも……なんだろ、よくわかんないものを頭にのせてた人」


そう言ってルルちゃんは手で『よくわからないもの』の形を作っていた。

なんだろ?ジャパリまんみたいな形かな?


「うーん」


もしかして『あの人』が最近夢で見た『誰か』の正体なのかな…

あと少し思い出せそうな気がするけど…


「よくわかんないや」

「そーかー、まあいいや。私はこの後ラビラビのとこに行くけど、サーバルはどうする?」

「おもしろそー!行くよ!」


ラビラビなら何か知ってるかもしれないから、行ってみようかな。


― さばくちほー(オアシス) ―


「あ、いたいた。ラビラビ~」


手を振ったルルちゃんの先でアラビアオリックスのラビラビが手を振り返していた。


(中略)


「…というわけで、こーんな形の物って何かわかる?」


ルルちゃんがやったように手で形を作ってみた。


「確か……そうだ!ぼうしってやつじゃないかな?」

「ぼうし…?」


ラビラビは少し困ってたけど、『それ』が何か教えてくれた。


「うん、確か以前パークにいた人?が持ってたやつ」


人…

ヒト…?


―――――――――――


「…さーん!」


「ミ…イさーん!」


―――――――――――


今の声は…私の声?それに、あれは…人なの?

頭の中で私が誰かを呼んでいるように聴こえた。


「ちょ、サーバル大丈夫!?」

「え?」


ルルちゃんに言われて気づいた。

なんで私…泣いてるの…


「あれ…?おかしいな…どうして」


ルルちゃんやラビラビに大丈夫といって、

私は私の縄張りへ帰った。


― さばんなちほー ―


その日の夜、私はどうしても、その『誰か』を知りたくなった。

あそこで私が声を聴いたときに見えたあのぼうし…


「ダメ…思い出せない。どうして…」


思い出さないと…

また忘れてしまうかもしれないのに…


「朝…」

いつの間にか朝になっていた。

でも結局その『誰か』を思い出すことはできず、

そのまま私は眠りについた。


………なんだろう、近くに何かいるのかな。

音のする方に目を向けると、確かに何か動いている。

その『何か』の付近にサンドスターがたくさん光っている


「新しいフレンズ?」


なんだろう…何のフレンズかな?


「あれは…ぼうし?」


確かにほんの少しだけ見えた、

『何か』と共に夢で見たあのぼうしが。


「あれがあの人なの!?」


考えるより先に、私は木から飛び降りて

その何かへと走っていった。


きっとあの人だ!…そう思って。

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