ホームセンター戦記

よもつひらさか

第1話 ホームセンターへようこそ。炎上上等!

「特招会で売り上げ一位になった部門担当者には金一封が出ます。」


私はホワイトボードにデカデカと書かれた文字に見入っている。


「いくら出るんすかね。」


興味本位で、副店長に聞いてみた。


「さあ~。大した金額じゃあないんじゃないの?うちの店、セコいからねー。」


副店長の中野は鏡で鼻毛のチェックをして、生返事だ。


私は永遠の中二の心を持つ腐女子 水戸 奈津子。


この大型ホームセンターで契約社員として働いている。


「フフン、売り上げ一位はうちの部門がいただいたね。


この日のために、エクステリアのリフォーム代金を今日支払いに来るように


お客さんにアピールしといたから。ポイント10倍つくから、お得ですよーってね。」


補修部門の主任がしたり顔で言った。


「あー、きったねー。ずるいぞー。」


園芸部門の田中君が言った。


「なんとでも言え。売り上げとったもん勝ちだよ。結果だよ。結果を出してナンボでしょ。」


主任の梶原と田中が小競り合いをしている。


私には関係のないことだな。


どうせ私は、担当無しのクレーム処理班、サービスカウンターなのだから。


今回は「お客様特別招待会」と銘打って、お買い得商品を満載


しかもポイント10倍の大イベントを行う。


お、そろそろ朝礼の時間だ。


全員整列して、挨拶が始まる。


挨拶が終わると社訓の唱和だ。


12時間営業の店なので、朝礼と言っても、シフト別にお客さんの居る時間帯に


朝礼をするので、このお客に媚びた社訓の唱和はかなりあざといと私は思う。


お客様に感謝するだの、なんだの、心にもないことを連呼するのだ。


「こら、水戸納豆、声が小さいぞ。」


店長の金田に言われた。


今度それ言ったら殺す!


心の中だけで呟いた。


2年前赴任してきた店長は鬼だ。


人使いが荒く、毒舌でしかも、人に不愉快なあだ名をつけるのが得意だ。


まぁ水戸納豆は昔からからかわれたことのあるあだ名だから、よけいむかつく。


腐女子だしね。どーせ腐ってるしね。性根だって腐ってるから。


だから私の頭の中には、嫌な常連客の死体が累々と転がってるから。


「なんとか売り上げ取れるよう、がんばりましょう!」


店長がシュプレヒコールをする。


だいたいが、社訓を唱和させる自体、ブラックなんだよ。


時代遅れか。


朝礼終了とともに、早速電話が鳴り響く。


私の戦いの火蓋が切って落とされる。


暗たんとした気持ちで受話器をあげる。


「お電話ありがとうございます。ナイス 菅井店 水戸がお受けいたします。」


「もしもし、お宅の店で買った湯たんぽね、すぐ冷めるんよ。」


「恐れ入ります、だいたいどれくらいのお時間で冷めますでしょうか?」


「わしゃね、6時には布団に入るんだけどね。朝になったらもう冷めとるんよ。」


「・・・・・朝は何時に、ご起床になられますか?」


「朝は6時に起きるよ。」


私はめまいがした。


だいたい湯たんぽ、夕方6時に寝ること、想定して作ってないよね。


12時間も持つ魔法の湯たんぽ、あったら欲しいわ。


おじいちゃん、これ何の冗談かな?


だいたいこういうくだらない電話で一日が始まるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る