1-9 勝利の宴・剣闘の宴 2
闘技場では『ウェールズ』王国の剣術演舞が催されている。政治の退廃と地方領主達の傍若無人な振る舞いにより、数千年に及んだ『ミズガルズ』中原の統治に終止符を打たれた『ウェールズ』王国ではあった。
しかしながら、長年の安定した王権で涵養された体系だった魔法術、麗しい文化、洗練された剣術、国家の強靭の要ともなる諸要素については、どれをとってもぽっと出の『革命軍』のそれとは一線を画し極めて充実している。
ただ貴族の、人を人とも思わないような暴虐非道な振る舞いにより人民の離反を招いた事だけが、唯一の重大すぎる過ちであった。現在の『ウェールズ』王国はその反省を活かし高度な文化で公民的な国家としての再生を図っているはずであった、少なくともレーネに『火の雨』をお見舞いされる前までは。なお王国『ウェールズ』の繁栄と洗練については、本筋とそれるのでここでは触れずストーリーの進行と共にご披露することとなろう。
「三の型、終わり。二条錐形をとり、四の型へ推移!」
「はっ!」
剣士隊長オルソンの手慣れた俊敏な指示に従い、隊員は速やかに予め定められた陣形の初期位置へ散る。
「騎乗突撃への反撃の型、始めっ!」
「はっ。」
オルソンの指示に従い騎兵突撃に対応するべく歩兵が錐形に集合して、大盾で前面を防御しつつ、馬上の兵士への反撃のための上向けに跳躍する体制を整えた。そして大盾の剣士の「はじめ!」という合図と共に、攻撃方の剣士が背後に設置されている跳躍台から3m、ものの見事に跳躍して、一意専心騎兵の首をめがけて剣を振りおろす。そしてすぐに小型の盾で防御態勢を整えると地面に着地、一斉に散開した。
その訓練された一糸乱れぬ力強い動きに草原の民達観衆は沸き立つ。これが『ミズガルズ』中原を長年統治してきた剣士たちの錬磨された姿なのだと、感嘆の声をあげる。
ジャムカや彼の側近たちはその正確無比な動作を感心して見つめていた。リーンにとっては一昔前の日常茶飯事、遠い日の記憶を思い出させるような、定められた公式のような動作であった。
「演舞ご苦労。オレたち草原の戦士にはない洗練された動きだな。それでお前たち、レーネの『革命軍』によって『ルーアン』中 火の海にされたのではなかったか?」
ジャムカが剣士隊長オルソンに話しかける。
「は、その通りでございます。しかしながら、火の海の当日に即位されたレティシア様の御国への使節と駐留は継続するようにとの命により、御国首都サマルカンドより戦勝の宴に馳せ参じております。」
「ふむ外交手腕か、レティシアとやら『革命軍』に追い落とされた『ウェールズ』の貴族ども達とはちょっと違うようだな、それとも側近の入れ知恵かな?」
7年前の口惜しい敗戦の史実を淡々と会話に加えられ、オルソンが未だにやるせない態度でうなだれる。
(は、まずいわ、あの人戦場で見かけたような気がするのよね、、、)
そーっと、抜き足差し足で隠れようとするリーンであったが、そんな事情などまったく知らないジャムカは、
「ああ、そういえば『レボルテ』の魔道師範がここにいるぞ。ほら。」
「あ、お前は!!『イスティファルド』攻防戦』の際、突然30mもの大きさの林檎の人面樹を出現させて城門を内から破壊し尽くした『野菜士』 リーン だな!!!あれがなければ、我々王国も崩壊せずに済んだものを!!!!なんだその人を小馬鹿にした王族の様な身なりは!!?」
「おまけに、また今になって、休戦協定を結んでいるにもかかわらず、何の前触れもなく、最新兵器で平和に生まれ変わった我々の首都『ルーアン』に無差別攻撃を加えるとは!!!!」
リーンはジャムカとの交渉を少しでも有利にするため、『青のオルド』で揃えられる限りの身なりを整えてこの場に臨んでいる。戦場での生死をかけた戦いを昨日の事のように思い出したオルソンにとっては、それをあざ笑うかのようなきらびやかな身振りだ。怒り心頭なのも無理は無かった。
それに加えて、先日の『レボルテ』の裏切りそのものの奇襲攻撃に怒り心頭、今にも詰め寄り襲いかからんとするオルソン。戦場で近しい人でもなくしたのか、その瞬間沸騰したような顔と血走った眼は尋常ではない。
「ほぉ、お前そんな事もやったたのか、ますます興味が湧くぞ。」
「は、ははは、あの時は、私達も必死だったのよ。それから先日の件は、私も止めようとしたのよ。ガ、ガラハド、助けて~。」
「おお!!!」
宴会場にて、マサムネと踊り娘の妖艶な踊りに目を肥やしていたはずのガラハドが、突如、雄叫びを上げた。さながら英雄である。そして、リーンやジャムカのいる王座へ向けて悠然と歩み寄る。途中の闘技場にいるオルソンや他の『ウェールズ』剣士たちなどは目にも入っていないようだ。
「お、お前は!!! 『古代迷宮戦』でオレ達の大将軍ユーウェインを屠った、『黒夜叉』ガラハドじゃないか!!!!こ、こんな所で出くわすとは、大将軍の敵、積年の恨み今こそ晴らしてくれる!!!!」
「おぉっ!」
「あの『古代迷宮戦』の一番首か!」
「オレ達の王国を蹂躙した恨み忘れね~ぞ!!」
演舞で身体も温まりかつての仇敵を見つけて沸騰する『ウェールズ』剣士陣であった。が、一方のガラハドは稲妻のような速さで立ち回り、愛用の黒いバスタードソードを振りかざし、剣の腹で全ての剣士たちを峰打して、あっという間に戦闘不能にする。
「く、やはり、一番首『黒夜叉』ガラハドは伊達じゃないな、しかしオレも『ウェールズ』剣士隊長の身、簡単にはやられ、、、ぐがっ。」
口上を述べる間もなく、ガラハドの稲妻の剣は妖精シルフのような自然さで、オルソンの背後に回りこみ後頭部をヒットして失神に追いやった。
「誰かと思えば『ウェールズ』の弱兵か、なんの手応えもなかったな?」
ガラハドのハエでも払うような一言。
ニヤニヤ笑うマサムネと微笑ましく笑うリーン、遠目に目が会い相槌を打った。
(さすがマサムネ、うまく乗せてくれたわね(笑)。)
「なんだ、あいつも手配書に貼られてあったやつだな?この間となんか雰囲気違うような、、、しかし中々の腕前だな、『レボルテ』に追われているなら丁度良い、リーンを妃にするのと一緒に隊長に取り立てようか?」
闘技場で『ウェールズ』兵隊長に電光石火の攻撃を行ったガラハドを見て、初めて気がついた、といった感じでジャムカは言った。どうやらリーンにばかり目が行っていて、隣に貼られていたガラハドの手配書が全く目に入っていなかったようだ。リーンは待ってましたと言わんばかりに、ガラハドが迫る前の絶妙なタイミングで哀願するようにジャムカに訴えた。
「待ってくださいジャムカ様。一つお願いがございます。私と共に『レボルテ』より亡命した剣術師範ガラハドは、実は、私の許嫁にあたります。もし彼を打ち負かしたならば喜んでお妃となりましょう。私は強い男が好きなのです。確か、草原の国には女を娶る場合、一対一の血闘により決着を付けるというしきたりがあったと聞いておりますが。」
「は、血闘か、面白い。」
(やった!引っかかったわ(笑)。)
マサムネの描いた筋書き通りジャムカはガラハドとの対決にノリノリで応じた。こうしてプレイボーイ ジャムカの鼻を明かすべく、決闘へと臨む3名であった。
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