1-5 マサムネ

---移動宮廷 『青のオルド』 内の 商店街にて---


「おい、早くしろよ、装飾品一つに何十分かかってる!!」


「はい、ヤキモチ焼かない。」


「ヤキモチって!お妃の申し出を受けたからって、何だよ、そんなに気合入れて!!」


「ガラハドだって、その帯剣ベルト、ちょっと黒光りしてて滑らかそうでなかなか良いじゃないのよ。」


「いや、これは、、、カーンとの戦闘で切れちゃったんだよ。」


ここは、移動宮廷 『青のオルド』 内で、草原の民、戦士また王宮官吏や宮女達の生活を支えている商店街である。『ミズガルズ』中の様々な商人たちが、この新進気鋭の『ジャムカ帝国』に集まってくる。


リーン、ガラハド達が争っていた装身具屋の横で、大道芸人が見世物を披露していた。


「見るも不思議なこのダガー何回投げても的の中央に一突きさ、10回投げて1回でも外れたら、お客さんに100パタカ(100万円)プレゼント、掛け金は1パタカ(1万円)で。」


「お前さんの投げる位置から的までは100mはあろうかというのに、ほんとかね?掛けよう。」


「100パタカももらえるの?お代は私でいいかしら?」


「けっ、出来るわけねぇじゃねぇか、10パタカくらい掛けてやるぜ!ダメなら1000パタカよこすんだぜ!!」


中年太りの商人、娼婦、酔漢などなど、カジノや闘技場と言った娯楽の少ない移動宮廷だけあってなかなかに賑わっている。よく訓練された猿が皆から1パタカ金貨を集めていた。


「はい、お客さんで10人目だね!では参加料もお猿のシュマリが頂いたことだし取り掛りましょう。まず一投目! ジャカジャカジャカジャカー、ジャン!」


そして、大道芸人が、一撃必殺の得意技でも繰り出すかのような大げさなフォームで放ったダガーは、瞬間で的の中央を射止めた。


「まぁ、やるわね~。」


「まだまだ先は長いよ~。おい、シュマリ、ダガー持ってきておくれ。」


と、言うと、彼の肩に留まっていた金絲猴がススッと的まで駆けていきダガーを抜いて戻ってきた。


「猿まで、大道芸の内かい、よく出来てるね~。」


「じゃ、お次は3投同時で、分身するダガーもよく見ておいでなさいよ~。」


と、言うと、手慣れた仕草でダガーを右に振り左に両手の間で振りだす。数十回振り、目で動きが追えなくなった時点でダガーは3本に分裂した。


「その巧みな手技、私にも試してちょうだい~(笑)。」

娼婦は、昼間からずいぶんと酔っているようだ。


「へっ、手品師め!」

先ほどお金を出した酔漢は悪態をついている。


そうして今度はバック宙しながら不意に3本同時に投げる。すると、まるで予め居場所が分かっていたかのように、ダガーは3本重ねて的の中央を射抜いた。どよめく観客と歓声、一部のブーイング。周りは大道芸人の名人芸に熱狂の嵐であった。


、、、そして 9投目、、、


「それじゃ、今度は目をつぶって投げますよ~、的を射抜いたら拍手喝采!」


いろんな観客に目隠しの確認までさせて投じた一振りも、規定事実かのようにやはり正確に的を射貫く。辺りは大歓声に包まれたが、なけなしの1パタカを叩いた酔漢だた一人は憮然としていた。


「さ、最後の1投は、後ろ向きに投げて、ブーメランのように向きを変えて飛んでいきますよ~。」


「ふざけんな、インチキじゃねぇか!糸でも付いているんだろうが!!」


でっぷりと太った酔漢は、あわよくば体格差に物を言わせて1パタカを取り返そうとして大道芸人に詰め寄った。


「さ、お客さん危ないですよ~。」


と、酔漢に向かってダガーを投げつける。フロッティは約束通り、的の真逆の後ろ側、酔漢の額スレスレに飛んでいった。


「ぎゃっ!な、何しやがる!!!」


と、腰を抜かす酔漢、ところがダガーは酔漢の怒りなどまったく意に介する事無く、綺麗に弧を描いてUターンし、的の中央へ突き立った!


「いやはや、驚いた。100m先の的を普通の投げ方で10回射抜くだけでも大したものなのに、目隠ししたり、逆向きに投げたり、すごい芸だね、1パタカはおみやげに。」


「じゃ、今夜はよろしくね(笑)。」


酔った娼婦も、大道芸人の粋な話術と手技にごく好意的である。どうやらこの男、持って生まれたプレイボーイの素質があると見えた。


、、、


「な、マサムネ!?『フロッティダガー』を何てことに使ってんのよ!!!」


「何って、お客さんを喜ばせてるんだからいいだろう!オレの戦利品だから何に使おうが勝手だろ!?って、リーン!? ガラハドも?何でこんな所にいるんだ???」


--- 大道芸の一幕が終わって、しばらくして、、、 ---


大道芸で観客を歓声の渦に巻き込んだ男は、リーンやガラハドの『英雄戦争』からの親友、マサムネ・B・ゴーンである。ガラハドよりは少し小柄な身体(と言っても、170cmは超える)、胸板や筋肉も剣士ガラハドよりは若干スマートではあったが、隙の無い敏捷な身のこなしは『英雄戦争』時代に果たした極めて重要な役割を今でも十分に物語っていた。


肩には相棒の金絲猴シュマリ、そして動きを阻害しないシンプルな装束に見を包み、いかにもただ者ではない雰囲気だ。そして、娼婦の受けの良さからも分かるように、精悍なキタキツネをイメージされる、ジャムカとはまた違うスッとした魅力的な顔立ちをしていた。


左腰には愛剣の『フロッティ』を差し込んでいる。大道芸でも皆の注目を集めたこのダガーは、ひとたび振れば持ち主の思い通りの位置へ超速で飛んでいく、カーブや回転も自由自在だ。そして持ち主の意思により、何個にでも増やすことが出来る神話時代の遺物の一つであった。


マサムネは『英雄戦争』当時、諜報や脅迫、暗殺と言った、裏と名のつくすべての仕事を一手に引き受け、戦況を『レボルテ』有利に誘導した立役者の一人である。彼がいつから『フロッティ』を所有しだしたか、どこでどう裏稼業のスキルを身につけたのか、そして敵地で具体的にどういった活躍をしていたのか、本人は一切リーンやガラハドに語らないため、彼女にも詳しいことは分からなかった。それでも彼らは親友であった。


「こんな所で大道芸人やってるなんて!?一体『英雄戦争』が終わってから、何していたの?」


「そうだぞ、お前『英雄戦争』の立役者の一人じゃないか?」


「そうか?」


と、自らの功など流れ行く雲とでも思っている様子、栄誉欲は毛ほどもない様子である。


「オレは組織なんて堅苦しいのまっぴらだからな。終わってからすぐに一人で旅に出たんだ。『ミズガルズ』中、北の森から南の砂漠までいろんなところを回ったよ。」


「あなたの事だから『フロッティ』以外にもいろんな神話時代の遺物を見つけてそうね。」


「まぁな、この金絲猴シュマリもそれなんだぜ!シュマリ、シュリンク」


と言うと、マサムネの肩に乗っていた、大道芸で俊敏な動きを見せた手乗りサイズの金絲猴は、みるみる縮んで3cmくらいの赤銅色に輝く種になってしまった。


「まぁ、魔法生物だわ、こんなに完璧な作用機構の物はこの世界からもう失われてしまって久しいものね。私にも解読出来ないわ。どこで見つけたのよ?そんな貴重なもの?」


「あぁ、とあるダンジョンでな。神話時代からある遺跡はおもしれ~な、ハハハハハ。」


「そんなとこで楽しくトレジャーハンティング出来るのは、あなたくらいなものね。」


「まぁな、お気楽さだけはお前のおじいちゃんにも負けねーよ。」


「とは言え、オレ達の革命国の事も一通りは知ってるんだぜ。『時空水晶』の発見やら、前王マキシムの葬式やら、跡継ぎのレーネの戴冠やら、お前らが師範代になった事も耳に入っているよ。それにしても、あの<手配書>一体、何があったんだ?お前らが悪いこと出来ないって事は、よく分かってるけど。」


「そう、何もかも知っているのね。でも、ちょっとここじゃ話しづらいわね。」


「そうか、丁度そろそろ夕飯時だし、オレのお気に入りの宿まで案内してやるよ。そこでゆっくり度の思い出話でもしつつ、お前らの珍道中を聞こうじゃねぇか(笑)。」


「珍道中って、おれはとばっちりなんだぜ!」


「そうよ、ガラハドはともかく、珍道中じゃなくて決意の逃避行なのよ。ま、案内してよ。久しぶりに乾杯しましょ!」


軽口を聞きつつも、7年ぶりの再会を喜ぶ3人であった。

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