サプライズな隠し事
ツアー終了からしばらく経って、`ALISON´とケイトのコラボ曲『I miss you』のCDが発売された。
`ALISON´はテレビの歌番組やトーク番組、ラジオ番組へのゲスト出演、雑誌の取材など、また慌ただしい毎日を送っている。
そしてネット配信された、アンリことレナの歌うヒロとのコラボ曲『秘密』も、正体不明の女性シンガーが誰なのかと話題になった。
あれからレナは、ヒロに自分の元で歌手にならないかと誘われたが、やはり本業のカメラマンでやっていきたいと断った。
でも、いつもとまったく違った自分になってみるのも悪くはないと、レナは秘かに思う。
気が向いたらまたやろうと、ヒロは笑った。
「えっ?!オレがですか?」
ユウはヒロの唐突な提案に戸惑っていた。
久し振りにヒロから個人的に呼び出され、何を言われるのかとビクビクしながら対面したのだが、思ってもいなかったソロデビューの話にユウは面喰らった。
「いやいや…。そもそも、オレはボーカルじゃないですよ?ソロならタクミの方が…。」
ヒロはタバコの煙を吐きながらニヤリと笑う。
「タクミじゃあ意外性の欠片もないだろ。」
「意外性…ですか?」
「オマエさぁ…なんにも言わないけど、気付いてんだろ?」
ヒロの言っている意味がよくわからず、ユウは首を傾げる。
「なんのことです?」
「オマエなら、一瞬で見抜くんだろうなと思いながら作ったんだけどな。」
「あっ…。」
それがレナの歌のことだとユウは気付く。
「そうだろ?」
「ハイ、まぁ…。」
「だよなぁ。で、どうだった?」
「どうだったと言われても…。」
(あんまり色っぽかったんで驚いたとか言えないしな…。当たり障りなくビックリしたとか言っとくか?)
「まぁ…驚きましたよ。何も聞いてなかったですし…。あのレナがよく引き受けたなと…。」
ユウの歯切れの悪い言葉に、ヒロはニヤリと笑う。
「めちゃくちゃ色っぽかっただろ?」
ヒロに図星をつかれて、ユウはあたふたと目線を泳がせる。
「ハイ…。」
ユウが小さく返事をすると、ヒロはおかしそうに笑った。
「オマエには秘密にしておけと言ったのはオレだが、まだまだオマエの知らないレナがいるわけだな。」
「そうですね…。」
ヒロはタバコを灰皿の上で揉み消して、まっすぐにユウを見る。
「そんなわけで、次はオマエの番だ。」
「ハイ?」
「ケイトとのことはケジメつけたのか?」
ヒロの言葉にユウは度肝を抜かれた。
あたふたしているユウを見て、ヒロはニヤニヤしている。
「オレが気付いてないとでも思ったか?ロンドンにいた頃から、オマエとケイトの関係くらいは気付いてたぞ。」
「えぇっ…。」
ユウは驚き言葉をなくした。
「で、どうなんだ?ハッキリさせたのか?」
「ハイ…。ツアーの最終日に、ケイトと話をしました。今までオレがハッキリした態度を取らなかったばかりに、ケイトもレナも悲しませるようなことになってしまったので…。」
ユウはポツリポツリと素直に話す。
「だよなぁ。結局、オマエはレナに甘えて、つかなくてもいい嘘までつかせて…レナがどんな思いで嘘をついたのか、ちゃんとわかったのか?」
「ハイ…レナがずっと無理して笑ってたことにもオレは全然気付かなくて、不安な思いばかりさせて…レナがなんにも言わないのは、昔のことはしょうがないと許してくれているものだとばかり思ってました。でもそれは、これ以上、知らなくて済むことは知りたくないって、レナが身を守るためについていた嘘だったんですね…。」
レナの気持ちを思うと、ユウの胸は、しめつけられるように痛んだ。
「今は、ちゃんとわかってんだろ?」
「ハイ。もうあんな思いはさせません。」
「だったらそれでいい。もうレナを一人で泣かせるようなことはするな。」
「ハイ。」
(なんでもお見通しか…。)
ユウは改めて、ヒロの優しさに気付いた。
「そこでだな。レナが嘘をついて、オマエに秘密を作った。だったらオマエは嘘偽りのない、正直な気持ちを歌にしてみると言うのはどうだ?」
「へっ?!」
またしても唐突なヒロの言葉に、ユウは気の抜けた返事をする。
「結婚式の時に聞いたオマエの曲も良かったしな…。あの2曲に、新たな1曲を加えてCDを出すと言うことで。」
「いやいやいや…。あれはレナのために作った歌ですから…。」
ユウが慌てて首を横に振ると、ヒロはニヤリと笑ってユウを見た。
「それでいいんだよ。レナのために出すCDなんだから。」
「レナのために出す…?!」
「あのレナの歌な、タクミが作詞したんだが…あの時のレナの気持ちそのものだったろ?アイツ、かわいい顔して腹ん中ひねくれてやがるからな。おまけに頭がいい。人の気持ちもお見通しってわけだ。」
「はぁ…。」
(ヒロさんとタクミって親子じゃないよな?)
「でも、オマエは違う。嘘つくのはヘタだし、隠し事もできない。だったら最初から、素直に伝えればいい。レナのために、オマエの素直な気持ちを歌にしてやれ。」
「でも、それならソロでなくても…。」
「オマエが歌うから意味があるんだよ。」
「いや、でも…。」
ユウがやっぱり無理だと断ろうとすると、ヒロはじっとユウを鋭い視線で捕らえ、口元だけでニヤリと笑った。
「やるよな…?」
(こえぇよヒロさん!!笑顔で威嚇!!)
「ハ、ハイ…。喜んで…。」
「よし、そうと決まれば曲作れ。できるだけ早くな。それから、レナには秘密だ。」
「秘密ですか?」
「まぁ、これはレナへのサプライズだな。」
「はぁ…。」
「曲できたら連絡しろ。」
「ハイ…。」
ヒロの強引な笑顔の威嚇で、結局ユウは断り切れずにソロデビューに向けて動き出すことになってしまった。
(レナが断り切れずに引き受けた理由がよくわかる…。ヒロさんマジでこえぇ…。)
ヒロと別れて家に帰ると、ユウはソファーに座ってタバコを吸いながら、あれこれと考えを巡らせた。
(レナへの素直な気持ちを歌にしろとか…急に言われてもなぁ…。)
ユウが考え込んでいると、仕事を終えたレナが帰宅した。
「ただいま。」
「おかえり。」
レナは買い物袋をキッチンに置くと、ユウの方へ近付いてくる。
「どうかした?」
「ん?」
レナはユウの眉の間を指でつつく。
「眉間にしわ。」
「あっ…。」
(ダメだ、こんなんじゃすぐバレる…。)
レナはユウの隣に座ってユウの顔を覗き込む。
「何か難しいこと考えてた?」
「いや、たいしたことじゃないんだ。新曲のこと考えてただけだから。」
「ふうん…?」
ユウは不思議そうに首を傾げるレナを抱き寄せて、頬にキスをする。
「今日の晩飯は何?」
「今日は肉じゃがとほうれん草のお浸し。」
「手伝おうか?」
「ホント?じゃあお願いしようかな。」
それから二人でキッチンに立って夕飯の支度をした。
なんでもないレナとの日常が、とても大切で、幸せだとユウは改めて思う。
レナの笑顔は穏やかで、もう嘘をついて笑う必要はなくなったんだと思うと、ユウの心は温かいもので満たされた。
(ヒロさんの言うレナへの素直な気持ちって、こういう気持ちのことなのかな…。)
それからユウは、仕事の合間を縫って曲作りに励んだ。
レナに見付からないように、できるだけレナがいない一人の時に、ギターを弾きながら浮かんだ歌詞をメモする。
(こんなんで、ヒロさんの納得行く曲ができるのかな…。)
何度も悩んでは手を止め、また作り直す。
(素直な気持ちか…。)
レナがいてくれて良かった、とか…もう2度と離さない、とか…愛してる、とか…。
(いやいや…そんなんじゃないな…。)
その気持ちはもちろんあるけど、今のユウにはしっくり来ない。
(何かもっと、さりげないことでいいんだけどな…。)
タバコに火をつけ、煙を吐きながら、ユウはなんとなく部屋を見渡した。
ロンドンから日本に戻ってこの部屋に住み始めた頃とは、随分変わったなと思う。
それはレナと一緒に暮らし始めてからだ。
気が付くと当たり前のように物が増え、自分一人の生活空間ではなくなっていた。
いつの間にかキッチンには調理器具や調味料が増え、いつも空っぽに近かった冷蔵庫には、いろいろな食材がしまわれている。
浴室にはレナの使っているシャンプーやリンスが並び、いつの間にかユウもそれを当たり前のように使うようになっていた。
洗面台には歯ブラシが2本並び、気が付くと新しい物に取り替えられたりしている。
(そうか…。一緒に暮らすって、こういうことなんだな…。)
いつの間にか、レナがいることが当たり前になっていて、二人で寝て、起きて、食事をして、他愛もないことで一緒に笑う。
(幸せって、こういうこと言うのかな…。)
いつかシンヤが言っていた、特別なことなんて何もなくても、二人で過ごす幸せな日常の意味が、ユウにもわかるような気がした。
それからしばらく経って、ケイトがイギリスに帰国した。
何事もなかったように、ケイトは笑って日本を発った。
ただひとこと、本当に好きだった、と呟いて、ケイトは何もかも吹っ切れたように清々しい顔で笑った。
ケイトの想いに気付きながらもそれに応えることもできず、結局は傷付けてしまったことが申し訳なくて、ユウはごめんと言う代わりに、幸せになれよと言った。
いつかケイトにも、心から愛し合える誰かが見つかることを、ユウは心から祈った。
いつしか季節は夏になり、ユウはヒロの元で秘かにレコーディングを行っていた。
曲のアレンジをヒロが手掛け、ユウはギターを弾き、歌を歌う。
元々ボーカルじゃないユウは、本当に自分の歌が世に出ていいものかとも思ったが、引き受けてしまったからにはやるしかないと、心を込めてレナへの歌を歌う。
その甘く掠れた歌声を聴きながら、ヒロは満足そうに笑った。
ユウがそんな毎日を送っている頃、事務所を通して、ある正式なオファーがユウの元に舞い込んだ。
「えぇっ…。」
久々に呼び出された社長室で、ユウはまたそのオファーに驚き戸惑っていた。
「ユウに是非ともやってもらいたいんだと。」
「いやいや…。そんなこと言われても…。」
ステージでギターを弾く以外は、あまり人前に出るのが得意じゃないユウは、そのオファーに後込みしてしまう。
「引き受けてやれよ。大事なおふくろさんなんだから。」
「まぁ…そうなんですけど…。」
それは`アナスタシア´初のメンズファッションのイメージキャラクターとして、ユウにCM出演やポスターなどのモデルをして欲しいと言うものだった。
「オレがレナの夫だからですかね…。」
「まぁそれは大いにあるだろうな。でも、社内でイメージキャラクターは誰がいいかってアンケートを取ったら、オマエがダントツの人気だったらしい。」
「そんなこと言われても…。」
「ずっと子供服を含めてレディースばっかりだったのに、高梨さんがメンズ服を作ろうと思ったのは、ユウに着て欲しいからなんじゃないのか?ゆくゆくは夫婦で共演とか、そのうちベビー服を子供に着せて…とかな。」
「えぇっ…。」
(最近わけのわからないオファーが多すぎる…オレはギタリストなんだけど…。)
ユウは困った顔で社長を見た。
「タクミとか、他のメンバーに引き受けてもらうわけには…。」
「それはないな。でもうまくいけば今後、CM曲とか、ステージ衣装の協力とかな。いろいろなメリットがあるんじゃないか?」
「はぁ…。」
(なんだ、この有無を言わさぬ感じは…。)
「とりあえず、引き受けろ。嫁さんの顔を立ててやれ。高梨さんも喜ぶだろ。」
「はぁ…。」
ユウの口からは、気の抜けた返事しか出て来ない。
「まぁ、そういうことだから。頑張れよ。」
(えぇっ?!オレには拒否権なし?!)
「わかりました…。」
ユウは肩を落として社長室を後にした。
そんなユウの様子を見て社長は苦笑いをする。
「ホントに欲のないヤツだ…。でもまぁ、高梨さん親子は、アイツのそういうところが気に入ってるのかも知れないな…。」
ユウがヒロの元でレコーディングを終えた頃、`アナスタシア´での仕事が始まった。
カメラマンを須藤が務め、ユウはなんとも言えない緊張の中で写真撮影にいどむ。
(レナだけじゃなくて、オレまで…。)
いまだに腑に落ちない部分はあったが、ユウはカメラの前で指示された通りにポーズを取る。
「なんと言うか…レナにそっくりだな。」
「えっ?」
須藤の言葉の意味がわからず、ユウは首を傾げる。
「レナはカメラに目線を向けるのが苦手なんだよ。カメラに向かって笑ってと言われるのは、もっと苦手だ。ユウくんもそうかな。」
「そうですね…。あまり得意ではないです。」
「じゃあ、もっと自然な感じで撮ろうか。無理して笑ったりカメラ見たりしなくていいよ。」
(それもまた難しい気がするな…。)
レナはいつもこんなことをしているのかと、妙に感心してしまう。
(普通に…自然に…。)
ユウは須藤に言われた通り、シャツのボタンを留めながら目線をカメラから外す。
それから衣装を変えて、ソファーに座ったり、コートを羽織ったりする。
(こんなんでホントにいいのか?)
いまいち自分のモデル仕事に自信が持てないユウだったが、須藤の撮った写真をパソコンで確認して愕然とした。
(いつの間にこんな写真を…。)
ユウが気付かないうちに、須藤によって撮られた写真は、とても自然な表情をしていた。
(さすが…。)
「初めてのわりに、なかなか良かったよ。」
「どうも…。」
これがレナのポスターのように、`アナスタシア´の店舗に貼られるのかと思うと、無性に恥ずかしい。
(とりあえず、写真撮影はクリアだな…。)
レナがユウに何も言わないところをみると、自分が`アナスタシア´のイメージキャラクターに決まったことは、まだ公表されていないのかも知れない、とユウは思う。
(リサさんや須藤さんや、会社の人からも、何も聞いてないのかな?)
レナが知っていても全然おかしくはないはずなのに、と違和感を感じながらも、かと言って、いろいろ聞かれたり話したりするのも照れ臭くて、ユウはレナがこの話をしてくるまで、このまま敢えて触れずにいようと思った。
その数日後、初めてのCM撮影も無事に終わりユウはやっと緊張から解放された。
いつも雑誌の写真撮影やテレビ出演などの仕事の時には、まわりにメンバーがいることで、随分緊張も和らいでいるのかも知れない。
(一人で前に出る仕事は、やっぱり苦手だ。)
人前に立つ仕事の自分でさえこうなのだから、極度の人見知りで人前に出るのが苦手なレナはもっと大変だったに違いない。
(どうやって克服したんだろ…。)
とりあえず自分の仕事を終えたことで、肩の荷がおりた。
ユウは、これでやっといつも通りの生活に戻れると、上機嫌でレナの待つ家へ帰る。
玄関ではレナが「おかえり」と笑顔でユウを出迎え、ユウは「ただいま」と笑ってレナを抱きしめてキスをする。
二人で過ごすなんでもない日常は、とても穏やかで温かい。
大事な人の待つ家へ帰ることが当たり前になることは、なんて幸せなんだろう、とユウは思った。
暑かった夏もようやく終わりに近付いてきた。
夏の間、野外ライブやイベント出演などが続いて多忙だったユウと、グラビア撮影や雑誌の撮影などで忙しかったレナは、一緒に夏らしいことも特にしないまま夏を終えようとしていた。
カレンダーはもう9月。
二人が結婚してから半年以上が経っていた。
「えっ?!」
その日のお昼時。
人の出払った事務所で、テレビを見ながら昼食を取っていたレナが、突然大声をあげた。
テレビ画面には`アナスタシア´のメンズファッションのCMが流れている。
(全然聞いてないんだけど…!!)
`アナスタシア´25周年を記念して、テレビCMの放映を始めることと、新たにブランド初のメンズファッションが発売されると言うことは聞いていたけれど、そのイメージキャラクターがユウに決まったことは、レナはまったく知らされていなかった。
(なんでユウが`アナスタシア´のCMに?!)
しかも、映像のバックには、おそらくユウのものであろう歌声が流れている。
ユウからも何も聞いていなかったレナは、呆然とテレビに映るユウを眺める。
(何これ…カッコいいんだけど…!!)
CMが終わると、レナはため息をついた。
(完全にやられちゃった…。)
そう言えば最近、モデルの仕事もなかったし、カメラマンの仕事が忙しくてリサに会っていなかったなと、レナは思いを巡らせる。
(これは、秘密返し…?)
レナはガックリと肩を落としてから、気を取り直して昼食の続きを食べ始めた。
夕方、レナが帰宅すると、郵便受けには梱包材の感触のする厚みのある封筒がレナ宛に届いていた。
(なんだろ…。誰から?)
差出人欄には、`ALISON´の事務所の名前と住所がプリントされている。
(なんでユウの事務所から私宛に?)
レナはリビングで荷物を置くと、ハサミで封筒を開け、その中身を確認してまた呆然とした。
(えっ?!何これ?どういうこと?)
それは、ユウのソロデビューCDだった。
ジャケットには照れたように視線を外すユウの写真の下に`片桐悠´と書いてある。
(何これ…もう何がなんだかさっぱり…。)
封筒の中から、1枚の紙切れがはみ出しているのを見つけて手に取り、文字に視線を落とす。
“ビックリしたか?
できたてホヤホヤ、
発売前の旦那のソロデビューCDを
プレゼントしてやる!!
ダディから娘への初めてのサプライズだ!!”
ヒロの手書きと見られる短い手紙に、レナは絶句した。
(えぇっ…ダディ…面白がってる?!)
とりあえず、レナはCDを聞いてみようとプレイヤーにセットする。
ケースからブックレットを取り出し開いてみると、そこには収録曲のタイトルが並んでいた。
スピーカーからは静かに音楽が流れ出す。
(この曲…ユウが高校の時に作った曲…。)
高校時代、ユウの伝えられないレナへの想いを歌にした『そして今日も、君を想う』。
これから人生を共にするレナのために、結婚披露パーティーで歌った『君と僕を繋ぐもの』。
そして3曲目には、今回のソロデビューのために新たに作った曲で、ユウがレナへの素直な気持ちを歌った『嘘つきな君と僕』。
ユウの優しいギターの音色に乗せて、甘く掠れた歌声がレナの耳に流れ込む。
『嘘つきな君と僕』
君の知らない僕を すべて知ったら
君はなんて言うだろう?
君に嫌われるのが怖くて僕は
隠すことにしたんだ
君を悲しませる僕のすべてを
嘘つきな笑顔の下に
不安な夜は何も言わずに
ぬくもりを確かめて
抱きしめあって眠りについた
嘘つきな君と僕
君は気付かないふり していたんだね
僕のヘタな隠し事
君は傷付くことをおそれて僕に
嘘をついていたんだ
ずっと僕の前で笑っていたね
悲しみと涙 隠して
不安な気持ち 胸に閉じ込め
いつだって 笑ってた
隠した涙 見ないふりした
嘘つきな君と僕
もう 無理して笑わずに
素顔のままの君でいて
怒って僕を責めても
思いきり泣いてもいい
もう 一人で泣かないで
どんな君も愛してる
そばにいても遠く感じて
切なさを隠してた
言い出せなくて瞳そらした
嘘つきな君と僕
“もうどこへも行かないで”
涙を浮かべ 呟いた
迷いも 胸の痛みも
君のこと 受け止めるから
もう 嘘などつかないで
どんな君も愛してる
もう どこへも行かないよ
ずっと君のそばにいる
素直な僕の気持ちを
君だけに伝えたいから
もう 一人で泣かないで
どんな君も愛してる
(ユウ…。)
レナの目から、とめどなく涙が溢れた。
もう、不安な気持ちを隠すことも、無理をして笑うこともしなくていい。
ただ、素直にユウを愛していこう。
ユウを信じて、一緒に生きていこう。
レナは指で涙を拭いながら微笑んだ。
レナがリビングで一人、涙を拭っていると、帰宅したユウが驚いてレナの顔を覗き込む。
「どうした?」
慌てて両手でレナの頬を包んで涙を拭うユウにレナは抱きついた。
「ユウ…大好き…。」
「えっ?!」
テーブルの上のブックレットを見たユウが、急にしどろもどろになる。
「あっ…これ…?!」
「ダディからのサプライズだって。」
「えっ?!」
「今日はユウにビックリさせられっぱなし…。お昼は`アナスタシア´のCM見て驚いて、家に帰ったらユウのCDが届いててまた驚いて…。ユウ、私に隠し事ばっかりするんだもん。私、もう、心臓もたない。」
「あっ…いや…。そういうつもりでは…。」
ユウはあたふたしながら視線をさまよわせる。
レナはユウの胸に顔をうずめて呟く。
「でも、ありがと…。ユウの歌、すごく嬉しかった。」
「…うん…。」
ユウはレナを抱きしめて、優しく髪を撫でる。
「でも…。」
「ん?」
レナはいたずらな目でユウを見上げる。
「奥さんに隠し事して驚かせたバツは…どうしようかな。」
「えぇっ…ごめんって…。」
慌てるユウの唇に、レナはそっと口付ける。
「ユウがどれくらい私のこと好きか、教えてもらおうかな。」
レナが微笑むと、ユウはレナをギュッと抱きしめて、優しく口付けた。
「長くなるけど。今日だけじゃ済まないかも。それでもいい?」
「うん。ずっとそばにいてくれるんでしょ?」
「じゃあ…一生かけて、伝えようかな。」
二人は見つめあって微笑み、唇を重ねた。
優しく甘いキスを何度もくりかえし、二人は愛しそうに抱きしめ合う。
「レナ、愛してる。」
「どんな私でも?」
「うん。泣いても怒っても、どんなレナも、全部、オレだけのレナだから。」
「私も、ユウのこと全部、愛してる。」
「じゃあ…オレがどれくらいレナを好きか、もっとわかってもらおうかな。」
ユウはレナを抱き上げてベッドに運ぶと、優しくレナの頬に口付ける。
「長くなるよ?覚悟はいい?」
「うん…。」
二人は何度もキスを交わし、愛してると囁きながら、お互いの肌の温もりを確かめ合う。
そこには不安も嘘もない。
大切な人の温もりを感じる、甘く優しく、幸せな長い夜だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます