第4話


 

 




 翌日も、平和にスタートした。

 盗撮したヤツらは。

 晒して拡散とか、考えてなくて。

 ひとりえっち用にしてるのかな?

 わからんが。

 それならそれで、まあいいけど。

 いや、良くはないけど。

 被害が広がらないなら、まだマシだ。

 

 カホの身体がオカズになるのは。

 彼氏として、納得いかないがな。

 待てよ?

 オレの身体?

 まさかね~。

 

 

 

 まさか。

 まさか、ね……。

 

 

 

「ねえねえ」

「あ、おはよ! ちょっといい?」

「聞きたいことあるんだけど、今って平気?」


 教室に入ったら、いきなり女子たちに囲まれた。

 なにかの間違いだろう。

 こんなとき、オレは冷静なんだ。

 オレがこんなに、モテるはずがない。

 絶対に、なにかウラがあるんだ。

 そんなに、甘いオレじゃない。

 

「いったい、なに?」


 かなりクールに言った(つもりだ)。



 

「男子からコクられたって、本当?」

「カホちゃん、どうするの?」

「実は、バイセク?」

「ちがうよ、バリタチなのよ」

「D専かあ」

「やっぱりそうなんだね」




 なに言ってんだ、コイツら?

 自己完結してるし。

 

 

 

「だって、隣の席のヒロが」

「そうそう。我慢できなくって」

「それで、ナオくんは」

「うん、D専のウケだったんでしょ?」




「はい?」




『やっぱり~』




 崩れ折れなかったこのオレ自身を、大いにほめてやりたい。

 

「ゲイだったんだ、ナオくん……」

「カホ! どっから聞いてた!?」

「『ヒロからコクられた』って」

「ほとんど全部やん~!」


「カホ」

「力強く生きるのよ」

「私たち、いつでも味方だからね」

 女子たちが、勝手極まりないこと言ってる。

 

 

 

「待てまてマテ。どっからがホントなんだ?」

 オレは、女子たちに食って掛かった。

 ってのは、オオゲサかもだけど。

 

「だからー。隣のヒロが」

「そう、ナオくんのこと、好きでたまらなくて」


 ――おいおい。

 

「そのー。あのときの」

「うん、オカズにしたいからって」


 せーのっ。

 

『カホちゃんとのえっち。盗み撮りされたんでしょ?』


 ひっくり返った。

 どうにか、そんなオレをカホが助けてくれる。

「すごい話になっちゃったね」

「うれしそうだな、カホ」

「うん! 私もBL好きだもん」

「違うだろ、それとは」

「そっかなあ」

「あのな。オレたちの。そのー、アレが」

「うんうん」

「オカズとして、使われてんだぞ?」


 カホは押し黙った。

 そうだろうそうだろう。

 

「ナオくんの。そのっ。――が、でしょ?」


 オレは思ったね。

 彼女ってのは、近くて遠い存在だ。

 

「そりゃ、私も……。恥ずかしいけど、さあ……」

「だろ?」

「ナオくんは。渡さないもん!」




 女子たちが拍手した。

 あたまいてぇ。

 そんな渦中に、ヒロが入ってきた。

 

 

 

『応援してる、ヒロ!』

「どっちの味方なんだよ、お前ら!」

「あー。ナオ。ごめんな、一昨日は」

「――本気か?」


 ヒロは、真面目な顔を赤らめて。

 

「オレは。ウソだけはついたことがない!」

『きゃ~!』


 ダメだ。

 なんなんだ、このクラス。

 マトモなのは、オレとカホだけなのか?

 それすらも怪しいけど。

 

「お前には、カホって言う彼女いるの。わかってる」

「だったらいいだろーが」

「良くないんだ。それでも。それでも……!」

 オレは、帰りたくなってきた。


「ナオ。お前が好きだ!」


 初めてコクられた。

 ――男子に。

 

「えっちいトコを盗み撮りしたのは。本当に悪かった」

「わかってんじゃん」

「だけど。それくらい……」

「――はあ」

「うなずいてくれるのか!」

「この流れから、どーしてそう取れる?」

「恋心、この。本物だ!」


 そろそろ許してくれ。

 

「だったらさ。好きな相手の気持ちを考えることも。必要だろ?」

 我ながら、上手なことを言ったと思う。

「オレのこと、好きなら。あの写真と動画、どうして欲しいかわかるよな?」

 たたみかける。

 

「そ、それは……」

「答え、出てるんだろ?」


「わかった。消去する」

「コピーもな」

「なぜ知ってる!?」

「フツーに考えりゃ、わかるだろがよ」


 心底、残念そうな表情に、ヒロはなった。

 

「約束する。全部消去する」

「それでこそだ」

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