桜柄のティータイム

「ハルちゃーん」

「あらあずさ、残念。ちーならプールに行ってるわよ」

「ンもう! ちーが「日曜の昼ならいるよー」って言ってたから時間合わせて来たのに!」

「そのうち帰って来るわよ。上がって待ってなさい」

「お邪魔しまーす」


 長い休みのちーはバイト詰めだってことは知ってたけど、一応いつなら空いてるかなって聞いてみた。そしたら、忙しい日は朝の7時半から夜は10時半くらいまで働いてるし、休みの日曜にはプールに行きたいからそれが終わってからならいいよって。

 プールで泳ぐことがちーのストレス発散とかリフレッシュ法だってわかってるから、無理にあたしの用事で止めることはしない。あたしは家も近いし時間もたっぷりあるから。本当にちーの時間が取れるときで。

 こないだ、朝霞クンたちと趣味の買い物をするっていうお出掛けをしたときに見つけて一目惚れした桜柄のクッキーローラー。それを使ってクッキーを焼いたから、ちーの予定に合わせて持って来たんだけど、このザマでした。


「あっ、ハルちゃんもよかったら食べて。クッキー焼いたんだー」

「あら綺麗な柄」

「そうでしょ! これね、こないだ見つけて一目惚れしたんだー、桜柄のクッキーローラー。こっちが抹茶味のクッキーで、こっちが絞り出しで作った桜の形のクッキーだよ」

「さすがあずさ、上手。春らしくていいわー、可愛らしいし」


 いるって言ってたのにちーがいなかったのにはちょっと怒ってるけど、ハルちゃんに褒めてもらえたからまあいっか。ハルちゃんに褒めてもらえると、不思議と自信になるんだよね。あたしでもやればできるんだって。


「彼にもあげに行ったの?」

「そう、聞いてよハルちゃん! こないだ買ったの使って作ったよーって渡しに行ったら、もらい物っていうシリコンパッドで綺麗に桜柄の入った手作りのロールケーキがありました……味も美味しかったし節分豆を大豆粉にして再利用したレシピって聞いて美味しいやら完敗やらで」

「上には上がいるってことね。でも、お菓子作りは誰かと競ってるワケじゃなくてアンタが好きでやってるんだから、気にしなさんな」

「弟子入りした~い、朝霞クンのその友達に弟子入りした~い」

「あら、そっちなのね」

「お菓子作りだけじゃなくておつまみも上手だって言うし~」

「でもねえあずさ、カオルちゃんを胃袋で掴もうと思ったら、相手になるのはセミプロの味。アンタは本腰入れてペンで勝負した方がいいと思うわよ」

「せっかく忘れてたのにー!」


 ――とか何とかやっていると、ドタバタとちーが帰って来た。玄関の靴であたしが来ているのがわかったらしく、リビングに来るなりちーは一言「ごめん!」と。だけど、それだけ行って水着を洗濯しに行ってしまった。まあ、水着はほっとくと後が大変だからね。


「ごめんあずさ。昼には帰らなきゃって思ってたんだけど、先に友達から連絡が入ってさー。遅くなるって連絡すればよかったね」

「ハルちゃんとお喋りしてたから大丈夫ですぅー」

「あっ、やっぱ怒って……る、ね。ごめんなさい」

「ううん。無理言って時間作ってもらってるしいいよ。それでね、クッキー作ったから持って来たんだ。ちーも食べてね」

「わー、ありがとう! えっ、これ? 春っぽくてきれいだね。あっ、そうだあずさ、その友達からケーキもらったんだ。作ったから食べてって。兄さんも一緒に食べよう」

「じゃ、お茶の準備するわね」


 ハルちゃんがお茶の準備をしてくれている間、ちーとはいろんなことを話した。今は何がどうしてそんな働き方になっているのか。学費のためなのはわかるけど、時給も上がったのに働き過ぎじゃないかって。

 いつものように、ちーからの答えは「兄さんには自分のお金を好きなように使ってほしいから」だった。ハルちゃんもちーも優しすぎるから、たまにとんでもないムチャをするんだよね。2人とも体力に自信があるから尚更。


「ちー、あずさ。綺麗な柄のロールケーキよ」

「……ハルちゃん、このケーキ多分朝霞クンの部屋で食べたのと同じヤツだ」

「あら」

「あー、そう言えばカズ、定例会の子に配ってるって言ってたなあ」

「えっ、もしかしてその子ちーと朝霞クンの共通の友達!? 頼んでもらったらお菓子作りの弟子にしてもらえる!?」

「え、えっと……確かに共通の友達だけど、弟子入りはどうかなあ」


 紅茶とクッキーと、ロールケーキでちょっと贅沢なアフタヌーンティー。ちーとハルちゃんには束の間の休息だろうけど。本当に、2人が体を壊さないといいんだけど。

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