キルアンドリスポーン

「あっ、バネバネこっち!」

「リアルでそう呼ぶなと言ったが」

「しゃーねーじゃん、そっちのが呼んでる回数多いしさー」


 今日はリン君に連れられるまま、最近メンバーに加入したというゲーム実況グループの会合について行ってみることにした。するとどうだ、そこにいたのは俺のよく見知った顔。放送部の菅野と菅野だったのだ。

 元々の俺の性格なのか、研究領域なのかはわからない。だけど俺はいろんな人にいろんな話を聞くのが大好きだ。ゲーム実況という世界が存在することは知っていても、それがどういうことかはよくわからない。だから聞いてみようと思って来てみたら。


「って言うか朝霞じゃんか! お前何やってんの」

「後学のためにゲーム実況者とは何たるかを見てみたくてついて来た。リン君とは友達つてに最近知り合って。あ、俺の事は空気だと思ってもらって」

「朝霞、知り合いか」

「えっと、同じ部活だった。あんま絡みはなかったけど」


 企画の打ち合わせはラインやチャットなどでも出来るけど、実際に対面して話す方が話が広がることも少なからずあるそうだ。それでなくても音楽という共通の趣味のこともある。3人はゲームの話が終われば音楽の話をする気満々でいるようだ。


「……いや、空気だと思えって言われてもお前の眼力が強すぎて気になるわやっぱ」

「朝霞はゲーム実況動画を見たことはあるのか?」

「えっと、リン君から教えてもらってお前たちがやってるのは何本か見た。いい意味でバカなことをガチでやってんなとは」


 素人なりに感想を言えば、グループ、そして動画の方向性は大体今の感じで大丈夫そうだなと“先輩”2人は確認し合った。新メンバーが入って来るとグループの雰囲気や方向性が変わることもある。それを調整しながら上手くバランスを取らなければならないそうだ。

 今の場合だとバネ(リン君)というビッグマウスで、かつそれ相応の実力のあるメンバーが加入したことによってより突っ込んだプレイに挑戦できるようになったそうだ。しかし、ガチなプレイヤーが登場したことによって、抑揚はどうしようと。


「なるほど、全体のバランスを取っていくのはP的な視点が必要になってくるんだな」

「その辺はスガが上手くやってっから!」

「スガノはUSDXの常識人枠だ。カンノはガヤ枠で、オレはカンノを見つけ次第殺すのが最近のテンプレと化している」

「マジで何遍殺されたか!」


 今目の前にいる3人以外にもメンバーはいる。全員が全員リアルな知り合いでもないし、会ったことがないメンバーがいるなどはザラ。相手の素性もわからないけど一緒に遊ぶのは楽しいそうだ。


「しかし、次は何をやろうかね。最近はマイクラばっかりだったし」

「朝霞、何か案はあるか?」

「えっ、いや菅野お前俺に聞くのかよ! つか俺は空気だと思えっつっただろ」

「いや、逆に斬新な案を出してくれるかと思って」


 動画の企画はメンバーが持ち回りで担当している。自分の得意なゲームで無双したりとか、みんなでやってみたいと思うことなどをどんどん挙げていくそうだ。

 ただ、最近は少し企画もマンネリ化してきていたようだ。新メンバー加入の勢いそのままにグイグイ斬新なことをやっていきたいというのが常識人かつプロデューサー的な視点を持つ菅野の考え。


「ところで朝霞のゲーム経験は?」

「あんまやんないけど、TRPGとか人狼とかはガンバマりしてた時期がある」

「ああ、そっち系か。いいな」

「あとボードゲームは朝霞家のDNAに刻まれてるぞ。並大抵のプレイで俺に勝てると思うな。テレビゲーム系ならアクションは苦手。シミュレーションは比較的得意そう」

「スガノ、TRPGは面白くなりそうだな。連中のキャラクターも込みで考えればだが」

「シナリオはどうする?」

「朝霞、物書きのお前ならTRPGのシナリオなども書けるだろう」

「まあ、いくつかストックはあるし書こうと思えば全然書けるけど」

「書けるのかよ!」


 気付けば空気どころか会議に余裕で巻き込まれてたし、シナリオライターとしてゲーム実況の新シリーズに参加することになってしまった。いや、卒論と就活だけじゃ張り合いがなかったし、やっぱりこうでなくちゃ。エンジンがかかってきたぞ。


「シナリオは朝霞に書いてもらうとして、イラストとかはどうする」

「簡単な挿絵くらいなら描けるけど」

「マジかよ朝霞、お前やるな! お前ただのステージ狂じゃなかったんだな!」

「菅野、お前俺を何だと思ってたんだ」

「いや、だからステージ狂?」

「リン君、コイツ動画上で殺しといて」

「よかろう」

「ぎゃー!」

「一応シナリオライターの名前はクレジットに明記しないといけないし、朝霞のハンドルネームなんかを付けないと」

「スガ、お前真面目か!」

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