君とこれから何食べよう

公式学年+2年


++++


「うわっ、何だあれわかりやすっ」

「ラブラブだねー」

「めでたしめでたしっすし、一周回って元に戻った感も強いじゃん?」

「あっ、それや。康平、それだで。元に戻った」


 とうとうゼミ合宿最終日。全ての行程を終えたゼミ生たちは、雪山の洋館とかいう大学の施設を後にして現在は高速道路の上にいた。途中、マイクロバスから大型の観光バスに乗り換え、そこからしばし行ったところにあるサービスエリアで休憩や買い物をするのだ。

 俺にとっては卒論発表合宿と言うよりは高木のお守りばっかりの2泊3日だった。ヒゲさんの講釈の最中に寝てる高木を起こしたり、晩飯の時にアイツの食えないモンをもらって食ったり。そんなことよりも大変だったのは、千葉ちゃんとのあれこれで。

 恋愛感情という未知の物に随分と苦しめられていたらしく、合宿に来てからもずっとああでもないこうでもないと、千葉ちゃんとの絡みを極力避けながら挙動不審になっていたのだ。結果から言えば、めでたくくっついたワケだけれども。当然俺はすぐに報告を受けたじゃん?


「タカちゃん今日の夜は何食べたい? せっかくだしここで買ってこうよ、アタシ作るし」

「えっ、本当ですか。どれも美味しそうですね。あっ、これミドリが美味しいって言ったヤツですね」

「じゃあこれにする?」

「あっでもちょっと待ってください、こっちも捨てがたい」

「じゃあ全部買ったらいいんじゃない?」


 サービスエリアでは、みんな思い思いにお土産を見て回っていた。それは俺もだし、他の人たちも。高木と千葉ちゃんも例外ではなく、いや、奴らの場合はお土産と言うより自分たちが食うもんやら飲むもんを物色してるっていう感じだ。

 今までは相手を意識して気まずい雰囲気だったのが急に元に戻ったモンだから、察する人はすべてを察した。尤も、察したのは学年に3人ほど。元々高木と千葉ちゃんは付き合う前から付き合ってるかのような距離感ではあった。


「うわっ、千葉ちゃん本当に端から端までカゴに入れとる」

「そりゃ千葉さんだもん、ここでの買い物を視野に入れた金策もしてるはずだよ」

「高木は高木で酒を確保してんじゃん!?」

「元通りだねえ……」

「元通りやわ……」

「安定じゃん…?」


 きっと千葉ちゃんと高木がそれぞれ買い込んでいる食料や酒は、高木の部屋に持ち込まれるのだろう。それで、今までもしていたように2人で飲みながら、それを食う。彼氏彼女になって急に何が変わることもなさそうだ。

 俺はと言えば、高木のお守りから少しは解放されそうなことにほっと一息。少なくとも、恋愛に関してこれ以上悩むことはそうそうないだろう。授業やまだ少し怪しい単位に関しては頑張ってくれとしか言えない。


「鵠沼、お守りお疲れだし」

「安曇野。お前例によってりんごの飴買い込んだのか」

「ゼミ合宿はこれのためだけに来てると言っても過言じゃない。それはそうと、マジでお疲れな顔してるし」

「そりゃあなあ。合宿に来てからもどんだけアイツの「果林先輩が~」みたいな話聞かされてたと思って」

「2人部屋なら余計しんどいし! そんなの、こっちからすれば2年の頃から確定だったのに今更だし」

「本人にしかわからない感情の質の変化とか、琴線に触れる何かがあったんじゃん?」

「そんなモンかねえ」

「でも俺夜そんな得意じゃねーのに2時3時までうじうじ言ってんの聞かされてみろ。で、昨日は報告からの惚気で3時半。マジ眠いじゃん!?」

「ホント、お疲れ。おやきでも食べる? 気の毒だし奢るわ」

「食う。安曇野、サンキュー」


 かぼちゃのおやきを食いながら、サービスエリアを眺めて。合宿も終わりに向かっているからか、みんなどこか開放的な空気になっているのはわかる。一方、俺はと言えばお疲れモード。あとは大学に着くまで惰眠を貪ることになるだろう。眠すぎる。


「おいてけぼりの保護者もいつか何かで報われるかね」

「知らね」


 なんなら俺の事は置いてずっと先に向かってもらっても一向に構わない。今はただただ眠いし疲れた。安曇野に同情されるってどんだけしんどそうな顔をしてたんだよって思うじゃん? それを知らぬは例のカップルばかりなり。

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