時間潰しのボーダーライン

「ぱったり人が来なくなりましたねー」

「テストが終わればこんなものだ」


 星港大学でもテストが終わって、情報センターも閑散期に入った。閑散期はセンターの開放時間も平常期間よりちょっと短くなる。普段は夜の8時までだけど、3月の履修登録が近くなるまでは夕方の4時までになる。

 人が来ないとすることはそう多くない。受付は人が来ないとどうしようもないし、自習室も人がいないからいなきゃいけないこともない。保守保全は閉めのときにやってるから、人が来なければ見直す必要もない。

 俺はA番で、B番の林原さんと一緒に事務所で暇という仕事をしているという感じ。楽なんだろうけど暇すぎてしんどいとはこのことかもしれない。正直、1人でも全然問題ないような気がする。


「この時期って何をしてればいいんですかねー」

「事務所の整理などをだな」

「整理って言っても、プレッツェルがまだまだいっぱいありますしー」

「プレッツェルを食うとかだな」

「プレッツェルを食べるのが仕事ですかー!?」

「一袋ずつ地道に減らしていくほかあるまい」


 いつの間にかバイトリーダーの腕章を引き継いでいた林原さんは、バイトリーダーとしての書類仕事をしている……と思ったら広げていたのは楽譜だったー! そうですよね、林原さんともなれば時間潰しの方法も心得てますよねー!


「最悪誰も来ない日もあるし、座っているだけで終わることもザラだ」

「そうなんですねー」

「9時4時とすれば7時間だろう、日給上限は6000円だが、この時期は給料泥棒という言葉の意味もわからんでもない」

「勉強とかしちゃダメなんですかねー」

「構わんだろう」

「ここのマシンにCADってないですよねー……」

「CADはないな」


 7時間くらいなら丸1日いてもさほど苦じゃないし、このゆったりした感じで6000円もらえるっていうのはすごいなあと思う。そして俺はひっそりとプレッツェルを片付けるという大事な仕事を進めていく。


「春山さんがいない時などはオレが毎日ずっといるなども普通で、そんな生活をしていると月の給料が12万ほどになったこともあったな」

「じゅ、12万……それはすごいですー、リッチですー」

「仮に週3のシフトだとしても72000円か」

「それだけあったら少し贅沢できますねー」


 当然、保守保全業務はしっかりとやっているし、来年に向けた求人の張り紙を作ったりと、それらしい仕事をした上で暇をするのだ。週3だとしても7万オーバーは大きいなあ。

 俺は伝統工芸とかものづくりとかに興味がある。どうせ買うならいい物をっていうスタンスだけど、いい物は値段もいい値段だったりする。だったら、この春休みでバイトを頑張って贅沢するのもいいかなーって。自分へのご褒美!


「でも、ヒマですよねー」

「それをいかに潰すかという話だ。オレも本来ゲームなどを持ち込みたいが、一応勤務中にそういうことはな」

「ピアノの作業をしてるときはエアピアノみたいなことをしてるんですか?」

「そうだな、頭の中に音を鳴らす」

「はっ、あんなところにちょうどいいホウキがあるじゃないですか!」

「ホウキがどうかしたか」

「俺、最近友達に教えてもらってギター始めたんですよー。このホウキでエアでやりますー」


 インターネットでギターの初心者用サイトを開いて、ギターを構える。やることは、コードの押さえ方の復習。タカティとエージに教えてもらいながらやってはいるけど、まだ自分のギターは買えてないから。

 ただ、エアだとちゃんと出来てるかどうかはよくわからないんだよなあ。頭の中で音を鳴らすことは出来なくないけど、それが指の動きと連動しているかどうかはわかんない。まあ、気持ちだけでいいんだろうけど。


「あっ、給料で自分のギターを買ったらいいんだ」

「ほう、それはいい使い道ではないか」

「ですよね、せっかくいっぱい稼げそうですし! わー、楽しみだなー」

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