冬のワイルドレシピ
「わざわざ休みに呼び出してごめんなさい」
「いや、休みだから別にいい。それより宇部、どうしたんだ」
突然宇部から呼び出しを食らった。宇部から呼び出しは部活の現役中ならたまにあったけど、今では部活も引退してそうそうあることじゃない。不思議に思いつつもその場所に向かうと、足元には段ボール箱が。
「白菜がよく出来たそうなの」
「はあ」
「夏に取れ過ぎた野菜を引き取ってもらったでしょう」
「ああ、あんなようなことか」
「今回は特別余ってるというワケではないそうだけど、よかったらって」
段ボール箱の中には大きな白菜が3玉入っていた。どれくらい大きいかって、人の頭くらいだろうか。いや、もうちょっとあるかな。とにかく、今となっては高級品になってしまった白菜だ。ありがたくいただくことに。
白菜はそれ相応の対策をしておけば収穫せずに土の上でしばらく置いておくことも出来るそうだ。だから食べたいときに必要な分だけ畑から取るそうなのだが、畑を空けて次の準備に取り掛かりたいそうで。
「それじゃあ、ありがたくいただきます」
箱の中から大きな大きな白菜を1玉、ありがたくいただいた。そこまではよかった。宇部の視線が俺にじいっと突き刺さっている。無言なのが意図も何もわからないし不気味だ。
「ところで、夏の時にあなたが呼んでくれた友人達も冬野菜に需要はないかしら」
「……例によってまだあるのか」
「大根やキャベツ、それから」
「もういい。需要はあるだろうし声かけるぞ」
「お願いするわ」
――というワケで例によってカズと大石に声を掛けたらやっぱりホイホイと釣れた。実質的2人暮らしとリアルガチ2人暮らしにはやっぱり野菜の需要が大きいようで。
「すげー! 白菜デカッ! ねえちーちゃんおっきい!」
「わー、本当だねー。今は1玉丸ごとなんて買えないもん、すごいよねー」
「えっ、本当にいいんですか」
「どうぞ。よかったら他の野菜も見てもらって」
いつも思うけど、宇部の友達は何がしたくて野菜を育てているのだろうか。いや、育てたいから育ててるんだろうけど、自分で食う以上に育ててないかという気がする。これが学部の畑とは別に管理しているプライベート畑だと言うからどうかしている。
いや、俺も部活の現役中は必要な台本を書く合間に趣味の小説を書いたりしていたから、やらなければならないことの合間に同じジャンルの息抜きを挟む気持ちはわかるんだけれども。畑の場合は研究と関係ない趣味の園芸になるのか。
「あっ、俺小松菜欲しいなー」
「ちーちゃん小松菜好きなの?」
「俺がって言うよりは、兄さんが起きたときに飲むスムージーの材料かな」
「なるほど。俺はブロッコリーもらおうかな。シチューに入れたい」
「あー、いいね! 俺もやろー」
何と言うか、デジャヴだ。カズと大石が野菜を見ながらあれを食べたいこれを作りたいときゃっきゃしているのを、そこまでちゃんとした料理が出来るというワケではない俺はすごいなあと眺めるだけだ。
俺も一通りの野菜はもらっているけど、俺に出来るのは切って炒めるとか煮るとかそれくらい。同じようなレシピでローテーションする未来が見える。部活を引退したらちゃんと自炊しようとは思っていたんだけど。
「カオルはブロッコリーで何やる? グラタン? パスタ? 中華も相性いいよね」
「いやいや、俺はそんな高度なこと出来ねーし。精々茹でてそのままマヨぶっかけて食うくらいで」
「あっ、それもいいよな。全然アリ。冷食のエビをチンして混ぜたい」
「うんうん。それにトマトを添えるだけでもすっごい野菜食べた気になるもん」
「あっ、お前らも意外にそういうずぼらな食い方に否定的じゃないのな」
「料理はするけど食えりゃぶっちゃけ問題ない」
「うんうん」
手元には、買うといくらになるんだよっていう野菜の山。たまにマネキンのバイトをやってるから今日のおすすめレシピは~といったお喋りなら出来ないこともないけれど、それと自分の料理の腕はまた別件だ。知識や発想に手がついて来ないとも言う。
「シンプルでワイルドな食べ方も素材の味がよくわかっていいけれど、朝霞の場合は洋平か誰かにこれを化けさせてもらうことも視野に入れた方がいいわ」
「やっぱそうなるか」
「飽きが来る前に消費しきるという意味でも」
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