プレゼンとプレゼント
「どっこいしょ。ふー、重かったー」
如何せん春山さんとかいう人の暴挙が酷すぎるから、この情報センターの事務所に大荷物を抱えてやって来る奴がいるとロクでもない予感しかない。この繁忙期に、一体何が起こるのかと。荷物を下ろして清々した様子の烏丸以外は固まっている。
「ダイチ、お前が大荷物なんて珍しいな。リンの等身大フィギュアでも完成したか」
「さすがにないでしょうそれは」
「それだったらこんな袋じゃなくてもっといい箱に入れて持ってきますよ」
「じゃあ何なんだ」
「これなんですけど」
「人の頭か」
「春山さんじゃあるまいし。烏丸が死体を解体するとでも?」
「いや、むしろダイチが一番やりかねねーだろ」
「……そうでした。しかし切断した頭部をこんなところには持って来ないでしょうさすがに」
黒い袋の中から出てきたのは、新聞紙に包まれた白菜だ。人の頭ほど、いや、もう少し大きくずっしりと中身が詰まっていそうな白菜だ。白菜はちょうど今頃が旬だし、それを見ると鍋物にしたいような気がする。
「えっと、農業やってる友達からこれをもらったんですけど食べ方がわかんなくて」
「わ、わーっ! 高級品だーっ!」
「これをスーパーで普通に買おうとすると……ダメ、眩暈が」
「ほー、いい白菜じゃねーかダイチ」
野菜は野菜でも、春山さんのジャガイモと比べると規模が一般的だし、烏丸はそれを人に押し付けることをしない。純粋に、食べ方を知らんので教えて欲しいと目をキラキラさせている。ただ、目をキラキラさせているのはその他の面々もだ。
確かに大きな白菜ではあるが、とオレが首を傾げていると、川北が「今白菜は高いんですよ知らないんですか林原さんともあろう人が!」とカリカリと詰め寄って来るのだ。綾瀬によれば、現在白菜は高騰していて、一玉800円などはザラだとか。
尤も、学生の1人暮らしで白菜を丸々一玉などなかなか使えんだろう。……などとタカをくくっていたら、春山さんは「鍋やれば一発で消えるぞ」とオレに呆れたような視線を投げかける。お前はどれだけ世間知らずなのかと。
「とりあえず、友達にも食べてもろてーって5玉もらったんで、1人1玉あげますよ」
「えー!? いいんですか烏丸さん! ひゃーっ! えーっ!」
「そ、そんな…! いくらタダでもプレッツェルと比べると罪悪感が…!」
「おいカナコ、お前私のことディスってんな」
「そんなことないですー!」
「えーと、白菜は1人1玉プレゼントなんですけど、その代わり、美味しい食べ方を教えてください」
これに1人暮らしの面々はよし来たと意気込むのだ。
「浅漬けが美味しいですよー! ご飯と合いますしー」
「ミドリ、パンとは合うかな?」
「あ、烏丸さんの主食って食パンでしたね……えーと、パンと合うかはちょっとやったことがないんでー……」
「パンと合わせるなら白菜と鶏肉のクリーム煮なんてどうですか!?」
「わー、さすがカナコちゃん、オシャレだー」
「白菜がとろとろ~ってして、美味しいんですよ~。きっとパンとも合いますよ!」
川北と綾瀬がやいやいと白菜レシピを競わせている中で、不敵な笑みを浮かべる極悪な人が。また良からぬことを考えているに違いない。
「ふっふっふ、川北もカナコもまだまだ甘いな。和洋中、煮る炒める焼く漬ける、何でも来いの芹さんだぞ!」
「わーっ、真打登場ですねー!」
「きゃー! 春山さんすてきー!」
「趣味の悪い柄シャツの割に料理は本当に出来るから調子に乗りやがってというワケにもいかんな」
「あァん? リンよぉ、毎日同じ黒タートルネックに言われたくねーんだよなぁ~。で、お前は何かあんのかよ、白菜レシピ」
「ああ……オレなどは春山さんからすれば世間も知らんから、鍋くらいしか思い浮かばんでな」
「ユースケ、お鍋ってみんなでやるヤツだよね?」
「最近では1人用のセットも売っているが、鍋を囲んでと言うくらいだから、多人数でやるのがそれらしいだろう」
「よーしお前ら! リンの分の白菜で今日これから鍋やるぞー!」
「やったー!」
「本当ですか春山さん!」
「あれっ、ナチュラルに林原さんの白菜取られてますけど」
「構わん。オレは家にあまり戻らんからな」
センターを閉めたら宴が始まるぞ、と鍋奉行の柄シャツが意気揚々と買い物リストを作っている。会場は川北の部屋だ。鍋をやるには最もまともな部屋だからだ。少なくとも、薄暗く、食欲を削ぐ装飾の多い烏丸の部屋は食品を扱うのに向かん。
「ダイチ、ついでだし冴にも声かけとけ。生存確認だ生存確認」
「はーい」
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