おめでたい日の勢いと
「たのもー!」
インターホンをいくつか鳴らす。浅浦クンちのインターホンにはカメラがついてるし、誰が来たのかすぐにわかっていいね。手土産を提げ、みなもと一緒にアポなし訪問。いるのは嫁に聞いてるんで!
「はい」
「あっ浅浦クンおはよー。遊びに来ました。上がっていい?」
「アンタだけなら追い返すところなんだけど、関さんもいるのか。あまり片付いてないけど、どうぞ」
「やったーおじゃましまーす!」
「おじゃましまーす」
どうやら浅浦クンは部屋の蔵書整理をしているところだったようで、床には文庫がこれでもかと積まれている。その片付け方は本人的にルールがあるらしく、うちには何のことやら。うちも書店でバイトはしてるけど、文房具担当だしね。
みなもは本を読むから積まれてる本のタイトルを見てわーとかひゃーとか楽しそうにしてる。床に正座して体を傾ける。そうやって、本の背表紙をなめるように確かめるのだ。ホント、みなもを連れてきて良かった。
うちはロフトでパウダービーズクッションに体を預けてゲームをやってる。だって本の整理じゃ戦力になれないし、何より邪魔だろうから。そんなことをやってると、浅浦クンが例によって嫁の名前を出して叱ってくるのだ。
「本当にやることが同じだな、このバカップルは」
「うちは何もしないことが最大の手伝い」
「ドヤ顔すんな。うちに来るなりロフトでごろごろするところとかが本当に生き写しみたいだな」
「ある程度片付いたら本題に入りますよ。ねえみなも」
「本を積んだままで本題に移るのは危ないし、手伝うよう」
「そう? それじゃあ悪いけど関さん手伝ってくれる?」
ロフトから、2人の片付けの様子を眺めるのはなかなかに面白い。ベッドの下からも本が出てくるんだから本当にすごいよねえ。そしてしばらくそれを見ていると、みるみるうちに片付いていく。
「――で、本題は?」
「今日は浅浦クンの誕生日ということで、お茶会でも開こうかなと」
「俺の部屋でか」
「ほら、うちらの部屋ってもっとアレですし」
「ですしい」
「まあ、いいんだけど。で? お茶会って言うからにはお茶と茶菓子的な物は」
「こちらになります」
「あるのか。じゃあお湯沸かしてくる」
お茶屋さんで買った少し苦みが強いタイプの緑茶と、甘さ控えめの羊羹とお煎餅。たまにはこういう和な感じのお茶会もいいかなって。洋風のティーパーティーもオシャレでいいんだけどね。
浅浦クンがお茶の準備をしてくれている間に、うちらは羊羹とお煎餅の準備を。お煎餅なんてすごいよ。おっきな角缶に入ってて、食べても食べても減らなさそうで。一応個包装にはなってるから湿気っていう意味では大丈夫そうだけど。
「お茶が入りました」
「お菓子の準備が出来ました。では、いただきます」
「……苦っ。美味いなこのお茶」
「でしょう」
「ドヤ顔すんな。どうせ関さんの情報だろ」
「お茶はうちですー! お菓子はみなもだけど」
「ああそう。まあ、ありがとう」
「どういたしましてよ?」
「なんかアンタのドヤ顔って腹立つな。って言うか関さん、このお菓子、美味しいけどすごい高そう」
「お煎餅は実家がもらったのの余りだからタダだよう。羊羹は羊羹の相場の範囲内の羊羹だよう」
それから、お茶とお菓子のおともにいろいろな話をした。3年がこれだけ集まると将来の話とか。ただ、将来というのが就職とかじゃなくてうちの場合オチ的な感じで結婚とかの話になるから空気の深刻さはそこまででもなく。
テストの話にもなったけど、浅浦クンもみなもも特別危ないということはないし、うちが1人で大騒ぎすることになってますよね。それも自業自得だってバッサリ行かれるのもわかってますよ! 最悪旦那に何とかしてもらえって言われてさ!
だから結局どうしようもない話になる。うちは戦争と言う名の小旅行、みなもは実家のシアタールームで積み円盤の消化、そして浅浦クンは親戚の挨拶や伊東家の皆さんと過ごした年末年始のことなんかを。
「言っとくけど、今年は趣味も程々にしとけよ」
「はーい。年越しそばと年始の挨拶ですよねー、わかってまーす。って言うか各方面から既に釘刺されてまーす」
「わかってんならいいけど。蕎麦食うときになって嫁がいないなんてことになったらアイツがどう説明すんのかっていう話な。まあ、それはそれで見てみたい気もするけど」
「見たいんじゃん!」
そしてお茶を、ずずー。
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