マリンとマリン
「三箇日って言っても結局商戦だね」
「そうですね。僕たちの小さいころはもっと静かだったように思うのですが。賑やかなのは神社仏閣くらいで」
「じゃあ実苑の家の方は賑やかだったんだ」
「そうですね」
新しい年が来て、今でも何通かは届く年賀状の整理やテレビの流す正月番組にそれらしい雰囲気を感じるには感じるけど、結局普段と何が違うのかはよくわからない。街が静かになるということもなく、結局のところはお買物に出かけるだけだから。
去年までとの違いは、親の都合で姉弟になった実苑がいるということ。実苑は星港にある私の家を“実家”と呼ぶようになる前は、長篠エリアに住んでいた。家のすぐ近くに大きな神社があって、そこにお参りすることが習慣だったと。
私の家の近くには、実苑が「ここが僕の生家の前にある神社です」とホームページで見せてくれたような大きな神社はない。だけど、家の近くの神社と星港市内の大きな神社の2つを回る初詣をしたりして過ごしていた。
深夜に出歩いて初詣をする経験はあまりなくて、すごくドキドキした。夜中なのに人がいっぱいいると思って。だけど、何だかんだ昼も人がいるからこの街の人はいつ寝てるんだろうと少し思い始める。
「茉莉奈、散歩にでも行きませんか?」
「えー、寒いー」
「そうは言っても、茉莉奈は正月になってから餅を食べてばかりじゃないですか。たまには外に出ましょう。僕が1人で歩くとまだ土地勘がないので迷いかねないんですよ」
「しょうがないなあ」
コート良し、手袋良し、帽子良し。荷物は財布と携帯だけでいいか、散歩だし。ハンドバッグよーし。
「さ、行きましょう」
「どこを散歩するの?」
「そうですね、少し行ったところに公園がありませんでした? 地図で言うとここなんですけど」
「じゃあ、地下鉄かバスに乗って行かなきゃね」
「え、地下鉄でひと駅ふた駅であれば歩けるのでは」
「公園に入ってからが長くなるから。体力は温存しとかないと」
地下鉄で2駅、星城公園へ。ゆったりと散歩をするのも悪くない。公園の規模の割に人はそんなでもないかなあ。多分、実苑もゆっくりと散歩をすることが目的だったと思うからこれでいいんだろうけど。今までが神社で賑やかだったから。
すると、少し遠くの方から人の声。マリン、マリーンって。誰か知り合いでもいるのかなと思ってきょろきょろしてみると、そっちの方から駆けて来る小さな茶色い犬と、それを追っている大きな男の人。
「待ってマリーン!」
もう一頭、大きなゴールデンレトリバーを連れて小さな犬を追いかけてるその人は、ちっちゃい子に翻弄されて大変そう。でも私は個人的にマリンマリン呼ぶから何事だって感じだし、早く捕まえるか自由に走らせる覚悟を決めて欲しい。
「犬が逃げてしまったようですね。公園ですし、犬の散歩をしに来る人もいるのですね」
「そうだね」
「あっ、君らちょっといい? 悪いけど、アクアのリード持ってて! 大人しい子だから大丈夫だし!」
「えっ、ちょっと!」
見ず知らずの私たちにレトリバーの方のリードを託し、その人は小さな犬を追って走る。今までよりずっと追うスピードが速い。そして、預けられた方のレトリバーは、本当に大人しい。しっかり躾されてるんだなあ。小さい方は今からかな?
「よーし捕まえた! ったく、油断も隙もないなあ」
「あのー!」
「あっ、ありがとー。ほらアクア、マリン、行くよー」
二頭の犬を連れてその人は行ってしまった。本当に慌ただしい人だったなあ。少し行ったところでその人は友達か兄弟か、別の男の人と落ち合って、リードを一本ずつ分け合っている。あれっ、でもあの人どっかで見たなあ。
「茉莉奈、まだあの犬が気になるんですか?」
「ううん、さっきの人と落ち合った人、どこかで見たなあと思って」
「そう言われるとそうですね。……ああ、大学で見たような気がしますよ。確か隣の放送サークルの先輩だったような」
「あー! そうだ謎に私のつばめ先輩がこないだの合宿打ち上げで楽しそうに話してた人ですよ!」
「えーと茉莉奈、カフェにでも入って落ち着きますか?」
「そうする」
「少し休んだらフラワーセンターを見に行きませんか? 僕は少し植物に興味があって」
「いいよ、じゃあそうしよっか」
「ありがとうございます」
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