本題は今の心が決める物

 今日は久々にIFサッカー部の活動……ではあるものの、部長たちがそれぞれの用事で今日はいないらしい。まあ、カズと洋平がいなくたって体は動かせるし、いるメンバーで今年のフットサル収め。


「――ここはライブスタジオか何かか?」

「しょーがねーじゃんよスガー! この後CONTINUEの合わせだし。スタジオ……もとい星羅の家に機材まるっと置いとけるお前とは違うんだ!」

「エージのそれは」

「ギターっす。メンテ出してたんすよ。ちょっとしたことなんで自分でやりゃいーんすけど、そこの店員もレフティで、喋りたい時とかに持ってくっていう」


 カンがキーボードを、緑ヶ丘のエージがギターを背負って集合。さすがに他に自前の楽器を持っているようなメンバーはいなかったけど、一歩間違えばこれからセッションが始まるんじゃないかと思う。

 カンの言うように今日はこれが終わった後で星羅の家……もといスタジオでCONTINUEの合わせがある。あと、年末のイベントに向けた練習だ。流しのラッパ吹きのおじさんは本業に忙しいようで最近は会っていない。


「そーいやカンさんキーボード弾く人なんすよね」

「おうよ! 作曲もするぞ!」

「見かけによらずかっけーっすね」

「そーだろそーだろ! ……って見かけによらずって何だ!」

「偏見なのはわかってんすけど、スガさんのがピアノ弾いてそうっていう」

「それはよく言われる。で、ドラムだって言ったら驚かれるな」

「ドラム=激しいみたいなイメージがあるんすかね、驚く人たちの中には。スガさんの淡々っつーか冷静っていうイメージが激しいドラムとは結びつかない的な」


 一応ピアノも全く弾けないことはないけど、それでも本職のカンと比べたら大人と子供くらいの差はある。俺は黄バイエルに入るか入らないかくらいのレベルで。ブルグミュラーには程遠い。尤も、ピアノを習ってたことはない。

 さてフットサルを、と思ったけど、カンとエージが互いの愛機を取り出してこれがどうで、と語り始めてしまった。ギターとキーボードで何を分かり合えるんだろうかと思うけれど、ペット自慢のような物か。……怒られそうな表現だとはわかっている。

 ピカピカに磨かれた赤基調のエレキギターと、見慣れたキーボードが主によって前面に押し出されている。そして2人がきょろきょろして何かを探しているようだ。……これはひょっとしなくても電気を捜してるな。


「カン、そっちの角にあるぞ」

「サンキュースガ!」

「スガさん」

「ん?」

「俺がやってたバンドはキーボードがいなかったんで凄さがよくわかんないんすけど、機能をちゃんと使えたらすごいっていう」

「カンは好奇心もあるし機械好きだからこういうのは強いんだ。部活でもディレクターだったし。ウチのバンドはカンでもってるようなトコがある」

「見かけによらず凄いっていう」


 機材的なところはカンに任せっきりになってる感は否めないし、作曲だって大体がカンだ。編曲はみんなでやってると言いたいところだけど、まあ、実際のところはお察しで。

 年末のイベントにしても、青山さんによれば全体の割合としてベースが少なめだからという理由でキーボード組はベース的な役割を担うことになることもあるとか。俺はよくわからないけど、愛機の機能でやれるとはカン談。


「年末にいろんなバンドの人が集まるイベントがあるんだけど、それに向けた合わせと練習で忙しいんだ」

「面白そうっす」

「バンドをシャッフルして、他の人の曲をやったりするんだけど難しい曲は本当に難しくて」

「尚更面白そうっす」

「予定がないなら来る?」


 ――なんて軽い気持ちで誘ったら、行くっすと即答されてしまったのだから。でも、ボーカルの出来るギターの割合も少なかったはずだから、エージは重宝されるだろう。青山さんに電話してみよう。ノルマもらえないかな。


「――ということなんですけど」

『そういうことだったらノルマ送るねー。急だしロック寄りの方がいいかな? じゃあちょっと待っててー』

「はーいわかりましたありがとうございますー。……エージ、何かすんなり了承された」

「マジすか。でも、やるからにはちゃんとやるっす」


 そして思い出す。フットサルはどこへ行ったと。いや、楽器を持たない面々はとうの昔にやっていた。部長たちがいないと何だかんだ足並みは揃わないらしい。反省。

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