つながる決起集会
「あっ、カオルちゃんうどんも食べるでしょ? はい、どんどん食べてねッ!」
「ありがとうございます」
「はい、お肉も食べてね――って雄平ッ! 横から取ってかないのッ! カオルちゃんにもお肉食べさせてあげてッ!」
「俺も肉が食いたかったんだよ」
今日は越谷さんの部屋に招かれての鍋大会が開かれている。ただ、周りを見ると知らない人もいるし、本当に適当に声がかかってるんだなということがわかる。萩さんの関係の集まりだとは聞いたけど、詳細はまだだ。
水鈴さんが鍋の世話をしてくれていて、一応この中では“客人”という扱いの俺と、紫色の髪留めをした女子が連れてきたという小柄な男(らしい)が優先されている。越谷さんは安定の横取りスキル発動だ。
「越谷さん、これってどういう集まりなんですか? 萩さんの関係っていう割に、萩さんがいないですし」
「厳密には、裕貴とその彼女が家デートをしているがために居場所がなくなったあやめの救済策だ。ああ、あやめってそいつな。俺のバイト先の後輩。一応青敬でインターフェイスの人間でもある」
「ああ、そうだったんですね。えっと、越谷さんの部活の後輩の朝霞です」
「バイト先の後輩の諏訪あやめです」
「俺らの界隈はお前も含めてコミュ力の塊みたいな奴ばっかだし、全員が全員知り合いじゃなくてもよくね、的な」
そのノリがいかにも学生らしいなと思ったりもする。知らない人同士が簡単に自己紹介をして、互いの素性をすり合わせるところから。何が勢いかって、家主の越谷さんも今日集まっている全員の素性を知らないということだ。
「僕は緑ヶ丘の1年で、浦和実苑といいます」
「実苑くんは美術部で、立体の造形が得意なんですって」
「あやめさんには素敵な写真を見せていただいて。あの肉体が目の前にあると思うと創作意欲が。お鍋が一段落したら越谷さんには是非脱いでいただいて」
「ん? あやめ、お前まさか」
「べっ、別に~」
「越谷さん、諦めた方がいいですよ。美術系の人間ってどこかぶっ飛んでる人が多いって言うじゃないですか」
「朝霞、お前にだけは言われたくないと思うぞ」
「実苑くんとは作品制作のスタンスとかで話が合って仲良くなったんです」
「裕貴は東の朝霞西のあやめって言ってたのに、さらに加わるみたいなコト?」
「えっ、水鈴さん何ですかそれ」
何でも、作品制作に対するスタンスがこの1年生2人と俺とで共通する部分があるとかっていうことらしい。行動範囲を広げていろんな写真や映像を撮りたいがために原付を買ったというあやめの話には大変共感するけれどもだ。
萩さんの彼女というのがあやめの双子の姉らしい。鍋を食べながら、あやめは姉についての愚痴を吐き、それを越谷さんと水鈴さんが受け止めているという感じ。なるほど、これが救済策か。
あやめの話というのがすごく共感する部分が多くて、俺自身言葉を発せずともうんうんと頷くだけで何もかもが伝わるような気さえする。制作中は何においても制作優先にしたいとか、今は制作が一番楽しいから恋愛は別にいいとか。
「実苑くんは彼女いるの? ちなみにアタシは雄平ラブなんだけど」
「お前の情報は要らないだろ水鈴」
「僕は彼女はいませんね。好きな人ならいますが、家の都合で姉弟になったばかりの姉なので少々厳しいですね。でも、法的に問題はないので」
「お姉ちゃんのことが好きなのッ!?」
「はい。星ヶ丘の放送部だと言っていましたから、もしかしたら面識もあるかもしれませんが」
「うえっほげほっ!」
「おい朝霞、大丈夫か」
「すみません。ちょっと噎せました」
ウチの放送部で浦和って言ったらあの浦和だろ。謎に戸田に懐いてて、戸田に近付くためにインターフェイスのイベントに出てみたり、戸田が部内恋愛を嫌うからっていう理由で躊躇なく菅野を捨てた、宇部班の浦和だろ?
「朝霞さん、茉莉奈をご存じですか」
「知ってるけど、アイツの前で俺の名前は出さない方がいいぞ。アイツ、俺のことめっちゃ嫌いだから」
「そうでしたか。と言うと、大好きな先輩を虐げるクソみたいなP、ですね」
「そんな風に伝わってんのかよ」
これには越谷さんと水鈴さんが爆笑しているし、あやめがドンマイですと俺の肩をポンと叩いて豆腐を器に盛ってくれる。しかし、豆腐とか猫舌殺しもいいところだ。どう食おう。
確かに、全員が全員知り合いである必要性は今この場に関しては全然なかった。越谷さんと水鈴さんはもはや夫婦のような貫禄すら見えるし(と言ったら越谷さんに怒られそうだけど)、1年生も変な奴らだけど楽しい連中だ。
「ああ、そう言えばあやめさん。僕の高校の先輩が青敬で放送のサークルに入っていてですね」
「えっ、ホント? 誰だろ」
「長野宏樹先輩という、陽気でおちゃめな先輩なんですけど」
「よ、陽気…? おちゃめ…?」
「そこはそうだねって言っとけ、呪われるぞ」
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