同じ卓に座ろう

 バイト先で妙な打楽器特化バンドを組むことになって、何となく形になり始めてしまっていることや、自分たちのバンドのことなんかを話す昼休み。

 季節問わず寒いことで悪名高い星ヶ丘大学の食堂は今も例に漏れず寒く、回転率こそ高いものの、昼休みともなれば思うように座れなくなる。2限から陣取ってた俺らの勝利だ。


「あ」

「あ。菅野さんこんにちはです。席ないので相席いいですか」

「俺はいいけど、カン、お前は」

「別にいいですよー」

「お邪魔しますです」


 トレーにパスタを乗っけてやってきたのは1年の浦和茉莉奈。宇部班のプロデューサー候補生で、アシスタントプロデューサーのAPを自称していたように思う。

 ただ、風の噂によれば浦和は新たに放送部の部長となった柳井と大喧嘩をして班を飛び出してしまったらしい。宇部がいないなら班に未練もないし、お前なんかとやれるかとブチギレて。


「浦和、聞いたぞ」

「何をです」

「柳井と大喧嘩して班を飛び出したとか何とかって」

「アイツが悪いです。どうもですよ。引退した人には迷惑かけないんでご心配なく」


 浦和は宇部班だったこともあって、一応は幹部寄りだった俺ら菅野班とも少しは話したことがあるという間柄だ。ステージに対しては真面目で、とにかく真摯という印象。ただ、変に突き抜けたところもある。これに溜め息を吐くのはカンだ。


「お前相変わらず突発的に動くクセが治らないっつーか、良くも悪くも一直線過ぎんのな。で? 宇部班もとい柳井班を飛び出して、行く当てはあんのか」

「つばめ先輩の班に入りたいんですけど」

「うわ、出た。お前相変わらず謎の戸田信仰続いてんのな」

「信仰とか胡散臭い言葉で片付けないでよ、私のつばめ先輩への愛は山より高く、海より深く、マグマより熱く、空より広く」

「へーへー、その結果捨てられた男の戯言ですよ」

「別に嫌いでフったワケじゃないんだからさー、もういいじゃんです?」

「あのな、フった方は良くてもフられた方はその理由を引き摺るぞ」

「わはは」

「うわー、棒読みです」

「うるせースガ! 勝利者の余裕かぶん殴るぞ!」


 何を隠そう、カンと浦和は5月ぐらいだったかな、に1ヶ月くらい付き合っていた。1年生の5月って言ったら大学生活にも慣れ切ってない頃なのに何かいろいろスピード展開過ぎないかと思っていたら、カンがフラれるのも早かった。

 カンと浦和が部室でちょっといちゃいちゃしていたときのこと。そこに荷物を取りに来た戸田と鉢合わせ、戸田は「そんなに盛りたいならホテルに行け」と吐き捨てた。それで浦和は雷に打たれてしまったのだ。

 何とかして戸田と親密になりたいと考えた浦和は、部内恋愛を気色悪がる戸田のためにまずはカンを捨てた。インターフェイスのイベントにも出た。班こそ宇部班に居続けたけど、そこを出てしまえば行く場所はひとつ。


「つばめ先輩て何であんなに部内恋愛が嫌いなのかなです」

「それこそ、部室をホテル代わりにするとかザラだし単純に目障りだからじゃないか?」

「スガ、お前俺に何か恨みでもあんのか」

「いや、特に。俺は戸田に目をつけられてなかったと思うから別に何とも思わないんだけど」

「あ、そういや菅野さんも部内恋愛です。って言うか菅野さんて存在感薄いですよね今思えば! あの班長達の中だったらダントツで薄いです!」

「やーいやーい薄いってよスガ!」

「時として、薄い方が余計なトラブルにならなくて済むこともあるんだぞ」


 カンに近い友達だからか、浦和は俺に対してもどこか無遠慮な気がする。気の所為か?


「それはそうとさ、太一もそろそろ彼女探したらどうです?」

「そう簡単に見つかりゃ苦労しねーよ」

「まあ、そうですよねえ。第一印象でまず太一を彼氏にしようとは思わないですよ」

「ンだと茉莉奈! あっ、つかミートソースいい匂い。一口ちょーだい」

「はい、いいですよ。あーんがいいです? それとも自分で食べます?」

「じゃああーんで」

「はい、あーん」

「うまっ。たまに食うと美味いなこれ。850円!」

「大誤算です。正解は550円ですよ」


 フォークに巻いたパスタをあーんで食べさせ合うとか俺と星羅はやらないし、元カップルにしてはラブラブが板についたままだし本当に別れた意味がわからない。ここまで来ると戸田って何だという疑問が沸々と。今度洋平にでも聞いてみるか。


「ホント、お前ら何で別れた?」

「つばめ先輩が素晴らしいからです」

「だ、そうです」

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