遠き夢と迎えた現実

「えーっ! 別れたんだ!?」

「そうなんだよ。せっかく紹介してくれたのに申し訳ないけれど」


 バイトの休憩時間中、僕は然るべきところに近況を報告していた。ちなみに僕はドラッグストアでアルバイトをしている。レジ打ちや商品の補充などの仕事が主かな。まあ、レジが多いかもしれないね。

 それはそうと、報告しなければならない近況というヤツだね。少し付き合った彼女と別れてしまったということだ。何故かというと、その彼女を紹介してくれたのが大きな声で驚くこの子、須賀星羅さんだからだ。


「新しい門出なんだ!」

「ん、そうだね」

「でも、合わなかったんだ?」

「そうだね、合わなかったようだよ」

「そうかー、なんだ。でも、何がいけなかったのかを考えて次に生かせるんだ」


 出会いを求めていた頃に、僕に友達の女の子を紹介してくれたのが星羅だった。きっとうまく行くんだと太鼓判だったから何回か会って付き合うことになったんだけど、その結果がああですよ。


「星羅は彼氏さんとはどうなんだい?」

「あっ!」

「ん?」

「お土産なんだ!」

「どこかへ行ってきたのかい?」

「泰稚と夢の国に行ってきたんだ!」


 そう言って星羅は机の上に夢の国で買ってきたクランチチョコレートを置いた。みんなで分けて食べてくださいとメモ書きを置いて。そして、彼氏さんと行ってきた夢の国での写真と思い出話をこれでもかと僕に投げつけてくる。

 べっ、別に羨ましいだなんて思ってないんだからねっ! まあ、少しはいいなあと思うのだけれど、あの強烈な彼女の後だともうしばらくは一人でいたいなあと思ったりもしていて。あと野球はしばらくいいです。そう言うと星羅は「リーグ戦は春までないんだ!」と返してくれたよ。


「ボクは元気になったら夢の国に行くのが夢だったんだ。お父さんが連れてってくれるって言ってたんだ。でもお父さんはなかなかオフがなくて、元気になったのに夢の国は先送りになってたんだ」

「それで、彼氏さんと行ってきたのかい」

「泰稚、お父さんにどうして自分より先にボクを夢の国に連れてくんだって言って怒られてたんだ」

「お父さんとしては確かに複雑だろうね。いくら忙しいとは言っても小さい頃からの娘の夢を、ぽっと出の彼氏に横から盗られたんだから」

「それで、お父さんとはユニバに行くことになったんだ」

「あ、そうなのかい」


 星羅の彼氏さんはすでにお父さんからも公認を得ているらしく、日頃から仲良くしているそうだ。怒られはしたものの、星羅をよろしくとお願いされていたとも。なんか、伊東以外にもそういうカップルっているんだなあって。

 そして夢の国を奪われたお父さんの代替策がまた。東がダメなら西へ行こうみたいな感じかな。星羅は昔、体が弱くて入退院を繰り返していたそうで、今のように元気に歩き回ることも夢のうちだったとか。お父さんにとっても悲願だっただろうね。

 星ヶ丘の薬学部にいるのもバイト先がドラッグストアなのも、自分の境遇やこれからのことを考えてのことだそうだ。飲みやすいお薬を作りたいのと、お薬が身近にある環境でいろいろ勉強したいんだ、とのこと。


「幸せそうで何より」

「あ。そう言えば、こないだ圭斗の車をうちの前で見たんだ」

「うちの前、と言うか向かいのマンションの駐車場だろう?」

「そうとも言うんだ! サークルの友達に用事だったんだ?」

「そうだね」

「あのマンションなら女の子の友達なんだ!」


 ちなみに、星羅の家は菜月さんが住んでいるマンションの真ん前。菜月さんも、マンションの前には白い壁の大きな一軒家があって、庭には猫がたくさん歩いてると言っていた。でも、星羅曰く猫は野良らしい。


「その子を彼女にするか、その子に友達を紹介してもらうんだ!」

「残念ながら彼女は恋愛対象にないし、その子は僕に友達を紹介してくれないと思うんだ」

「そうなんだ?」

「さ、そろそろ戻ろうか」

「戻るんだー」


 星羅は小さな体をぴょんぴょんと弾ませるように店内へ戻っていく、僕は菜月さんの残念な生活状況を振り返って、やっぱり恋愛対象にはならないなと確認するだけの作業。彼女。クリスマス。うーん……フラグが自然発生するのを待とうか?

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