ABステップ
「1回だけしか着ないのは勿体ないので普段からも着れるのがいいかなと」
「ですよねー。まあでもタカちゃん線細いし女物でも多分イケるよ」
「そうですかね」
今日は果林先輩と買い物に出ている。その買い物というのが、ひょんなことから出ることになってしまった大学祭の女装ミスコンに必要な物を揃えるという……何とも言えない買い物で。
女装と言うだけあって、やっぱりある程度はそれらしく見えるようにはしなくてはいけない。ただ、コスプレ用のあからさまな服や一度しか着れないような服にお金を使うのも勿体ないなといつもの病が発症していて。
果林先輩は俺の線の細さを理由に何でもイケるとは言うけれど、俺ってそんなに細かったっけと首を傾げて。伊東先輩だったらまあ、確かに線は細いし女物の服でも普通に着れそうだけど。俺はさすがに、とまだ思っていたいワケで。
「タカちゃんの素材が素材だし、やっぱりインテリ系かな。メガネ生かしたいよね」
「と言うかメガネがないと見えないので」
「ですよねー」
「メガネをかけてるからインテリというのも安直な気がしますけど」
「いっちー先輩は絶対可愛くなってくるはずだから、対比でクール系インテリかなって思ってたんだけど」
「伊東先輩に合わせる必要性があるんですか」
「そりゃあ、様々な需要があるワケだしどうせ焼きそばを買うなら自分好みの売り子さんから――おっと」
「何も聞こえてませんよ」
どうやら女装で食品ブースの売り子をしなければならないのではないかという疑惑が浮上したところで、話は本題へ。はてさて、クールなインテリ系とは。俺はメガネをかけているだけでクールでもインテリでもないから少しイメージがつかない。
「それでさタカちゃん、大事な問題」
「何ですか」
「タカちゃんて、女の人の胸は何カップが好み?」
「え」
何か今日の買い物に関係あるのかないのかわからない変な質問が飛んできたけど、地味に困るなあ。だってそんなこと考えたことがないし。見ただけで大体のサイズ感がわかるほど精通もしていないワケだし。
「いや~……好みと言われても……アルファベットで言われてもわからないと言いますか」
「そっか。えっと、アタシはAA。おハナはB。なっち先輩はDで」
「あの、あまり個人情報を出さない方がいいかと。人によってはデリケートな話題ですよね」
「ちなみに高ピー先輩は巨乳嫌いで」
「そうなんですね」
「いっちー先輩は巨乳好きのおっぱい星人だけど」
「それは知ってます」
「でも、今回のミスコンでは自分の線の細さで大きすぎてもおかしいっていうのでCくらいに抑えるって。あっそうそう、タカちゃんの性的嗜好じゃなくて女装するならって意味の好みね、聞いてたのは」
「ああ……胸を作るならという意味合いですか」
胸の大きさだけが女性性を表すものではないとは思うけど、女装をしていますとわかりやすくするにはそれが手っ取り早いのだろう。ただ、俺はスカートを辞退したからある程度の胸は作った方がいいんだろうなと思わないこともなく。
「ちょっとイメージはつかないんですけど、伊東先輩がCなら自分はDくらいでもいいんじゃないかなとは思い始めてきました」
「おっ、行っちゃう? お姉さん張り切るよ! ただ、問題は自分にない物をどーやってタカちゃんに再現するかですよねー」
「まあ、果林先輩は今が一番いいかと。あまり大きくても果林先輩らしさを損ないますし。要らないと思います」
「何かフォローさせてゴメンね! でも、アタシらしさか。なるほど。ヒゲめ、胸のことばっかり言ってきてー! いつかぎゃふんと言わせてやる!」
「ええと、ヒゲというのは佐藤教授ですか」
「ですよねー。いっちー先輩がさわやかなおっぱい星人だとしたらアイツはスケベジジイだからね!」
必要な物を買ったら、俺の部屋でクラフトとファッションショーが繰り広げられる。買い物で何が恥ずかしかったって、女の人の下着屋さんに入ったこと。果林先輩と一緒になって、クールなインテリ系っぽいDカップの下着を探すのは苦労した。
ただ、こればっかりは1回使ったら引き出しの奥に眠ることになりそうな気がする。果林先輩も「アタシは使えませんしー」って言ってたし、何より着用済みの肌着を横流しするのはどうかと。
「女の人の下着は上下で一対になってるんですね」
「タカちゃんの部屋に帰ったら、パンツも穿けるか見てみないとね」
「えっ、穿くんですか!?」
「それくらいしないといっちー先輩を脅かせないでしょうよ。目指すは2位、お酒の詰め合わせセットでしょ?」
「……そうでした」
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