安心安全暗黙の暗躍

公式学年+2年


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 そろそろ日付が変わろうかという時間帯。ガソリンスタンドの方にはたまに人が来るけどカフェの方はまばら。人が来ないことはないけど、すごーく長居するかテイクアウトで済ませるかのどっちかという感じ。

 誕生日なのにバイトかーと文句を言ってみたけど曜日の巡り合わせだからどうしようもないし、誕生日だからシフト入れませーんなんて言ったらデートか何かを疑われる。それはそれで面倒だしそんなイベントは縁遠い。


「いらっしゃ、……あれっ!」

「あ、果林先輩お疲れ様です」


 カランコロンとドアにつけてあるベルが鳴り、来客を告げる。たまーにあるんだよね、こういう変な時間に知り合いが来るパターンのヤツって。

 今やって来たのはタカちゃんと鵠さん。大方、ゼミ終わりで学祭の準備をしてそのままって感じかな。タカちゃんは多分鵠さんの部屋に泊まってくんだろうね、大学から徒歩5分だし。


「タカちゃんもしかして鵠さんの後ろに乗って来た?」

「ですね」

「鵠さんて実際あんま2人乗りしないよね」

「高木がどうしても来たいって言うから仕方なく」

「鵠さんもお腹空いたって言ってたじゃん。せっかくだし何か食べようよ、結構コスパいいんだよ」


 何にしようかなあと、タカちゃんと鵠さんは上の方にあるメニュー表をじっくり眺めて考え込んでいる。こんな風にレジ前で悩むというのは、人の居ない深夜帯だからこそ出来ることではある。


「千葉ちゃん、これってフードはどれがお勧めとかあんの」

「うーんそうだなー。鵠さんにはねえ、食べ応え重視で炭火焼のサンドかなー。肉だよ肉。アクセントのネギも美味しいよ」

「じゃあ俺はそれと、ドリンクは柑橘ジュースのM」

「タカちゃんは?」

「えーと、俺はカフェラテと……フードはどれがお勧めですか」

「タカちゃんはねえ……あっ、チーズとベーコンのホットサンドはどうかな」

「じゃあそれにします」


 お店に他のお客さんがいないのをいいことに、2人の分を社割価格での提供。あんまりやらないけど、たまにはね。

 鵠さんからは今度学食で社割返しすると嬉しい宣言。学食でアルバイトをしていると、リアルな食費が節約できるからいいよね。タカちゃんは割と鵠さんの社割の恩恵を受けてるらしい。

 バイトをしてないから返す社割のないタカちゃんは、今度飲むときに1杯分の何かを……と“らしい”返し。別に見返りを求めてるワケじゃないからいいんだけどね。


「タカちゃんどう? ゼミの方は。ラジオで駆り出されるでしょ?」

「あ、それなんですけど、今年は自由の身になりました」

「えっどうしたの! タカちゃん疫病神なのに自由とか!」

「千葉ちゃん、コイツひでーんすよ。そろそろ自由になりたいとか言って自分の後輩を生贄にしたじゃん?」

「シノにも経験を積ませなきゃいけないと思うんだよね」

「あっ、タカちゃんもしかして」

「MBCCのミキサーが2人いるとこういうときに楽でいいですね」


 去年はアタシと一緒に大学祭の賑やかな空気からは少し離れたラジオブースに軟禁されていたタカちゃんだったけど、今年はゼミにやってきたMBCCの後輩にその役割をバトンタッチしたみたい。もちろん、最低限の手解きをすることを条件に。

 自由に大学祭を楽しみたいというのもそうだけど、MBCCの機材部長としてそっちの方でもバタバタしてるからゼミにつきっきりではいられなかったんだとか。そういやアタシも去年はそうだった。大祭実行の手伝いとかしてたよね。


「果林先輩も大学祭には来てますよね」

「うん、来てる来てる。ゼミの4年でブース出すし」

「よかったらなんですけど、空いた時間に一緒に回りませんか?」

「えっ、回る回る! タカちゃんからのお誘いだなんて嬉しいなあ。行くよ、楽しみにしてる」


 ホットサンドのチーズをうにょろんと伸ばしながら、それなら確実に時間を作りますねとタカちゃんは鵠さんに目で訴える。タカちゃんのワガママに振り回されてきてる鵠さんは、しょうがないじゃんとシフトを考え直す作業に入るのだ。テーブルの上には仮のシフト表。


「で、千葉ちゃんはどこが空いてるとかって」

「アタシここら辺とここら辺は空いてる」

「だったら俺はこの辺空けてよ鵠さん」

「タカちゃんMBCCは?」

「MBCCは最悪何とでもなります。一応機材部長なので」

「わー、いっちー先輩もビックリの職権濫用だー」

「つーか何で俺がお前らのデートのお膳立てをしなきゃいけないんだ?」

「そういうんじゃないけどなあ」

「ですよねー」

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