神々への捧げもの
「わーっ! タカティが神様に見える~!」
「俺から見ればミドリの方が神様だよ」
「WIN-WINってこういうことを言うんだね!」
「うん、多分そうだと思う」
ミドリから突然連絡が来た。何やら切羽詰まっている様子だから事情を聞いてみると、ジャガイモに埋もれて死んでしまうかもしれない、と。ジャガイモに埋もれて死ぬなんて相当だ。
話によれば、バイト先の先輩から大量のジャガイモを押しつけられて困っているとのことだった。それが俺が思うような量ではなく。その先輩の親戚の人がジャガイモ農場をやっている関係で旬になると大量に送られてくるんだそうだ。
「タカティ、いくらでももらってって!」
「いくらでも?」
「いくらでも。早く捌かないと次の分に押し潰されちゃう」
「えっ、まだ増えるの?」
「増える可能性がないとは言えない」
くれるって言うなら10個くらいもらおうと暢気なことを思っていたけど、10個減ったくらいでどうしたの、というレベルで聳える芋の山。俺の部屋ならエイジも来るし、もう少しあってもいいかな。調理法は知らないけどエイジが何とかしてくれるかな。
「あっ、ミドリちょっとゴメン電話だ。はいもしもし」
『あっタカシー、13日の金曜無制限やるから空けといてねー』
「はい、わかりました」
電話は伊東先輩からだ。何か今日は忙しいなあ。そして無制限飲み開催の知らせは久し振りだなあ。酒量も時間も無制限の宅飲み、それがMBCCの無制限飲み。飲みたい物や食べたい物は各自で用意するのがルール。
「13日って誰の会ですか?」
『果林の誕生会。厳密には12だけどその日果林バイトだから、土曜跨ぐ感じでやるってー。あと、果林の回だから食べ物と飲み物はいつも以上に気合い入れてきてね』
「了解です。場所はどこですか?」
『エンドレスで料理するから俺の部屋』
「あ、伊東先輩は例によって料理なんですね」
『MBCC流のオクトーバーフェストも兼ねてるから、ジャガイモ料理めっちゃ練習してるんだよ』
「あれっ、もしかするとジャガイモに需要あるような感じですか?」
『果林の回だし、どれだけあっても足りないよね』
目の前には、無数のジャガイモ。そして心なしか涙目にも見えるミドリ。10個くらい、なんて暢気なことを思っていたけど、ゼロをもう一つ増やしても何の問題もないのではないか。そんなことを思い始める。
「今、星大のミドリの部屋にいて、ジャガイモをくれるって言うんですよ。ジャガイモに需要あるなら多めにもらっておきましょうか」
『もらえるならありがたいけど、本当に大丈夫なの?』
「何か、量をもらうことが人助けになるそうなので」
『わかったー、じゃあお願いねー。あっ、高ピーも何気に食べるから!』
「わかりました」
電話を切って、改めて芋と向き合う。果林先輩という名前が出てきた瞬間、聳える芋の山が脆弱な物に見えてくるのだから怖い。果林先輩、高崎先輩、それから俺の当分の主食。そう考えるともらうべき量がわからない。
「ミドリ、とりあえず50個もらえる? まだ要りそうなら追加連絡するし」
「うんうん、いくらでも持ってってー! タカティ本当にありがとう~!」
「あっ、伊東先輩の練習用にも少し差し入れした方がいいのかなあ」
「運搬するなら手伝うよ!」
「じゃあ、今から行って大丈夫そうか聞いてみるよ」
そしたら、快くオッケーをもらえましたよね。とりあえず、無制限用にもらった50個とは別に25個のジャガイモを袋に詰めてミドリの車に乗り込むことに。あっ、そっか。どうせ無制限の会場は伊東先輩の部屋なんだからそっちも持って行こう。
「何て言うか、桁が違うよねやっぱり。芋を押しつけられたのってミドリだけじゃないんでしょ?」
「いろいろスケールの大きい人だからね……ちなみに俺の倍以上押しつけられてる先輩もいるよね」
「ええー……」
「タカティに連絡が付いて本当によかった。緑ヶ丘の皆さんは神様だよ」
「まあ、果林先輩がいるし食べ物はいくらあっても本当に足りなくなるから」
「でも、ジャガイモばっかりで飽きちゃわない?」
「伊東先輩が何とかしてくれると思う」
ジャガイモを届けに伊東先輩の部屋に行ったらちょうどレシピ研究の真っ最中で、俺もミドリも美味しいジャガイモメニューをごちそうになってしまったというのはまた別の話。
調理法やメニューのバリエーションに感動するし、何より出された物が本当に美味しい。俺もミドリもちゃんとしたご飯に感動したよね。伊東先輩ならこの大量のジャガイモを何とかしてくれるだろうという希望が確信に変わった。
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