真の報酬はどこにある
前門の高ピー後門の慧梨夏とかいう八方塞がり感。おまけに左右を見渡せば京子さんにも話が行っているとかいう四面楚歌。ガチで逃げ場がない。俺は否応なしにうんと言わされ、大学祭の女装ミスコンへの出場が決まった。
「――まではしょーがねーかなって思うけど、お前は何なんだ浅浦!」
「いや、お前がどんな劇的改造をされてるのかなと思って」
「浅浦クン、カズはそこまで劇的に改造しなくても十分美少女だから」
うちに浅浦が冷やかしに来た。何でも、俺にその話が伝わる前から浅浦には話が漏れていたらしく、わざわざ俺を冷やかすためだけに2日目の土曜日はバイトを休みにしたんだとよ。ふざけんなよこの野郎。
慧梨夏のコンテスト用メニューは壮絶だ。夏の間、日に焼けまくった肌をケアするところから始まりスタイルアップ術だの服のコーディネートだの、立ち振る舞いにもメスが入る。例え家でも脚を広げて座ったら怒られるんだぜ。
今も俺は顔に美容液がひたひたになったパックを貼っていて、腕や背中は慧梨夏がボディクリームをつけてマッサージしてくれている。もちろん、慧梨夏本人がそうしているところは見たことがない。
と言うか、学祭は秋冬だから腕や背中は服で見えないだろうし別にいいんじゃねーかと思うけど、慧梨夏が言うには女装の魂は見えないところから、とのことらしい。何のこっちゃだし、浅浦は爆笑してるのが腹立たしい。
第一、俺がこれに出ることになったのは優勝商品を取るためだ、某有名オーディオメーカーのカタログの中から好きな物を一つ。放送サークル的には実にうまい商品だ。サークル費を浮かすにはもってこい。浮いた金で飲み会を豪勢に出来る。
「と言うか、仮に伊東が優勝したとして、アンタには何か報酬はあるのか」
「ノンノン浅浦クン、うちはカズを女装させられたというだけで十分すぎる報酬なんですよ」
「浅浦、慧梨夏はこーゆーヤツだぜ」
「そういうところもひっくるめての、薬指だろ?」
「はぁー!? 浅浦お前、お前がそれを言ってくるとかふざけんなテメー! 表出ろやぶん殴ってやる!」
「カズ、言葉が汚い! 言い直し!」
「あ、はい。えーと、丁寧に喧嘩売るって難しいな」
慧梨夏の薬指には誕生日のデートで贈った指輪がキラリと光っている。もちろん浅浦はそういう事情も何から何まで知っているので何かもうアレ。この野郎腐れ縁上等だちきしょい。
あと、これは煩悩になるけどせっかくそこまで女子化させられるなら女装デートもアリだという話にはなっている。もちろん、絶対女装バレしないことが条件になるし、優勝できたらだけど。だから余計に気合いが入ってんだよな、慧梨夏が。
「浅浦クン、うち、思ったワケなんですよ」
「ん?」
「ほら、女の子って彼氏出来たら綺麗になったとかそういう話もあるでしょ?」
「スキンシップがいいとも言うな」
「だからこう、カズもスキンシップで劇的な美少女にならないかと。それでね」
「いや、いい。アンタが次に何を言うか何となくわかったからもういい、最後まで言うな」
「慧梨夏、俺も悟った。絶対に言うなよ」
「息がぴったり…! ほらー、2人がスキンシップするべき!」
「言いやがった」
慧梨夏が通常運転すぎて。でもまあ、そういうところもひっくるめた上での薬指なので、ね。慧梨夏は妄想がフルスロットル。同じところばかりクリームでマッサージされてもうホカホカだしヌルヌル。あーあ、太股なんてひっでーな。
「浅浦、今からちょっと慧梨夏にお灸据える」
「わかった。俺は帰るし、程々にな」
「ちょっとー! やだー、浅浦クンたすけてー」
「アンタ、伊東のそういうところもひっくるめてそれを受け取ったんだろ?」
「うっ」
「スキンシップがいいって言うし、2人でコンディションを上げてくれ」
「きゃー、いやー、たすけてー、襲われるー」
「棒読みもいいトコだな」
顔に貼っていたパックを剥がして、戦闘態勢。浅浦はこれからすることを察して帰ってくれたし、さすがその辺は腐れ縁。さて、まずは太股をべったべたにされたこのクリームをどうするかだな。
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