So the world is wonderful

 菜月先輩のデカ盛りスイーツシリーズはこれまでにいくつかあったけど、とうとう新作がお目見えした。過去のデカ盛りはバケツプリン、バケツアイス、それから5リットルのコーヒー寒天。新作は、なんと、なんと!


「じゃーん。見ろ、カンザキ」

「菜月先輩、これは何です?」

「今日の日のためにうちが作った新作だ。見ろ!」


 そしてお目見えした菜月先輩の新作にMMPは拍手喝采、狂喜乱舞。ただし、俺を除く。菜月先輩のデカ盛りスイーツシリーズはいつもなら大喜びなんだけど、今回は喜べない理由があった。


「巨大どら焼きだ! ちなみにこっちがコンビニで買える普通のどら焼きな」

「菜月先輩、本当にこれを作ったんです?」

「あんこも煮ました。カンザキの誕生日だし、口実にしようと思って」

「いえいえ、楽しい物を見せていただいてありがとうございます。あの、ちなみに私も味を見ることは出来たりしますか? これまでのデカ盛りは大体菜月先輩の当面の食料ということで私たちは見るだけだったじゃないですか」

「今日はみんなで分ける前提で作ってきてるぞ」

「やったー、うーれしーい」


 そう、今回のデカ盛りシリーズの新作はどら焼き。あんこが「えっこれ何センチ積んだ?」ってくらいに挟まれていて、見るだけでもげんなりする。何を隠そう俺はあんこが嫌いで、どら焼きなんてもってのほかだ。

 コンビニで買える普通のどら焼きとその大きさを比べてみても、意味が分からない。みんなはどら焼きをふたつ並べた写真をパシャパシャ撮っていて、その撮影会には俺も参加したけど食欲は湧かない。


「生地はフライパンで焼いたんだけど、それだとどうしても直径に限界があるじゃないか。精々25~26センチってくらいで」

「そうですね」

「それなら高さを出そうと思ってあんこはちょっと固めにして。水分を飛ばしてるような感じ」

「どら焼きと言うよりはあんこケーキですものね。まあ、どちらでも私は嬉しいですが」


 どら焼きと言えば2枚の生地の間にあんこを挟んで完全に包まれている物というイメージが強い。形は円盤型か土星型と言うのがしっくりくる。ただ、菜月先輩の持ってこられたこれは2枚の生地の間にあんこを挟んだだけだ。いや、挟んだと言うか生地はおまけに見える。

 さっそく切り分けようと菜月先輩がどら焼きらしき物体に刃を入れていく。如何せん高さがあるから結構難しそうだ。あんこを食べられる面々はうきうきしてるけど、俺は存在感を消すだけだ。


「菜月さん、ところであんこの甘さはどんな感じかな」

「ちょっと甘いかもしれない」

「それじゃあ僕は少なめでいいよ。菜月さんが甘いと言うととんでもない物が出てくるかもしれないし」

「そうか。ノサカも食べれないしな。まあ、カンザキの取り分に上乗せしとけば間違いないか。ああ、そうだノサカ、お前用のも一応用意してあるんだ」

「えっ、俺はあんこは」

「同じ生地に生クリームを挟んだだけのヤツだけど」

「喜んでいただきます!」


 さ、さすが菜月先輩…! 一生あなたについて行きます!

 なんという救済措置だろうか。これを作っていらっしゃる段階でどら焼きが食べられない俺のことも念頭に置いていただいた別メニュー!

 仮に生クリームがお好みで別添えする用の物だったとしても、実質的ホットケーキを用意してくださる菜月先輩の優しさが身に沁みるぜ!


「菜月先輩、甘めですけど小豆の味が死んでなくて美味しいです」

「そうだろうカンザキ」

「菜月先輩の生クリームはいつ食べても最高です!」

「そうだろうノサカ! そしてうちはどら焼きと、生クリームを、こうだ!」

「ああーっ!」


 どら焼きに生クリームをトッピングしてうまうましていらっしゃる菜月先輩が可愛らしいので世界は素晴らしい! 今日ばかりはこーたもありがとう! お前じゃなければどら焼きというチョイスにはならなかっただろうしな!


「今年は平和的で本当に良かったですよ」

「去年は三井にイジられて酷い目に遭ってたもんな」

「あの悪夢は思い出したくもないですね。今年はサイコー! 菜月先輩サイコー!」

「そうだろうそうだろう。やっぱたまにやらないとダメなんだよデカ盛りは」

「そうですよねえ」

「で、このどら焼きは結構費用がかかったと思うけど、サークル費を滞納している件についてはどう説明するのかな、菜月さん」

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