花を育む土壌の質は
「春山さん、こんな感じですか?」
「クーッ、いいねェ。やっぱ受付はかわいコちゃんじゃなきゃな!」
春山さんが、ワケのわからないことを始めた。ブルースプリングの方でたまに顔を見ていた演劇部の綾瀬香菜子が、何故か情報センターの受付席に座っている。もちろん、センターのスタッフとして採用されたわけではない。
確かに、人相と態度の悪い春山さんよりは、美貌と実力で演劇部の看板女優を張る綾瀬が受付席に座っていればセンターの印象もグッと良くなるだろう。ただ、センターに入り込んだ印象が如何せん悪すぎる。
「どうですか雄介さん!」
「知るか。スタッフでもない者が何故事務所にいる」
「リン、そうツレないコト言うなよー」
「大体アンタは何なんですか、綾瀬を受付席に座らせたりセンターの雑務をさせるなど。勝手にも程があります」
「いいじゃんか、本人が研修生になりたいって言うんだから」
「お願いします雄介さん!」
「オレは断じて認めんぞ」
「ま、リンが認めなくてもリーダーは私だし、研修生制度がないなら作ればいいじゃん的な?」
ブルースプリングの方で顔を合わせているうちにオレと春山さんはやたら綾瀬に気に入られ、とうとうセンターにまで顔を出すようになってしまったのだ。挙げ句センターの研修生になるだと?
そんな話聞いたこともないし、いつだったか、烏丸と綾瀬がここで出勤してきたオレを出迎えたときは本当に酷かった。その酷さは言葉では言い表せんくらいだ。綾瀬の言動からは邪な煩悩が滲み出ている。そんな風にしか見えんのだ。
「おはようユースケ!」
「ああ、烏丸か」
「あっ、カナコちゃんおはよう」
「おはようございます烏丸さん」
「あっ、センターのジャンパーもらったの? 今日からスタッフ?」
「いいえ、ジャンパーは春山さんのです。スタッフにはまだなれそうもないですね。でも、ここまできたら雄介さんに認めてもらうまで頑張りますよ!」
「フッ、精々ムダな努力をすることだ。オレは断じて認めんと何度言えばわかる」
「ああああっ! ごちそうさまですっ! ごちそうさまですありがとうございます雄介さん! そうやって突き放して、冷たい目で蔑んでくださいっ…! はあああっ……イイ、ゾクゾクするぅ……」
「しまった」
厄介なのは綾瀬香菜子の性癖だ。眉目秀麗、文武両道。誉められるのに飽き飽きしていた綾瀬が高校で出会った“先輩”からの叱咤に雷を打たれて以来それがエスカレート。突き放され、冷たくされればされる程に快感を覚える性質があった。
オレが綾瀬に懐かれた(?)のも、ブルースプリングの方で明らかになった露出性癖の方を罵ったのが始まりだ。頭では綾瀬を悦ばせるだけだとわかってはいるが、オレの口が綾瀬を蔑んでしまうという悪循環に陥っていた。
「リン、諦めろ。カナコとの相性もバッチリじゃねーか」
「相性バッチリ? ふざけるのも大概にしてください。何が悲しくて露出狂との相性を計られねばならんのだ」
「コスプレの露出は必要範囲内です!」
「オレはコスプレのことを言っているのではない。あれはあれで文化だろう。オレが言っているのは必要以上に脱ぎたがり、布面積の少ない下着姿を見せつけようとした上で侮蔑の眼差しを待つ性癖が厄介だと言っているのだ! 必要以上に脱ぐ奴はセンターに2人も要らん」
「冴ちゃんのは着替えや汗の処理なので必要な脱衣じゃないですか。なので必要以上に脱ぐのは私だけです! さあ!」
「何が「さあ!」だ! そもそもお前の露出でオレがどうなればいいんだ! 性器を勃起させればいいのか! だとすれば諦めろ。お前などで反応するような浅ましいモノはしとらんぞ」
「イイ……それもまたご褒美ですぅ…! 浅ましいのは綾瀬ですから…!」
「だーっはっはっは! リンめ、同じコトを何遍も繰り返してやがるぜ!」
「ったく」
大笑いしたまま春山さんは、これからも来たいなら来ればいいと綾瀬を歓迎した。何度でも言うがオレは認めてないし、これからも認めるつもりはない。研修生制度が悪いとは言わん。綾瀬なのが問題なのだ。そもそも、センターのスタッフは基本理系だが、綾瀬は文系だろう。こんなことが続くなら、これからもどっと疲れそうだ。
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