仮にやるなら華麗にお疲れー

「でだ! カレーを作ることには決まったけど、お前ら接客は出来るか!」


 高井圭希が無駄に張り切っている。この岡本ゼミでは異質の熱さ。属性に分けるなら間違いなく火属性であろう高井が、いまいち上がり切らないオレたちの尻を叩く。そもそも、何故ゼミ室に集められてカレーの話をしているのかというところに話は遡る。

 高井は今年専門学校から星大に編入してきて、大学でのイベントはすべてが初めてだ。高井ほどムダに熱い男が大学祭といういかにもなイベントに熱を上げないはずもなく、ゼミ生に確認を取らずに勝手にブース出展の申し込みをしやがったのだ。

 有無を言わさず巻き込まれたオレたちはやる気もそこまでなく、個々人が立てていた元々の予定もあるしで乗り気ではない。しかしそんなことにもお構いなくカレーの話を続ける高井だ。


「接客? そんなもの、カレーと金の受け渡しをすればいいだけだろう」

「高井、リンに接客とか本気で言ってるのか」

「……悪いことは、言わない……リンに接客は……」

「おい、ちょっと待て。確かにオレはセンターでも受付は好かんが、出来んという訳ではないぞ」

「その愛想と態度の悪さから殺害予告出されてる奴が愛想よく接客出来るとは思わない」

「何を言う。オレに恨みを募らせるからにはそれ相応のことをしでかしているのだろう」

「あーはい情報センターの話はいーから! リンに接客は出来ない! これでいいな石川!」


 それをあっさり納得されるのも非常に腹立たしいのだが、受付や接客等の仕事は好かん。仮に大学祭の道楽だとしても、それらしい接客をしろと言われれば出来んと胸を張って言えるだろう。

 石川に言われるならまだ諦めも付く。奴は外面だけはいい。奴はドーナツ店でバイトをしているが、バイトの時も当然優等生の「石川クン」の皮を被って応対していることだろう。オレにはマネの出来ん芸当だ。

 それ以外にも石川はコミフェ等のイベントでスペースを持ったりしている。大学祭の人混みなど人混みのうちにも入らんだろう。ある意味石川は接客や応対のエキスパートと言えよう。それは認める。

 しかし、威勢しかないであろう高井と、日常的に接客の経験があるわけではない美奈に言われる筋合いもない。オレをバカにするからにはお前たちはそれなりに接客が出来るのかと。


「やっぱり女子がいた方がいいし、福井さんは接客って」

「巫女のバイトで、するくらい……」

「超特殊じゃんか!」

「一般的な接客と、大差はない……と、思う……」


 しまった、それがあったか。しかし美奈は基本的に調理監修に回らねばならんはずだ。食えん物を作っては元も子もない。と言うか、接客が出来んと言われるなら、オレは調理の方を担当すれば良いのではないか? そうだ、そうしよう。


「高井、オレに接客が出来んと言うならオレは身の程を弁えて調理の方に回ってやろう」

「うっわお前なにそれエラそー!」

「お前より調理が得意であることは試作会の段階で証明されているからな」

「ぐっ」

「人当たりのいいお前と石川が接客、愛想も態度も悪いオレは調理に回って、美奈に補佐してもらえばしっくり来るではないか。さすがオレ様だ、妙案ではないか」

「……リン、いいアイティア……」

「リンてめえふざけるな、何が悲しくてブース番なんかしなきゃいけないんだ」


 こうなれば争いは終わらない。そもそも、高井以外は巻き込まれただけなのだ。やりたいならお前が1人で勝手にやれという話で解決するのだが、何故か誰がどの番をするのかを話し合ってしまっている。これは罠か。


「いいかリン、よく考えろ。高井とブースに残されるとか苦行でしかないだろ」

「わからんでもないな。煩そうだ」

「えっ、ちょっと待てよどーゆー扱いなんだよ俺は!」

「そういうところが煩い」

「間違いないな」

「……わかる、気がする……」

「リン、俺はお前よりも調理が得意だし俺も調理に回ろう。で、接客は高井に投げとけばよくないか」

「まあ、それでいいか」

「問題ない……」

「ちょっと待てよふざけんなお前ら! やる気出せよ!」

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